無敵の力で異世界無双~ただし全裸~

みなみ

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法則~本当の能力~

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 あれからレリスと軽く打ち合わせをした後、とある人物に声を掛けてから俺は自室へと戻った。
 ベッドの上で寝転がりながらその人物が来訪するのをひたすら待つ。
 どうしても早急に確認しておかないといけないことがここ数日で出来てしまったからなぁ……いい加減色々とはっきりさせないといけない。
 15分ほど待っていると部屋の扉を控えめにノックされる。

「入っていいぞー」

 俺がそう声を掛けると、そいつは静かに扉を開けて部屋へと足を踏み入れてきた。
 そのままベッドに腰かける俺の前まで歩いてきて、なにやら赤い顔をしながらもじもじとしつつ口を開いた。

「こんな夜更けに呼び出すなんて……一体わたくしになにをするつもりなのですの?」
「そのへたくそなレリスの真似止めろ」

 俺がぴしゃりと言い放つと面白くなさそうな顔をしながら、メイド服を身に纏ったシエルが椅子を引っ張り出して腰かけた。

「もう少し乗ってくれてもいいじゃないですか」
「お前今度レリスの真似してみろ?その綺麗な金髪を剃り落として、光り輝く頭を朝焼けの太陽の横に並べてやるからな?」
「前々から思ってましたけど、宗一さんとは一度じっくり腹を割って話し合う必要がありそうですね?」

 やだよ面倒くさい。

「それで?私に話って何ですか?」
「今回は給仕係シエルとしてでなく、神様見習いのシエルに話がある」
「真面目な話なんですね……いいでしょう、聞きます」

 俺が真面目なトーンで切り出したので、シエルもつられて真面目な顔になった。

「回りくどい言い方は面倒だからもう率直に聞くな?俺の能力、本当は『全裸になったら無敵になる』能力じゃないよな?」
「……どうしてそんなことを?」

 泳ぎすぎ泳ぎすぎ!目が泳ぎすぎてるから!!
 もうそれだけで俺の疑問に確信が持ててしまった。

「勘違いしないでほしいんだけど、別に怒ってるわけじゃないんだよ?ただここ最近自分の能力に疑問を持つ機会があってさ」
「といいますと?」
「一つは今日全裸になった時に、今まで全く思い出せなかったスチカの記憶を完全に思い出せるようになったこと。そしてもう一つはレリスとダンジョンに閉じ込められて朱雀の元に突撃した時に、あいつ全裸状態の俺のことを『この世界の理から外れた存在』って言ってきたんだ」

 シエルが何かを考えこむかのように眉間に人差し指を当てる。
 10秒ほどそうしていただろうか、ようやくシエルが顔を上げて口を開いた。

「はい、その通りです。宗一さんの能力は『全裸になったら無敵になる』能力じゃありません」
「やっぱりそうなのか……」
「でも『無敵になる』という表現自体は間違ってないんですよ?本当は最初から全部わかってましたけど、あの時それを詳しく説明しても多分宗一さんは理解できないと思ったので」

 道理でなんかシエルの説明がふわっとしてると思ったんだ……。

「無敵になる能力は、宗一さんの持つ本来の能力の副産物でしかないんですよ。本来の能力はもっと……その……えげつないです」
「えげつないの!?」
「はい……宗一さんの本当の能力は『全裸になると自身の理を作り出す』能力なんです」
「……えっと……なにそれ?」

 自身の理を作り出す能力?ちょーっと意味がわからない。

「説明が難しいんですよね……噛み砕いて言うと、宗一さんは全裸になることで自身の作り出した法則を自身に展開させることが出来るんですよ」
「????」

 頭に疑問符しか湧いてこない。
 自身の法則を自身に展開させる?
 額面だけ受け取れば、全裸になった俺は自分にとって都合のいいことを自分にだけ起こすことが出来るってことか?

「あっもっとわかりやすい表現がありました!宗一さんは全裸になることで「葉山宗一」という人間の形をした概念になるんですよ!」
「もう滅茶苦茶だな?」
「ほんとですよ」

 なんかとんでもない話になってきてしまったな……一体俺の身体に何が起こっているんだろうか?

