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覚悟~問題の先送り~
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謎の力を使ったエナは、大丈夫と言うもののどう見てもかなり消耗してるように見えて仕方ない。
青龍のフォローがあってこれなんだから、もしかしてそれがなかったらまた倒れていたんではないだろうか?
「……エナは今何をしたのじゃ?」
誰もが聞くに聞けない空気に包まれる中、ティアだけが例外であり、疑問に思ったことをズバリと聞いてくる。
あのフリルでさえ遠慮しているというのに、いやはや末恐ろしい物だ。
「そうですね……いい加減みんなに隠し通せる物ではないですよね……私には生まれつき魔力とは違う力が宿ってるんですよ」
「魔力じゃない……?」
レリスが訝しげに呟き、エナがそれに小さく頷く。
先程のエナは見たところ封印されているはずの青龍本体と、例の力を使ってなにやらコンタクトを取っていたように見えた。
もしそうなら、エナの言う魔力とは違う力とは限りなく神獣の持つ力と近い性質を持つということになる。
「この力に本来正式な名前なんてないんですが……便宜上『天力』とでも呼びますね」
「見たところエナさんは今のでかなり疲れてるように見受けられますが、その天力を消費すると著しく体力を消費するのではないですか?」
「そうですねぇ……これ厳密に言うと疲れてるわけじゃないんですが……何と言いますか」
『ちょっといいかい皆?呑気にそんな話をしてる場合じゃないと思うんだが?』
俺たちとエナの会話を青龍が遮る。
確かに俺たちには時間がないとはいえ、今ここでエナの話をちゃんと聞くくらいの時間はあると思うけど。
『はっきり言うけど、このレディの事情に首を突っ込むには相応の覚悟が必要になるよ?その覚悟はこんなところで決めるものじゃない』
「……」
青龍の言葉に、エナがなにやら重苦しい表情で顔を伏せた。
むかつくことにその青龍のセリフはあの時ロイが俺に言ったのと全く同じ意味合いを含んでいた。
エナの事情に踏み込むならそれ相応の覚悟を持て……か。
「わかった!今は王様からの依頼のことを優先しよう!……エナもそれでいいか?」
「……いいんですか?私の事情をちゃんと聞けるチャンスはこれが最後かもしれませんよ?」
「その時はその時だ。とりあえず今は青龍の言う通りその時じゃないと思うんだ」
そんな綺麗ごとを言う物の、結局のところ俺はエナの事情に踏み込むのが怖いのかもしれない。
これは勘なんだけど、エナの事情を全部知ってしまったら、今までエナと築いて来た関係が崩れ去ってしまうんじゃないと思うのだ。
エナが俺の顔をきっちり5秒ほど見つめた後、小さくため息を吐いた。
「そうですね……今は私のことよりも王様の依頼を優先するべきです」
思わず謝罪の言葉が出そうになったが、エナの何ともやりきれない表情を見て踏みとどまった。
今エナが求めているのは謝罪の言葉ではない……そんな気がする。
「じゃあ改めて……エナはさっき天力と言う物を使って核石の中で眠っている青龍の本体と話をしたんだよな?」
「はい、青龍の封印を解くのに必要なアイテムの情報を聞き出しました」
そのエナの答えに、その場の全員が息を飲んだ。
「ただ……やはり年月が経っている関係上、完璧に思い出すことは出来なかったようで……とりあえず大昔に自身を封印する際に、自身の力を二つに分けた宝石と今この目の間にある核石へとわけたそうです」
ということは仮に青龍の封印を解くなら、その青龍の力を分けたという二つの宝石を探し出さないといけないのか?
しかもそれは青龍の記憶の欠落もありどこにあるかもわからない……か。
「なんかそれだけ聞くと青龍の封印を解くのは無理だって結論しか出てこないんだけど?」
「普通に考えたらそうですけど、なにせ相手はあのカルマ教団ですからね……教団がちょっかいを出して来てるというなら恐らく何か手がかりを見つけてるはずですよ」
エナが「ああ見えて確固たる確信がないと行動を起こさない連中ですから」と付け加えて大きくため息を吐いた。
そもそもの話なんだけど、なんであの連中はこうも神獣の封印を解こうとしたり、神獣の力を奪おうとするんだろうか?
普通に考えたら神獣を復活させて町や国を滅茶滅茶にしてしまったら、自分たちの立場はどんどん悪くなると思うんだけど……まあそこは邪神の復活によって世界は粛清されるべきとか言う危険思考を持った集団だから、そんなことは気にしてないのかもしれないが。
そう言ったリスクを背負ってまで神獣の封印を解いてその力を欲する理由か……やはりそれらは全て邪神復活へと収束していくのだろうか?
