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気配~月明りの監視~
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ピピピピ……ピピピピ……。
聞きなれた電子音で目を覚ます。この通信機、ご丁寧にアラーム機能までついてて何気に便利だな。
時間にして二時間くらい寝たかな?俺はもぞもぞと起き上がり寝ているみんなを起こさないよう物音に気を付けながらテントから這い出た。
「あらシューイチ様?もう時間ですのね?」
「うん、見張り交代するよ」
テントの外で焚火を前に見張りをしてくれていたレリスに、俺は交代時間が来たことを告げた。
「本読んでたの?」
「はい、エナさんに魔法書を借りたので」
そう言ってレリスが本の表紙を俺に見せてきた。
エナはこういった魔法書を何冊も持っており、暇さえあれば読みふけっている姿をよく見かける。
俺も一度読ませてもらったことがあるんだけど、まだこの世界の文字を覚えたての俺では独特の言い回しや専門用語などを理解できなかったのでちんぷんかんぷんだった。
「中々興味深い内容でしたわね……エルサイムに着くまでの間、できるだけ沢山読んで知識を蓄えたいですわ」
「勉強熱心だねぇ」
言いながら俺はレリスの隣に腰を下ろした。
この暗い中本を読むとかどうなの?と思ったが、焚火の明かりは思ったよりも明るく、月明りも手伝って本を読むくらいなら支障のないレベルだった。
「というか見張りしてもらってごめんね?」
「構いませんわ!そもそもわたくしから言い出した事なのですから、どうぞお気になさらずに!」
盗賊から助けてもらったことによほど恩義を感じているらしく、今日は馬車を引くことはもとより飯まで作ってくれて、こうして見張りまでしてくれた。
いくら恩を感じてくれてるとはいえ、ここまでしてもらえると逆にこちらが恐縮してしまう。
恩を売ったからと言って、それを笠に着るようなことはしたくもないし、するつもりだってないのだ。
「あの場でシューイチ様とテレアちゃんに助けていただいてなければ、今こうして本を読んでいることなどできませんでしたから」
もしあの場でレリスが盗賊の不意打ちを受けて負けていたらと考えると、ゾッとするな。
そう考えるとレリスがここまで恩義を感じるのも頷けてしまう。
「とりあえず見張りは変わるから、レリスは休んでいいよ?」
「えっと……シューイチ様、もし良ければ少しお話しませんか?」
「ん?別にいいけど……?」
眼が冴えてしまっているのだろうか、レリスがそう言ってきたので俺は快く快諾した。
「シューイチ様は、わたくしの素性に気がついてますよね?」
「まあ……ね」
エナ曰く、レリスはエレニカ財閥のお嬢様だそうだ。
この世界のことをまだよく知らない俺からすれば、異世界の財閥のお嬢様なんて言われてもピンとこないのだが、普通に考えたらこうして気軽に話せるような身分の子じゃないんだろうなぁ。
というかあまりにもフランクに接してくれるので、本当にお嬢様なのかと疑いたくなってしまう。
「てっきりもっとそのことを追及されるとばかり思っていたのですが」
「追及してもいいの?」
「答えられる範囲でありましたらいくらでも」
そう言ってレリスが上品に微笑む。
さっきはお嬢様なのかと疑ってるなんて思ったが、こういう何気ないしぐさがお嬢様然としてるよなぁ。
エナも魅力あふれる子だけど、レリスはまた違った魅力を持ってる女の子だ。
「それじゃあ聞いてもいいかな?」
「どうぞなんなりと」
「なんであんなに料理上手なの?」
「え?……料理は趣味なので、気が付いたら上手になっておりましたわね」
「そっか」
「はい……」
レリスの料理美味かったもんなぁ……エルサイムに着くまであと2日くらい掛かるからまた明日頼んで作ってもらおうかな?
もちろんフリルのキャンプ料理だって美味しかったぞ?
フリルはなんというか家庭的な味のする料理だったが、レリスの料理は本格的なレストランとかで食べる料理みたいな感じなので、そもそも土俵が違うので比べても仕方がないのだ。
……なんか飯のこと考えてたせいでお腹すいてきた。
「あの……それだけですか?」
「え?なにが?」
「いえ……聞きたいことはそれだけなのかと……」
「じゃあもう一ついい?」
「はい!」
「明日俺に剣の使い方を教えてほしいんだけど」
「……それは勿論いいですけど……」
よっしゃ!テレアとは毎日訓練してるけど、あの子武器使わないからそっちの訓練は疎かになってたんだよね!