「例えばですね……人は生まれた瞬間その世界の理に基づいて生きていくことになります。理というのは簡単に行ってしまえばルールですね。それは外部からは何物にも変えることができない絶対不変のルールなんです。それを変えられるのはその世界を生み出した、いわゆる神様です」
「スケールのでかい話になって来たな?」
「その神様でさえ理を悪戯に変えることなんてしません。一つ変えてしまえばどこかで無理が生じます……それゆえ神様は世界を作る時は細心の注意を払いながら理を作り出していくんです」

 俺は頭の中で、昔友人たちとやってみたTRPGのルールブックを思い出していた。
 そうすると不思議なことにシエルの言っていることがスッと頭に入って来た。

「ようするに俺は裸になることで自分専用の自分にだけに効力の及ぶルールブックを使えるってことなんだな?」
「なんかよくわからない表現ですけど、多分それで合ってます」

 それが本当ならたしかに無敵になるなんてこの能力の副産物でしかないわけだ……。
 そうなると色々なことに納得が出来ていく。

「朱雀がこの世界の理から外れた存在って言ったのは、俺が全裸になったことでこの世界の神様ですら干渉できない「葉山宗一という理」になったからなんだな?」
「そのとおりです。もしも全裸状態の宗一さんに危害を加えられる存在がいたとしたら、それはもう神様ですら超越し、他の理すら物ともしない概念のようななにかでしょうね……」
「じゃあスチカのことを思い出せたのも、その理の力のおかげなのか?」
「多分そうでしょうね……恐らくですけど全裸になった時に無意識にそういう理を自身に定義づけたのだと思います」

 そうやって考えると、なんで今までスチカのことを忘れていたのか俺なりに理解できてくる。
 スチカは日本からこっちの世界に戻る時に、俺のいた世界では「スチカはなどという人物はいなかった」
と理が書き換えられたのだろう。
 だから俺は日本にいる間スチカのことを思い出せなかったのだ。
 ではなぜこの世界でスチカと再会した時に、おぼろげながら思い出すことが出来たのかというと……。

「これは俺の予測なんだけどさ?もしかして俺って全裸にならなくてもその自身の理を発動する能力を使ってる時があるのかな?」
「……はっきりとは言えませんが、恐らくは」

 やはりか……ということはスチカと再会してから無意識化で溢れたその能力のを使ってスチカを思い出そうとしたんだな。
 だけど所詮は漏れ出た少量の力では完全に思い出すまでは至らなかったと。
 それならこの能力をもっと洗礼させて掌握できれば、もう裸にならなくても無敵能力を発動できるようになるのでは?

「普通に考えたらそんな力が人間の体に収まっていること自体が不自然ですからね。多分収まりきらなかった力の一端がたまたま影響を及ぼすこともあると思いますよ」
「思い当たる節は色々とあるなぁ……」

 ピンチな状況で都合よく助けが来たりとか、こうなってほしいなっと思ったことが実際に起きたり。
 それらを全てこの能力のおかげと片付ける気はないものの、そう思ってしまうのもまた仕方がないのである。

「もう一つ聞いておきたいんだけど……俺って人間なの?」
「あっそこは大丈夫です!宗一さんはギリギリ人間ですから!」

 ギリギリなのかよ……。

「本来は理に形なんてありません。宗一さんが全裸になって能力を発動しても人間の形を保っているのは、無意識に「葉山宗一は人間だ」という理を定義づけしているからだと思います」
「じゃあもしもその理を書き換えてしまったら……?」
「さよなら人類ですね」

 今初めて自分のこの能力を本気で怖いと思った。
 自分であることを止めることも自分次第でどうとでもなるとか……さすがに笑えない。

「ただ基本的には全裸になっている時でしか理の能力は発動しませんよ?服着た状態で死んだら多分普通に死にますからね?」
「それなら全裸状態の時に「服着た状態でもこの能力を発動できる」って理を定義づければ……」
「全裸にならないと能力が発動しないんですから意味ないですよ?何度も言いますけど、宗一さんが自身に定義付けた理が機能するのは宗一さんが『全裸になった時』だけです!」
「ですよねー……」

 俺はがっくりとうなだれてしまった。
 これでようやくいざという時に全裸になるなんて事態とはおさらばできると思ったのに……!

