無敵の力で異世界無双~ただし全裸~

みなみ

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降臨~バカじゃないの?~

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 急にエナが倒れたから心配したが、どうやら眠っているだけのようだった。
 しかしさっきのあの輝きはなんだったんだ?
 魔力ではない別の何か……エナは先に謝っておくと言っていたが、今の魔法を使うことで自分がこうなることをわかっていたんだろうか?
 疑問は尽きないが今はそれを気にしている場合でない。
 俺は立ち上がり神獣を睨みつける。
 どうやらまだあの全方位攻撃をするほどの力が溜まっていないようだ。
 先ほど二連続で使ってきたのは俺たちを一気に倒すために無理をして畳みかけてきたんだろう。
 俺たちも苦しい立場にいるが、それはもしかしたら向こうも同じなのかもしれない。

「……シューイチ私はどうしたらいいの?」
「本来なら封印の唄とやらを歌ってもらいたいところなんだけど……」

 生憎、それがどんな歌なのかは判明していない。
 だがエナはフリルならなんとかできると信じて自分が倒れるのを覚悟でフリルを助けたのだ。
 そのエナの想いにだけは絶対に報いなければいけない。

『宗一さーん、聞こえますかー?』

 とその時、場にそぐわない間の抜けた声が俺の脳内に響いてきた。
 あのバカ本当に空気読まないな……こっちは切羽詰まった状況だってのに!

『なんだよシエル!今大ピンチなんだから、世間話なら後にしてくれ!』
『知ってますよ、私だって見てましたからね』

 なら余計に話しかけてくるなよ。

『ちょっと詳しく説明してる時間がないので簡潔に言いますが、三分くらい耐えてもらえませんか?』
『なんで!?』
『そちらに行くのにちょっと準備が必要なんですよ!三分耐えてくれたら絶対になんとかなりますから!』
『本当だな!?もしなんとかならなかったらお前のいつも着てる白いワンピースに水ぶっかけてスケスケにして写真撮影してやるからな!?』
『フェチ度が凄い!これは責任重大ですね!じゃああと少しだけ頑張ってくださいね!』

 その言葉を最後にシエルからの念話が途切れた。
 あいつはこの緊迫した状況でも変わらないな……呆れるとともにその無駄な能天気さに少し気分が和らいだ。

「テレア、あと三分したらシエルがここに来て状況が一変するらしいから、頑張って三分間耐えるぞ!」
「え?なんでシエルお姉ちゃんが?」

 あーあいつの正体をぼかすの面倒くさいったらないな!あとでシエルに言ってテレアだけにはシエルの正体を話してもいい許可をもらっとこう。
 そんなことを考えていると、前方二メートルほど先に例の黒い霧が出現し、そこから小型サイズの神獣もどきが5匹出現した。

「また面倒くさい奴を出してきやがったな……」

 俺はともかく、あの亀恐ろしく硬いらしくて、素手で戦うテレアと相性が悪いんだよな。

「テレアなら大丈夫だから、お兄ちゃんは神獣の方に行って!」
「でも大丈夫なのか?あいつ硬いから攻撃したテレアがダメージ受けるだろ?」
「大丈夫だよ、多分やりようはあると思うから」

 テレアがそういうなら任せておこう。
 どの道俺が神獣を押さえないと三分どころか一分すら耐えられないのだ。

「わかった!でもテレア、亀だけじゃなくて頭上にも気をつけろよ?さっきみたいにピンポイント電撃落とされるかもしれないからな?」
「うん!」
「フリルはなるべく壁を背にしておけ?そうすれば後ろから攻撃されることはないから」
「……うい」

 二人に注意を促したあと、俺は神獣に向かって駆けだした。
 前方に三匹ほど小型神獣がいたのでついでに蹴散らしておいて、テレアの負担を減らしておく。
 撃ち漏らした残りの二匹が後ろのテレアに向かっていくが、テレアは高く飛び上がり―――