レリスがいる間に基本的な剣の使い方をしっかりと教えてもらえれば、これからは独学でも剣の練習ができるようになるぞ!
「あのシューイチ様」
「なに?どしたん?」
「もっとないんですか?わたくしに聞きたいこと」
「そうだな……」
さすがにスリーサイズ聞いたらぶん殴られるよな?
レリスはそれはもう大層立派なバストを持っておられるので、そのサイズがぜひとも気になるのです。
エナは容姿は抜群にいいが、その部分だけが非常に残念なんだよね……。
「……どこを見てるので?」
「レリスのつけてる鼻眼鏡高そうだなぁと思っておりましたがなにか?」
レリスが恥ずかしそうに両腕で胸を隠して身をよじったので、咄嗟の機転で誤魔化した。
「はあ……殿方のそういう目線には慣れておりますが……」
「すいません、根が正直なので……あっ小指くらいなら詰めますんで?」
「いりませんわ」
なにやら呆れたようにレリスがため息を吐いた。
「シューイチ様は変わった方ですわね」
「最近それ良く言われるんだよね?全然そんなことないのに」
「わたしくが関わったことのある殿方の中で三本の指に入りますわ」
それ絶対光栄なことじゃないよね?
「わたくしの素性とか気になりませんの?」
俺が中々その話題に行かないので、しびれを切らしたのかレリス自らそこに斬りこんできた。
「そこはあんまりかなー?それを知っても知らなくても多分レリスはレリスだろうし」
「……そうでしょうか?」
「まあ、出会って一日も経ってないのに何言ってんだって話だけどさ、それなら尚更レリスが何が好きで何が嫌いな女の子なのかを知りたいって思うね俺は」
そう言った前提があって初めて相手の込み入った事情に踏み込むべきだと思うんだけどね。
いきなり相手の聞かれたくないことを根掘り葉掘り聞くなんて、そんなの頭おかしい奴のすることだろ?
「なんだか皆さんがシューイチ様を信頼している意味がわかりましたわ」
「信頼……されてるのかな?」
「ええ、皆さんがシューイチ様をとても頼りになされているのを感じますもの」
少なくともテレアは俺に懐いてくれてるのはわかるんだけどね。
エナも出会ったばかりのころに比べたら、大分遠慮がなくなってきた気もするけど、これも信頼されてるということなのかなぁ?
フリルは……うん……まあ?
「きっとシューイチ様の人徳のなせる業なのでしょうね」
「結構いい加減なことばかりしてた気もするんだけど……」
「皆様と一緒にいると仲間と共にこうして旅をするのも悪くはないと思いますわね」
「そんじゃ俺たちの仲間になっちゃう?」
俺の誘いにレリスは首を横に振った。
「魅力的な提案ですが、今はわたくし一人の力でどこまで出来るのかを試したいと思っておりますので」
「そういやさっきもそれ言ってたね」
「今までずっと周りに頼り切って生きていたので、それではいけないと思いまして……」
そう言ってレリスがなんだか遠い目をする。
まあ財閥のお嬢様らしいから、今まで散々お嬢様扱いされてきてそれにうんざりした……とか?
だからと言ってその環境を捨てて冒険者になろうだなんて、発想が飛躍しすぎな気もする。
俺みたいにこの世界にどこにも行く当てがなくて、冒険者をやっていくくらいしか生きていく術がないならともかく、レリスはそうじゃなかったろうに。
「周りに頼って生きていくことが絶対に悪いこととは思わないけど、まあそれが当たり前になっちゃうのはダメだよなぁ」
「シューイチ様はどうして冒険者を?」
「俺の場合それしか選択肢なかったんだよ」
なにせ着の身着のまま以前に全裸でこの世界に放り込まれたからな。
全裸で無敵になる能力がなかったら、あの時エナ共々キラーウルフに食い殺されてあの世に直行してたはずだ。
「ある日突然自分の環境が180度ひっくり返ったような物だったからね」
「シューイチ様にも色々とあったのですね」
「でも俺の場合エナやテレアやフリルのおかげでここまでこれたみたいなもんだから、ある意味では周りに頼ってる形になるのかな?」
「周りに頼ることしか知らない人のそばに人が集まることなどないと思いますわ」
「そんなもんかね?」
レリスが力強く頷いた。
まるで身近に周りに頼ることでしか生きていけない人がいたみたいに話すんだな……。
「いつか……今の自分に納得できる日がきたら、その時はシューイチ様たちの仲間になるのも悪くないかもしれませんわね」
自分に納得できる日ね……そんな日は来るんだろうか?