「ちょっとええか?気になったことがあるんやけど」
俺がそんなことを考えていると、スチカが手を挙げて発言を始めた。
「シュウに頼まれてエレニカ財閥とグウレシア家のことを調べてた時にわかったことなんやけどな?エレニカ財閥はどうやら、アーデンハイツが国として変わっていくうちに王族から分離した分家がそもそもの発祥なんやて」
「え?じゃあレリスお姉ちゃんの実家とこの国の王族は遠い親戚なのかな?」
テレアの言葉に頷きながら、スチカが続きを話していく。
「平たく言うとそういうことやな。そのことを踏まえて聞いてほしいんやけど、カルマ教団ってのがグウレシア家を通じてエレニカ財閥を手に入れようとしてるのって、そこに青龍の封印を解く宝石とやらの手がかりがあるからやないかって」
なるほど……たしかにその理由なら色々なことに納得がいくな。
恐らく限りなく正解に近い推理だろうけど、まだまだそれを決定づける材料が足りない。
「そうだな……スチカの予想を踏まえたうえでやっぱり俺たちはエレニカ財閥とグウレシア家の両家に足を運ぶ必要があると思うんだ」
「まあ早計はできんしな」
「それでは、今ここで起きたことと、スチカさんのその予想を王様に伝えに行きましょうか」
レリスがそう締めくくり、俺たちは部屋を出て兵士に挨拶をした後、王様の元へと戻っていくのだった。
再び謁見の間に戻って来た俺たちを、玉座に座ったままの王様が迎えてくれた。
あまり部外者に聞かせたくない話なので、扉を閉めてかつエナに隠蔽魔法を唱えてもらうことで完全にここでのやり取りが外部に漏れない空間を作り出した。
そこまですることでようやく先ほど地下であった出来事を王様に話していく。
「なるほど……君たちの話はわかった。これからどうするつもりなんだい?」
「とりあえずこれからエレニカ財閥へ行こうかと思ってます」
「そうか、なら私がそれぞれの代表へと令状をしたためようか?話が通りやすくなると思うよ」
エレニカ財閥の方はこちらにレリスがいるから恐らくアポを取るのは難しくないと思うんだよね。
となると残りはグウレシア家なんだけど、こちらには生憎知り合いもいないし伝手もないから、令状を書いてもらった方がいいだろう。
「それじゃあ、グウレシア家の代表への令状を書いてもらえませんか?」
「わかった……それじゃあ君たちがエレニカ財閥へ行っている間に、令状をしたためておこう」
「ありがとうございます、助かりますよ!それじゃあ俺たちは日が暮れないうちにエレニカ財閥へと向かいます」
王様にお礼を言って謁見の間から退出しようとのだが、もはや見慣れた小さな少女が俺たちの後をついて来ようとしたので慌てて止めた。
「ティアはお留守番!」
「なぜじゃ!?わらわだって皆の役に立ちたいぞ!」
「今回はさすがにティアを連れてはいけんわ」
「エルサイムでは問題なかったではないか!」
「いやさすがにこの国ではティアちゃんのことを知らない人はいないと思うので……」
エナの言葉に俺を含めた全員がうんうんと頷く。
アーデンハイツ内をこの国の王女であるティアを引き連れて歩いていたら、間違いなく大騒ぎになるし最悪いらぬ面倒を背負いこむことになる可能性もある。
「むう……それなら仕方ないのじゃ……」
とここで閃く天啓。
「なあ、フリル?お願いがあるんだけど?」
「……なに?」
「テレアとティアの二人と一緒にこのお城にある書物か何かで、エレニカ財閥とグウレシア家のことを調べてくれないか?」
「テレアたちはお留守番?」
少し悲しそうな顔をしながら俺を見上げてくるテレアの頭に俺は手を置いた。
「留守番じゃないよ?テレアたちをちゃんと俺たちの仲間と認めた上で、別の仕事をお願いしてるんだよ」
「……うんわかったよ!テレアはフリルお姉ちゃんたちを一緒にこのお城で色々調べるね!」
俺はニッコリと微笑んでテレアの頭を優しく撫でてあげると、テレアがくすぐったそうに眼を閉じる。