「ええ―――い!!!」

 身体強化を両足に集中させて、いつぞやの槍の男の武器をへし折った時のような落下の勢いを加えたドロップキックを一匹の小型神獣にお見舞いする。

「―――!?」

 上からの圧力に加え、自身の硬い甲羅が仇となり、その硬さと重圧に耐えきれずに小型神獣はテレアによって押し潰されて黒い霧となって霧散した。
 そういや日本にいたころ、雨が降ったあとってなぜ亀が陸に上がってきてて、車に轢かれてしまってる場面を見たことがあるんだが、あいつらの甲羅って確かに硬いけど上から押しつぶされると実はひとたまりもないんだよね。

「えいやっ!!」

 さらにもう一匹残っていた小型神獣を掴んで観客席に向かって放り投げた。
 あれなら倒すことは無理でも、最小限の魔力消費で一時的に敵を無力化できるな。
 もはやさすがと言わざるを得ない。
 リリアさんがテレアを天才だと言っていたが、それを実感せざるを得ないテレアの戦いぶりだった。
 これならなんとか三分は耐え切れそうだな。

「さっきはよくもやってくれたな?おかげでこっちは大惨事だ!」

 ようやく神獣のもとに辿り着き見上げなら言った俺に対し、神獣が赤く濁った眼で俺を見下ろし睨みつける。
 相手のことを言えた義理じゃないがよくも好き放題やってくれたもんだ。
 ラフタさんは俺にはこの公演会場をめちゃくちゃにしてもいいとは言ったが、てめえには言ってないからな? 

「ルオオオオオオオ――――――――――――――――――――――――!!!!」

 今までとは違う、ひときわ長い咆哮が終わると周囲のそこかしこに無数の黒い霧が現れて、そこから大量の蝙蝠と小型神獣が湧き出てきた。
 ちょっと待て!あまりにも数が多すぎる!?
 こんな大量の数、テレア一人じゃ捌ききれないぞ!
 いよいよもって本気で俺たちを倒しに来てるようだ……どうする?俺ならこの数でもなんとかなるかもしれないが、今神獣から目を離すわけには……!

「シューイチ!待たせたな!!」

 その時ラフタさんを筆頭に、各々に武器を持ったルーデンス一座の団員たちがテントへとなだれ込んできた。

「ラフタさん!みんな!?」
「うわっこりゃ思った以上に大変な状況じゃねーか!みんな!アタシらの家族を守るためにあいつら全員ぶちのめすぞ!!!」

「「「「「おお――――――――――――!!!」」」」」

 ラフタさんの号令を合図に一座の団員たちが神獣の召喚した無数の魔物に向かっていく。
 正直助かったが、それでもまだ魔物のほうが数が多い。

「シューイチ君!」

 今度は誰だ!?
 テントの入り口を見ると、そこには数人の冒険者を引き連れたこの国の冒険者ギルドのマスターであるクエスさんが立っていた。

「遅くなってすまなかった!戦える冒険者を集めるのに手間取った!」

 実は公演が始まる前に俺は冒険者ギルドに足を運び、今日の一座の公演中に神獣が復活するかもしれないから、念のために戦える冒険者を集めておいてくれと頼んでおいたのだが、この土壇場でどうにか間に合ったようだ。

「ありがとうございます!正直助かりました!!」
「気にしなくていい……が君はどうして裸になっているんだ?」

 やっぱりそこ気になりますよねー。

「今はそこはスルーしてもらえると」
「……わかった!ではすまないみんな!協力してくれ!」

 クエスさんを先頭に、ギルドの冒険者集団たちが戦いに参戦してきたことで、一気に総力戦となった。
 大量の魔物を召喚された時はどうしようと思ったが、これでどうにかなりそうだ。
 あとは……!

「ルオオオオオオオ――――――――――――!!!」

 例の無差別全方位攻撃をしようとする神獣を俺が抑えればいい!