俺なんて自分に納得できる時なんて死んでも来ない気がするんだけどね。
「ふあ……っ」
「そろそろ寝る?」
「あっ……失礼いたしましたわ」
不用意に出たあくびを俺に見られたことで、レリスが恥ずかしそうに頬を染めて顔を逸らした。
うん可愛い。
「なんだかんだで今日一日で色々してもらっちゃったしさ、そろそろ休みなよ」
「……それでは先にお休みさせていただきますわね」
「うん、おやすみレリス」
「おやすみなさいませ、シューイチ様」
丁寧なお辞儀をして、レリスがテントの中へと潜っていった。
レリスと話すことで完全に目が冴えてしまったな……このままみんなが起きてくるまで見張り続行するか。
そんな風に思った直後、何者かの気配を感じた。
誰か起きてきたのかと思い、テントへ目線を向けるも誰も出てくる気配がない。
注意深く警戒するものの、その気配の元は特に何かをしてくるわけでもなく、ただこちらをじっと伺っている感じだ。
(なんだろう……襲い掛かってくる気配じゃないけどなんか気になるな)
俺が気が付いたことに気が付いたのか、その気配はふと消えてしまった。
一体何だったんだ?敵意を感じなかったところが余計に気になる。
レリスと話してるときはなかったよな?
この場にテレアがいればもっと詳しい詳細がわかっただろうけど……考えられるのは、レリス関係の誰かか?タイミング的にそれしかないよな。
まあ敵意がないなら放置していても大丈夫か。
そう結論付け、俺は再び見張りの任務を続行するのだった。
ちなみにこの謎の気配によるこちらの監視は「その時」が来るまで延々と続くことになるのだが……それはまだ当分先の話なので今ここでは割愛する。
その後も俺たちの馬車の旅は順調に進んでいき、リンデフランデから出発して四日目にして―――
「見えてきましたよ!あの門を潜ればようやくエルサイムですよ!」
「周りの馬車が増えてきたからそろそろかと思ってたけど……つーかでかすぎないかあの門?」
「テレアも久しぶりに見たけどやっぱり大きいよね」
「……敵は出かければでかいほど燃える」
「フリルちゃんはなにと戦うつもりなのですか?」
ようやく当面の目的地であったエルサイムへと到着したのだった。
聞きなれた電子音で目を覚ます。この通信機、ご丁寧にアラーム機能までついてて何気に便利だな。
時間にして二時間くらい寝たかな?俺はもぞもぞと起き上がり寝ているみんなを起こさないよう物音に気を付けながらテントから這い出た。
「あらシューイチ様?もう時間ですのね?」
「うん、見張り交代するよ」
テントの外で焚火を前に見張りをしてくれていたレリスに、俺は交代時間が来たことを告げた。
「本読んでたの?」
「はい、エナさんに魔法書を借りたので」
そう言ってレリスが本の表紙を俺に見せてきた。
エナはこういった魔法書を何冊も持っており、暇さえあれば読みふけっている姿をよく見かける。
俺も一度読ませてもらったことがあるんだけど、まだこの世界の文字を覚えたての俺では独特の言い回しや専門用語などを理解できなかったのでちんぷんかんぷんだった。
「中々興味深い内容でしたわね……エルサイムに着くまでの間、できるだけ沢山読んで知識を蓄えたいですわ」
「勉強熱心だねぇ」
言いながら俺はレリスの隣に腰を下ろした。
この暗い中本を読むとかどうなの?と思ったが、焚火の明かりは思ったよりも明るく、月明りも手伝って本を読むくらいなら支障のないレベルだった。
「というか見張りしてもらってごめんね?」
「構いませんわ!そもそもわたくしから言い出した事なのですから、どうぞお気になさらずに!」
盗賊から助けてもらったことによほど恩義を感じているらしく、今日は馬車を引くことはもとより飯まで作ってくれて、こうして見張りまでしてくれた。
いくら恩を感じてくれてるとはいえ、ここまでしてもらえると逆にこちらが恐縮してしまう。
恩を売ったからと言って、それを笠に着るようなことはしたくもないし、するつもりだってないのだ。
「あの場でシューイチ様とテレアちゃんに助けていただいてなければ、今こうして本を読んでいることなどできませんでしたから」
もしあの場でレリスが盗賊の不意打ちを受けて負けていたらと考えると、ゾッとするな。
そう考えるとレリスがここまで恩義を感じるのも頷けてしまう。
「とりあえず見張りは変わるから、レリスは休んでいいよ?」
