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しおりを挟むぼーっと携帯をいじる。ちょうど志津希からの返信が入っていた。
〝ごめん!連絡するの忘れてた。24日に帰るよ~〟
いつもの文章。奈津希はカウンターに突っ伏しながらメールをうつ。
〝わかった~俺は26日か27日に帰る!〟
パタンと携帯を伏せた。あー早く帰りたい。特に人が来る気配もなくあるのは静けさだけ。奈津希はしばらく動かずにじっとしている。ひとりの時はうじうじ考えがちだ。奈津希のなかで様々な顔が浮かび上がる。葉津希、志津希、そして最後には絶対に春だった。だけど今はそれを阻む人がいる。國彦の柔らかな笑顔。奈津希は悲しい気持ちになった。心臓が痛くなる。奈津希がふたりを天秤にかけて選ぶなんておこがましいことはできるはずない。國彦とご飯に行ったことはいまだに春には話していない。奈津希が息を吐き出したときちょうど携帯が鳴り始めた。奈津希は画面を見ずに通信ボタンを押す。
「もしもーし…」
『…』
相手はなにも応答しなかった。奈津希は眉をしかめる。誰だ。だらしなく垂れていた体がぴゃんと立った。少しだけ緊張する。奈津希に電話をかけてくる人なんてそうそういないからてっきり志津希か葉津希だと思っていた。奈津希が思考を巡らせている間も電話の向こうからはなにも聞こえてこない。
「あの、誰ですか…?」
奈津希が声を振り絞った途端、ブチッと不快な音を立てて電話は切れてしまった。奈津希は呆然とする。
「なんなんだよ…」
単純に怖い。画面を見ずに電話をとってしまった奈津希も悪いがさすがに無言電話なんてくると思っていなかった。奈津希が固まっているとまた軽快な音が響く。奈津希はビクッと体を震わせる。恐る恐る画面を見た。そこには見知った名前が表示されている。慌てて携帯を耳に当てた。
『もしもしー?なぁちゃん、』
「志津希っ!さっき電話した?」
志津希を一気にまくし立てる。奈津希はさっきの電話が志津希であってほしいと切に願っていた。
『なに?そんな慌てて…今初めてなぁちゃんにかけたよ。』
心臓がぎゅっと締め付けられた。体が固まってしまう。
『なぁちゃん?大丈夫?』
黙っている奈津希に志津希は戸惑いながら声をかけた。奈津希は少しだけ息をついて志津希に返事を返した。
「ごめん、大丈夫。どうしたの?」
志津希に無駄な心配をかけたくない。きっとただの間違い電話だ。奈津希は自分に言い聞かせる。
『うん、いや…たいしたことないんだけどさっ。クリスマスなぁちゃんはどうするのかなって思って!』
志津希の声が明るくなっていつものふたりに戻る。志津希はちゃんと距離感をわかっている。奈津希はほっとして普段通りに志津希に返した。
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