「やらせるかよ!!」

 魔力剣を作る時間が勿体ないので、俺は身体強化で飛び上がり神獣の顔面に渾身の右ストレートをぶち込んだ。
 例のごとく神獣の頭が消し飛び再生を始めるものの、どうやら全方位攻撃のためのチャージを中断させるには十分な効果があったようだ。
 正直今の状況であの攻撃をされてしまったら、俺以外全滅も十分にありえるからな……絶対に撃たせるわけにはいかない!

『シューイチさん!今どうなってますかー?』
『お前さんは本当に俺のシリアスをブレイクするのが得意だなぁ……』

 相変わらず呑気な念話を飛ばしてきたシエルに対して、俺は呆れたようにそう返した。

『割としっちゃかめっちゃかになってるけど、どうにか無事だよ!』
『フリルちゃんは無事ですか?』
『テレアが守ってたし、エナがなんかよくわからない方法で回復させたからピンピンしてるよ!』
『とりあえず大丈夫なんですね?じゃあ今からそっちに『降臨』しますねー!』

 降臨?
 俺がその単語に疑問を持った瞬間、突然後方からまばゆいばかりの光が発生した。

「え?なんの光だ!?」

 驚いてその光の方に振り替えると、フリルのもとにまるでスッポトライトのように光が当たっていて、頭上から羽を羽ばたかせて一人の少女が降りてきた。
 つーかあれシエルだよな?
 フリルが突然降り注いできた光と頭上からいきなり現れたシエルに驚いた顔をする。

「……だっ誰!?」

 さすがのフリルもあまりの事態に驚愕の声を上げる。

「人の子よ……私は蘇った神獣を鎮めるための力をあなたに与えるべく、この世界の創造主様の命を受けこの世に舞い降りてきました、神の使いです」
「……神獣を鎮める力……?」

 あまりにも神々しいその光景にテレア含めその周囲にいるフリルを守っていた人たちが目を奪われている。
 その場にいるテレアと目が合い「あれってシエルお姉ちゃんだよね?」と俺にアイコンタクトを飛ばしてきたので返事をする代わりに俺は頷いておいた。
 ていうか何やってんだあのアホは?

「さあ、この力を受け取りなさい……」

 そう言ってシエルがフリルの頭に手を乗せると、フリルの身体が突然輝きだした。

「その力をもってして、神獣を鎮める歌を歌うのです……さすればこの戦いは終わりを告げることでしょう……」
「……でもどんな歌かわからない……」
「神獣を鎮める歌に決められた形はありません……あなたはあの神獣を鎮めることを心に強く想いながら、あなたの心の赴くままに歌を紡げばよいのですよ……」

 その言葉を最後に、シエルは再び空へと舞い上がっていき、光と共にその姿を消した。
 周囲の人間はなにやら感動した面持ちだが、俺はというと今の一連の出来事を冷めた目で眺めていた。

『どうでした?どうでした?今の私最高にそれっぽかったですよね!?』
『いやその……なんていうか……何やってんのお前?バカじゃないの?』

 思わず素で突っ込んでしまった。
 まさか今の一連の演出のために三分待てとか言ったんじゃないだろうな?

『なんですかそれ!折角人がこの状況を打開する起死回生の手段を持ってきてあげたというのに!』
『えっと……とりあえず今この場でフリルが何か歌えば神獣を何とかできるの?』
『はい!……本当はちゃんとした「鎮めの唄」が存在してるんですが、それを覚えて歌う時間なんてないですからねー!なので今回はいろんな手段をすっ飛ばしてフリルちゃんの歌が自然と鎮めの歌になるように力を与えておきました!』

 青いネコ型ロボット並みに便利な存在になってきたな、この神様見習い。
 しかし今この場に限って言えばよくやってくれたと言わざるを得ないな!

「フリル!!」

 俺が大声で呼びかけると、事態について行けずに茫然としていたフリルが弾かれたように俺に顔を向けた。

「歌うんだ!この亀野郎にお前の歌を聴かせてやれ!!」
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