「えっと……シューイチ様、もし良ければ少しお話しませんか?」
「ん?別にいいけど……?」
眼が冴えてしまっているのだろうか、レリスがそう言ってきたので俺は快く快諾した。
「シューイチ様は、わたくしの素性に気がついてますよね?」
「まあ……ね」
エナ曰く、レリスはエレニカ財閥のお嬢様だそうだ。
この世界のことをまだよく知らない俺からすれば、異世界の財閥のお嬢様なんて言われてもピンとこないのだが、普通に考えたらこうして気軽に話せるような身分の子じゃないんだろうなぁ。
というかあまりにもフランクに接してくれるので、本当にお嬢様なのかと疑いたくなってしまう。
「てっきりもっとそのことを追及されるとばかり思っていたのですが」
「追及してもいいの?」
「答えられる範囲でありましたらいくらでも」
そう言ってレリスが上品に微笑む。
さっきはお嬢様なのかと疑ってるなんて思ったが、こういう何気ないしぐさがお嬢様然としてるよなぁ。
エナも魅力あふれる子だけど、レリスはまた違った魅力を持ってる女の子だ。
「それじゃあ聞いてもいいかな?」
「どうぞなんなりと」
「なんであんなに料理上手なの?」
「え?……料理は趣味なので、気が付いたら上手になっておりましたわね」
「そっか」
「はい……」
レリスの料理美味かったもんなぁ……エルサイムに着くまであと2日くらい掛かるからまた明日頼んで作ってもらおうかな?
もちろんフリルのキャンプ料理だって美味しかったぞ?
フリルはなんというか家庭的な味のする料理だったが、レリスの料理は本格的なレストランとかで食べる料理みたいな感じなので、そもそも土俵が違うので比べても仕方がないのだ。
……なんか飯のこと考えてたせいでお腹すいてきた。
「あの……それだけですか?」
「え?なにが?」
「いえ……聞きたいことはそれだけなのかと……」
「じゃあもう一ついい?」
「はい!」
「明日俺に剣の使い方を教えてほしいんだけど」
「……それは勿論いいですけど……」
よっしゃ!テレアとは毎日訓練してるけど、あの子武器使わないからそっちの訓練は疎かになってたんだよね!
レリスがいる間に基本的な剣の使い方をしっかりと教えてもらえれば、これからは独学でも剣の練習ができるようになるぞ!
「あのシューイチ様」
「なに?どしたん?」
「もっとないんですか?わたくしに聞きたいこと」
「そうだな……」
さすがにスリーサイズ聞いたらぶん殴られるよな?
レリスはそれはもう大層立派なバストを持っておられるので、そのサイズがぜひとも気になるのです。
エナは容姿は抜群にいいが、その部分だけが非常に残念なんだよね……。
「……どこを見てるので?」
「レリスのつけてる鼻眼鏡高そうだなぁと思っておりましたがなにか?」
レリスが恥ずかしそうに両腕で胸を隠して身をよじったので、咄嗟の機転で誤魔化した。
「はあ……殿方のそういう目線には慣れておりますが……」
「すいません、根が正直なので……あっ小指くらいなら詰めますんで?」
「いりませんわ」
なにやら呆れたようにレリスがため息を吐いた。
「シューイチ様は変わった方ですわね」
「最近それ良く言われるんだよね?全然そんなことないのに」
「わたしくが関わったことのある殿方の中で三本の指に入りますわ」
それ絶対光栄なことじゃないよね?
「わたくしの素性とか気になりませんの?」
俺が中々その話題に行かないので、しびれを切らしたのかレリス自らそこに斬りこんできた。
「そこはあんまりかなー?それを知っても知らなくても多分レリスはレリスだろうし」
「……そうでしょうか?」
「まあ、出会って一日も経ってないのに何言ってんだって話だけどさ、それなら尚更レリスが何が好きで何が嫌いな女の子なのかを知りたいって思うね俺は」
そう言った前提があって初めて相手の込み入った事情に踏み込むべきだと思うんだけどね。
いきなり相手の聞かれたくないことを根掘り葉掘り聞くなんて、そんなの頭おかしい奴のすることだろ?
「なんだか皆さんがシューイチ様を信頼している意味がわかりましたわ」
「信頼……されてるのかな?」
「ええ、皆さんがシューイチ様をとても頼りになされているのを感じますもの」
少なくともテレアは俺に懐いてくれてるのはわかるんだけどね。
エナも出会ったばかりのころに比べたら、大分遠慮がなくなってきた気もするけど、これも信頼されてるということなのかなぁ?