「しかし程度の差はあると思います……宗一さんは今は能力を発動してませんけどスチカさんの記憶を完全に思い出してますよね?」
「ああ、そういえば」

このくらいのことなら服を着た状態でも持続できるんだな……覚えておかないと。

「でもなんでこんなことになってしまったのか皆目見当がつかないんですよねぇ……宗一さんをこの世界に転生させること自体は無事に成功してるはずなんですけど……」
「前々から思ってたんだけどさ、俺って転生したの?転移じゃなくて?」
「転生ですよ?元の宗一さんをそのままこの世界に持っていくことは不可能だって最初に説明したじゃないですか?だから一度元の世界の宗一さんの魂を分解して、この世界の理にしっかりと定義づけをしてから新たに魂を組み直して、葉山宗一という人間を可能な限り再現したんですよ?」

 俺がこの世界に来る時にそんなことしてたのかよ!
 ……あれ?ちょっと待てよ?

「もしかしてそのせいなんじゃないの?俺にこんな能力が宿ったのは?」
「……完全に否定はできませんが、恐らく宗一さんも転生の時に余計なことを考えていたからじゃ?」

「「……」」

 俺とシエルは互いに見つめあい、そして小さく頷いた。

「止めようこの話は」
「そうですね!きっと結論は出ませんしね!」

 そして力なく笑いあう俺たちの不気味な笑い声が俺の部屋に響いたのだった。



 明けて翌日。
 目が覚めた俺は顔を洗うために寝ぼけ眼をこすりながら洗面所へと赴く。

「昨日は色々と大変だったな……」

 冷水で顔を洗い、眠気を吹き飛ばした。
 うむ、寝覚めばっちり!

「えっと……タオルタオル……」
「―――はいどうぞ」
「おう!サンキュー!」

 受け取ったタオルで顔をごしごしと拭いていく。
 顔を拭き終わり、改めてタオルをくれた誰かさんにお礼を言おうと顔を上げて誰かさんに向き直った。

「タオルありがとうな?……誰?」
「―――おはようございます」

 えっと誰だったかな?ていうかうちにこんな前髪で目が隠れてるような奴いたか?
 ……あっ。

「コランズか!?」
「―――はい」

 もう色々とありすぎて、気を失っていたコランズをテレアの頼みでこの家に連れて帰ったことを完全に忘れていた。

「えっと……なにしてるの?」
「―――目が覚めたら見たことない場所だったので、出口を求めて彷徨っていたら、丁度顔を洗っているあなたと遭遇しました」

 まるで機械のような抑揚のない喋り方は洗脳のせいかと思ったが、どうやら地でこの喋り方のようだった。

「―――それでは僕はこれで。一晩泊めていただきありがとうございました」
「ちょっと待った!ストーップ!!」

 そう言って踵を返しここから出ていこうとするコランズの腕を掴んで引き留めた。

「お前さん行く当てはあるのか?」
「―――ありませんよ?」

 何を当たり前のことを聞いてくるんだろうこの人は?みたいな顔して俺を見てくる。
 ようやくフリルとティアの問題が解決するかもしれない糸口が見つかった矢先にこれか……。

「とりあえず朝飯だけでも食べていけよ?お腹空いてるだろ?出ていく行かないはそれからゆっくり考えても罰は当たらないって」
「―――それならお言葉に甘えます」

 思わず胸をなでおろす。
 何だろうこの独特の会話のテンポは……どこかの誰かさんを彷彿とさせるものの、それとはまた別のベクトルの厄介さを感じる。
 また変なのが増えそうな予感に俺は軽くため息を吐いたのだった。
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