実際問題い大勢で動くよりは、こうして別々に動いた方がはるかに効率的だ。
「そういうことなんで、二人を頼めるかフリル?」
「……オッケー、任せて」
俺の意図を見事汲んでくれたフリルが、俺にサムズアップをしてきたので、同じくサムズアップにて返す。
「ティア、悪いけど二人を何か資料を確認できる場所まで案内してあげてくれないか?」
「分かったのじゃ!わらわにふさわしい役割じゃな!二人ともついてくるのじゃ!」
意気揚々と歩きだしたティアの後に続くように、テレアとフリルが慌てて駆け寄る。
そのまま三人は謁見の間を出て資料室へと向かっていった。
……なんだかティアをあの二人に押し付ける形になってしまったけど、情報収集だって立派な役割の一つだ。
そんな風に自分を納得させて振り替えると、なんだか女性陣が一歩引いたところから俺を複雑な表情で眺めていた。
「相変わらずシューイチさんは子供の扱いが手慣れてますよね」
「なんやそれ、ひくわー」
「……大丈夫ですわシューイチ様、わたくしは何があってもシューイチ様を信じておりますわ!」
「いやそういうの良いから、もうさっさと行こうぜ……」
本気なのか冗談なのかわからないをことを言ってくる三人に対し、俺は疲れたため息を吐きながら対応する。
そんな俺たちのやり取りを、何やら微笑ましいといった表情で王様が眺めていた。
エレニカ財閥までは馬車を出してくれるとのことで、俺たちは折角だからとお言葉に甘えることとなった。
お城の兵士の扱う馬によって引かれる豪華な内装の荷馬車の中で、俺たちは今後について話し合う。
「これからエレニカ財閥へと行くわけだけど……」
「レリスさん、大丈夫ですか?」
「ご心配なく……大丈夫ですわ」
心配する俺たちに向けて、少しだけ疲れた表情をしながらもレリスが笑顔絵で答える。
実のところ、エルサイムを出てアーデンハイツに近づくにつれ、レリスがなにやら考え込むことが多くなっていくのを、俺たちは気が付いていた。
本人は隠してるつもりだろうが、残念ながらバレバレなんだよなぁ……。
「何や全然大丈夫そうに見えんで?何か心配事があるなら今のうちに話してすっきりしときや?」
「スチカさん……そうですわね……いつまでも一人でうじうじ考えていても仕方がありませんものね」
こういう時、スチカの聞きにくいことにズバッと切り込んでいくスタイルはありがたいよな。
レリスが大きく息を吐きだした後、今の自身の心境をぽつぽつと語り始めた。
「シューイチ様とエナさんには話しましたけど、わたくし家出当然で飛び出した身でして……その原因も優秀すぎるお姉様への確執が原因ではあったのですが……少しわからなくなってしまいまして」
「分からなくなった?」
俺の疑問に対し、レリスが小さく頷いた。
「なんというか……そういう風に思い込んでいたというか……思い込まされていたような……今になってこんなことを言うのも変な話なのですが、お姉様に対する多少の負の感情が原因で家を飛び出したのが、今になって変だな?と思ってしまって……」
「なんやそれ?自分の話やろ?」
「……ようするに、たったそれだけのことで、なにもかもを放り出して家を飛び出した自分に対して疑問を持っている……と?」
レリスが力なく頷くのを見て、俺も少し考えてみる。
家出する原因ってのは大体が親に対する不満とか反発であることがほとんどだ。
確かにレリスには堪え性のない部分があるのは俺も知ってるけど、本来のレリスはとても思慮深いのだ。
ソニアさんの話では元々レリスは両親や姉妹たちとの仲は良好だったとのこと。
そんなレリスが、刹那的な感情に身を任せて家を飛び出すだろうか?
なんだろう……考えれば考えるほど不自然に思えて仕方なくなってきたぞ……。
青龍のフォローがあってこれなんだから、もしかしてそれがなかったらまた倒れていたんではないだろうか?