フリルは……うん……まあ?
「きっとシューイチ様の人徳のなせる業なのでしょうね」
「結構いい加減なことばかりしてた気もするんだけど……」
「皆様と一緒にいると仲間と共にこうして旅をするのも悪くはないと思いますわね」
「そんじゃ俺たちの仲間になっちゃう?」
俺の誘いにレリスは首を横に振った。
「魅力的な提案ですが、今はわたくし一人の力でどこまで出来るのかを試したいと思っておりますので」
「そういやさっきもそれ言ってたね」
「今までずっと周りに頼り切って生きていたので、それではいけないと思いまして……」
そう言ってレリスがなんだか遠い目をする。
まあ財閥のお嬢様らしいから、今まで散々お嬢様扱いされてきてそれにうんざりした……とか?
だからと言ってその環境を捨てて冒険者になろうだなんて、発想が飛躍しすぎな気もする。
俺みたいにこの世界にどこにも行く当てがなくて、冒険者をやっていくくらいしか生きていく術がないならともかく、レリスはそうじゃなかったろうに。
「周りに頼って生きていくことが絶対に悪いこととは思わないけど、まあそれが当たり前になっちゃうのはダメだよなぁ」
「シューイチ様はどうして冒険者を?」
「俺の場合それしか選択肢なかったんだよ」
なにせ着の身着のまま以前に全裸でこの世界に放り込まれたからな。
全裸で無敵になる能力がなかったら、あの時エナ共々キラーウルフに食い殺されてあの世に直行してたはずだ。
「ある日突然自分の環境が180度ひっくり返ったような物だったからね」
「シューイチ様にも色々とあったのですね」
「でも俺の場合エナやテレアやフリルのおかげでここまでこれたみたいなもんだから、ある意味では周りに頼ってる形になるのかな?」
「周りに頼ることしか知らない人のそばに人が集まることなどないと思いますわ」
「そんなもんかね?」
レリスが力強く頷いた。
まるで身近に周りに頼ることでしか生きていけない人がいたみたいに話すんだな……。
「いつか……今の自分に納得できる日がきたら、その時はシューイチ様たちの仲間になるのも悪くないかもしれませんわね」
自分に納得できる日ね……そんな日は来るんだろうか?
俺なんて自分に納得できる時なんて死んでも来ない気がするんだけどね。
「ふあ……っ」
「そろそろ寝る?」
「あっ……失礼いたしましたわ」
不用意に出たあくびを俺に見られたことで、レリスが恥ずかしそうに頬を染めて顔を逸らした。
うん可愛い。
「なんだかんだで今日一日で色々してもらっちゃったしさ、そろそろ休みなよ」
「……それでは先にお休みさせていただきますわね」
「うん、おやすみレリス」
「おやすみなさいませ、シューイチ様」
丁寧なお辞儀をして、レリスがテントの中へと潜っていった。
レリスと話すことで完全に目が冴えてしまったな……このままみんなが起きてくるまで見張り続行するか。
そんな風に思った直後、何者かの気配を感じた。
誰か起きてきたのかと思い、テントへ目線を向けるも誰も出てくる気配がない。
注意深く警戒するものの、その気配の元は特に何かをしてくるわけでもなく、ただこちらをじっと伺っている感じだ。
(なんだろう……襲い掛かってくる気配じゃないけどなんか気になるな)
俺が気が付いたことに気が付いたのか、その気配はふと消えてしまった。
一体何だったんだ?敵意を感じなかったところが余計に気になる。
レリスと話してるときはなかったよな?
この場にテレアがいればもっと詳しい詳細がわかっただろうけど……考えられるのは、レリス関係の誰かか?タイミング的にそれしかないよな。
まあ敵意がないなら放置していても大丈夫か。
そう結論付け、俺は再び見張りの任務を続行するのだった。
ちなみにこの謎の気配によるこちらの監視は「その時」が来るまで延々と続くことになるのだが……それはまだ当分先の話なので今ここでは割愛する。
その後も俺たちの馬車の旅は順調に進んでいき、リンデフランデから出発して四日目にして―――
「見えてきましたよ!あの門を潜ればようやくエルサイムですよ!」
「周りの馬車が増えてきたからそろそろかと思ってたけど……つーかでかすぎないかあの門?」
「テレアも久しぶりに見たけどやっぱり大きいよね」
「……敵は出かければでかいほど燃える」
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