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しおりを挟む部屋のドアを開けてパチンと電気をつける。なんにも変化のない部屋が奈津希の目に映った。ふらっと中に入る。心にぽっかり穴が空いたようだった。ひとりになって口から出てくるのはため息ばかり。頭に浮かぶのは春のことばかり。奈津希は吸い込まれるようにベッドに転がり込んだ。泣いて腫れた目が少し痛い。
「…ご飯食べたかな」
冷蔵庫にまだなにかあったかな?考えたくなくても考えてしまう。奈津希の世界は春で回っていたからだ。奈津希はベッドから起き上がって窓を開けた。ひんやりとした風が吹き込んでくる。奈津希の目の前に暗い部屋が現れる。主がいない部屋は当たり前だが電気がついていない。いつだって春は奈津希のそばにいて優しく包んでくれたのに今はその手がいないのが辛い。最近は近くにいすぎたのかもしれない。春が全部悪いわけじゃない。國彦と食事に行ったのを奈津希はちゃんと言わなかった。あの日ちゃんと春に言っていればこうはなってなかったんだろうか。奈津希はぼーっと真っ暗な窓の外を見つめていた。すると突然こんこんとノックの音が響いた。奈津希は思わずびくっと肩を震わせる。
「なぁちゃん、入っていい?」
控えめな志津希の声がドアの向こうから聞こえてくる。奈津希は慌てて窓を閉めた。
「っ、どうぞ。」
奈津希が返事をするとゆっくりドアが開いて志津希が顔を覗かせる。
「お邪魔します」
「どうしたの?なんかあった?」
奈津希が不思議そうに顔を向けると志津希は困ったように笑った。
「それは僕のセリフじゃない?なぁちゃん」
うっと胸が詰まる。確かに志津希が言っていることは正しかった。志津希は勉強机の椅子を引いて奈津希と向かい合うように座る。
「言いたくないならいいんだけどね。無理には聞かない。」
「言いたくないわけじゃないんだけど…」
なんだか伝えにくい。今更志津希に隠すことはないけど兄弟にしていい話なのかがわからなかった。
「春くんに嘘ついて…俺も春くんに嘘つかれた、」
ぽつんと奈津希は呟いた。小さくても志津希には伝わると奈津希は確信していた。
「嘘、かぁ…」
考え込むように志津希は上を向く。なんだか後ろめたくなって奈津希は志津希から目をそらした。
「なぁちゃんはよく頑張ってるよ。春くんのために一生懸命。それはきっと春くんにも伝わってると思う。」
「そ、なのかな?」
「うん。きっとそう、だから春くんがどんな嘘ついてなぁちゃんがどんな嘘ついたかは知らないけど春くんにもなぁちゃんにも理由があったからでしょう?」
志津希の言葉はすっと胸に入り込んでくる。奈津希はきちんと志津希に向き合った。志津希の表情はとても優しかった。
「…春くんのそばにいたかった、ずっと一緒にいたかったんだっ、でもそれだけじゃやだ…」
奈津希の涙は枯れることがないかのように溢れ出す。志津希は手を伸ばして奈津希の頭を優しく撫でる。
「うん。なぁちゃんはよく頑張ったね。」
涙を拾い上げながら奈津希は首を縦に振った。春に奈津希の全てが伝わればきっと今まで通りの関係なんて取り戻せない。だけどこの関係のまま足踏みしているのが奈津希にはもどかしくて苦しいのだ。春のそばにいたいと願ってそれだけでいいと思っていた。でもそばにいればいるほど近づけば近づくほどわがままになっていく。奈津希はしばらく志津希の前で子供のように泣いた。志津希はそれを黙って受け止めてくれる。奈津希の涙が落ち着いてきたとき志津希はまたぽんぽんと奈津希の頭を撫でた。
「ね、なぁちゃん。僕のお願い聞いてくれない?」
「、なに?…」
「久しぶりに三人で一緒に寝よう?昔みたいにさ!」
きっと志津希は奈津希が寂しくならないように言ってくれている。だけど奈津希が気を使わないように自分のお願いだと言ってくれたのだ。奈津希は迷わずにうんと志津希に返事をした。
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