君に恋を

河嶋 亜津希

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『それで、はぁちゃんは拗ねちゃってまだなにも話してないと』

「…うん」

放課後、誰もこない図書室で志津希と電話をする。夕方の暖かい太陽が差し込んでいた。

『春くんとこから帰ってもないんだ。』

「うん、なんかタイミング失って…」

『意地っ張りなとこは本当一緒だね。』

「確かに」

奈津希は苦笑いを浮かべる。どうすれば葉津希と仲直りできるのかわからなかった。家から離れてしまって余計にどうしたらいいかわからない。メールも電話もできない。

『電話ぐらいしてみたら?』

「その勇気があったらとっくにしてるよ。今は電話しても出てくれなさそうだし…」

何度も発信ボタンを押しかけて躊躇して結局諦めていた。

『僕も冬休み入ったらそっち帰るけどさ…』

「頑張ってみるよ、なるべく」

志津希にはそう言うものの奈津希には自信がない。葉津希と話をする時間もなくきっかけもないのだ。

『なぁちゃん、春くんとなんかあった?』

志津希の問いかけにどきっとした。奈津希は無意識に自分の手首を見つめていた。まだ春に掴まれた感覚が残っている気がしてならない。あの手を掴む強さが忘れられない。

「どうして?なにもないよ。」

『そう?ならいいんだけどさ…』

納得がいかない。そんな声だった。やっぱり志津希には隠してもばれてしまうらしい。だけど本当になにもないのだ。春の態度は変わらない。変わったのはきっと奈津希のほうで春に極力近づかないようにいている。期待しなければ落ちることもない。國彦の言葉でそれがやっと思い出せた。なにかあったとするならば元に戻ったが正しい。春に自分の想いは届かない。自覚していたつもりだったが近くにいすぎて忘れてしまっていた。春の優しさが奈津希に目隠しをしていた。

『そろそろ夕方の点呼だから切るね?』

「うん、ごめんね。忙しいのに電話して」

つんと鼻の奥が痛くなるのを我慢して電話を切った。もたれている本棚にずるずる伝いながら床に座る。力が抜ける。携帯をぎゅっと握ってため息を吐いた。

「河嶋くん?」

ぱっと顔を上げると華蓮が不思議そうに奈津希を見ていた。手には本を持っている。奈津希は慌てて立ち上がった。

「ごめん、返却?」

「…うん。誰もいなくて、河嶋くん具合悪いの?」

奈津希が受付カウンターに向かうと華蓮も後をついてくる。なんだか気まずい。

「大丈夫だよ。ちょっと目眩がしただけで…」

「河嶋くん、無理してるでしょ。」

奈津希の声を遮った華蓮は困ったように笑っている。核心をつかれて心臓が脈を打つ。受付の椅子に座った奈津希は思わず息を吐き出した。そのまま受付に突っ伏する。

「なんかあった?」

「んー…ちょっとうまく行かなくてさ…いろいろ」

受付の前に立った華蓮と目を合わせると話してみてと語りかけられるようだった。奈津希はその目に少し頷くと華蓮を受付のなかに通した。
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