「……エナは今何をしたのじゃ?」
誰もが聞くに聞けない空気に包まれる中、ティアだけが例外であり、疑問に思ったことをズバリと聞いてくる。
あのフリルでさえ遠慮しているというのに、いやはや末恐ろしい物だ。
「そうですね……いい加減みんなに隠し通せる物ではないですよね……私には生まれつき魔力とは違う力が宿ってるんですよ」
「魔力じゃない……?」
レリスが訝しげに呟き、エナがそれに小さく頷く。
先程のエナは見たところ封印されているはずの青龍本体と、例の力を使ってなにやらコンタクトを取っていたように見えた。
もしそうなら、エナの言う魔力とは違う力とは限りなく神獣の持つ力と近い性質を持つということになる。
「この力に本来正式な名前なんてないんですが……便宜上『天力』とでも呼びますね」
「見たところエナさんは今のでかなり疲れてるように見受けられますが、その天力を消費すると著しく体力を消費するのではないですか?」
「そうですねぇ……これ厳密に言うと疲れてるわけじゃないんですが……何と言いますか」
『ちょっといいかい皆?呑気にそんな話をしてる場合じゃないと思うんだが?』
俺たちとエナの会話を青龍が遮る。
確かに俺たちには時間がないとはいえ、今ここでエナの話をちゃんと聞くくらいの時間はあると思うけど。
『はっきり言うけど、このレディの事情に首を突っ込むには相応の覚悟が必要になるよ?その覚悟はこんなところで決めるものじゃない』
「……」
青龍の言葉に、エナがなにやら重苦しい表情で顔を伏せた。
むかつくことにその青龍のセリフはあの時ロイが俺に言ったのと全く同じ意味合いを含んでいた。
エナの事情に踏み込むならそれ相応の覚悟を持て……か。
「わかった!今は王様からの依頼のことを優先しよう!……エナもそれでいいか?」
「……いいんですか?私の事情をちゃんと聞けるチャンスはこれが最後かもしれませんよ?」
「その時はその時だ。とりあえず今は青龍の言う通りその時じゃないと思うんだ」
そんな綺麗ごとを言う物の、結局のところ俺はエナの事情に踏み込むのが怖いのかもしれない。
これは勘なんだけど、エナの事情を全部知ってしまったら、今までエナと築いて来た関係が崩れ去ってしまうんじゃないと思うのだ。
エナが俺の顔をきっちり5秒ほど見つめた後、小さくため息を吐いた。
「そうですね……今は私のことよりも王様の依頼を優先するべきです」
思わず謝罪の言葉が出そうになったが、エナの何ともやりきれない表情を見て踏みとどまった。
今エナが求めているのは謝罪の言葉ではない……そんな気がする。
「じゃあ改めて……エナはさっき天力と言う物を使って核石の中で眠っている青龍の本体と話をしたんだよな?」
「はい、青龍の封印を解くのに必要なアイテムの情報を聞き出しました」
そのエナの答えに、その場の全員が息を飲んだ。
「ただ……やはり年月が経っている関係上、完璧に思い出すことは出来なかったようで……とりあえず大昔に自身を封印する際に、自身の力を二つに分けた宝石と今この目の間にある核石へとわけたそうです」
ということは仮に青龍の封印を解くなら、その青龍の力を分けたという二つの宝石を探し出さないといけないのか?
しかもそれは青龍の記憶の欠落もありどこにあるかもわからない……か。
「なんかそれだけ聞くと青龍の封印を解くのは無理だって結論しか出てこないんだけど?」
「普通に考えたらそうですけど、なにせ相手はあのカルマ教団ですからね……教団がちょっかいを出して来てるというなら恐らく何か手がかりを見つけてるはずですよ」
エナが「ああ見えて確固たる確信がないと行動を起こさない連中ですから」と付け加えて大きくため息を吐いた。
そもそもの話なんだけど、なんであの連中はこうも神獣の封印を解こうとしたり、神獣の力を奪おうとするんだろうか?
普通に考えたら神獣を復活させて町や国を滅茶滅茶にしてしまったら、自分たちの立場はどんどん悪くなると思うんだけど……まあそこは邪神の復活によって世界は粛清されるべきとか言う危険思考を持った集団だから、そんなことは気にしてないのかもしれないが。
そう言ったリスクを背負ってまで神獣の封印を解いてその力を欲する理由か……やはりそれらは全て邪神復活へと収束していくのだろうか?
「ちょっとええか?気になったことがあるんやけど」
俺がそんなことを考えていると、スチカが手を挙げて発言を始めた。
「シュウに頼まれてエレニカ財閥とグウレシア家のことを調べてた時にわかったことなんやけどな?エレニカ財閥はどうやら、アーデンハイツが国として変わっていくうちに王族から分離した分家がそもそもの発祥なんやて」
「え?じゃあレリスお姉ちゃんの実家とこの国の王族は遠い親戚なのかな?」
テレアの言葉に頷きながら、スチカが続きを話していく。
「平たく言うとそういうことやな。そのことを踏まえて聞いてほしいんやけど、カルマ教団ってのがグウレシア家を通じてエレニカ財閥を手に入れようとしてるのって、そこに青龍の封印を解く宝石とやらの手がかりがあるからやないかって」
なるほど……たしかにその理由なら色々なことに納得がいくな。
恐らく限りなく正解に近い推理だろうけど、まだまだそれを決定づける材料が足りない。
「そうだな……スチカの予想を踏まえたうえでやっぱり俺たちはエレニカ財閥とグウレシア家の両家に足を運ぶ必要があると思うんだ」
「まあ早計はできんしな」
「それでは、今ここで起きたことと、スチカさんのその予想を王様に伝えに行きましょうか」
レリスがそう締めくくり、俺たちは部屋を出て兵士に挨拶をした後、王様の元へと戻っていくのだった。
再び謁見の間に戻って来た俺たちを、玉座に座ったままの王様が迎えてくれた。
あまり部外者に聞かせたくない話なので、扉を閉めてかつエナに隠蔽魔法を唱えてもらうことで完全にここでのやり取りが外部に漏れない空間を作り出した。
そこまですることでようやく先ほど地下であった出来事を王様に話していく。
「なるほど……君たちの話はわかった。これからどうするつもりなんだい?」
「とりあえずこれからエレニカ財閥へ行こうかと思ってます」
「そうか、なら私がそれぞれの代表へと令状をしたためようか?話が通りやすくなると思うよ」
エレニカ財閥の方はこちらにレリスがいるから恐らくアポを取るのは難しくないと思うんだよね。
となると残りはグウレシア家なんだけど、こちらには生憎知り合いもいないし伝手もないから、令状を書いてもらった方がいいだろう。
「それじゃあ、グウレシア家の代表への令状を書いてもらえませんか?」
「わかった……それじゃあ君たちがエレニカ財閥へ行っている間に、令状をしたためておこう」
「ありがとうございます、助かりますよ!それじゃあ俺たちは日が暮れないうちにエレニカ財閥へと向かいます」
王様にお礼を言って謁見の間から退出しようとのだが、もはや見慣れた小さな少女が俺たちの後をついて来ようとしたので慌てて止めた。
「ティアはお留守番!」
「なぜじゃ!?わらわだって皆の役に立ちたいぞ!」
「今回はさすがにティアを連れてはいけんわ」
「エルサイムでは問題なかったではないか!」
「いやさすがにこの国ではティアちゃんのことを知らない人はいないと思うので……」
エナの言葉に俺を含めた全員がうんうんと頷く。
アーデンハイツ内をこの国の王女であるティアを引き連れて歩いていたら、間違いなく大騒ぎになるし最悪いらぬ面倒を背負いこむことになる可能性もある。
「むう……それなら仕方ないのじゃ……」
とここで閃く天啓。
「なあ、フリル?お願いがあるんだけど?」
「……なに?」
「テレアとティアの二人と一緒にこのお城にある書物か何かで、エレニカ財閥とグウレシア家のことを調べてくれないか?」
「テレアたちはお留守番?」
少し悲しそうな顔をしながら俺を見上げてくるテレアの頭に俺は手を置いた。
「留守番じゃないよ?テレアたちをちゃんと俺たちの仲間と認めた上で、別の仕事をお願いしてるんだよ」
「……うんわかったよ!テレアはフリルお姉ちゃんたちを一緒にこのお城で色々調べるね!」
俺はニッコリと微笑んでテレアの頭を優しく撫でてあげると、テレアがくすぐったそうに眼を閉じる。
実際問題い大勢で動くよりは、こうして別々に動いた方がはるかに効率的だ。
「そういうことなんで、二人を頼めるかフリル?」
「……オッケー、任せて」
俺の意図を見事汲んでくれたフリルが、俺にサムズアップをしてきたので、同じくサムズアップにて返す。
「ティア、悪いけど二人を何か資料を確認できる場所まで案内してあげてくれないか?」
「分かったのじゃ!わらわにふさわしい役割じゃな!二人ともついてくるのじゃ!」
意気揚々と歩きだしたティアの後に続くように、テレアとフリルが慌てて駆け寄る。
そのまま三人は謁見の間を出て資料室へと向かっていった。
……なんだかティアをあの二人に押し付ける形になってしまったけど、情報収集だって立派な役割の一つだ。
そんな風に自分を納得させて振り替えると、なんだか女性陣が一歩引いたところから俺を複雑な表情で眺めていた。
「相変わらずシューイチさんは子供の扱いが手慣れてますよね」
「なんやそれ、ひくわー」
「……大丈夫ですわシューイチ様、わたくしは何があってもシューイチ様を信じておりますわ!」
「いやそういうの良いから、もうさっさと行こうぜ……」
本気なのか冗談なのかわからないをことを言ってくる三人に対し、俺は疲れたため息を吐きながら対応する。
そんな俺たちのやり取りを、何やら微笑ましいといった表情で王様が眺めていた。
エレニカ財閥までは馬車を出してくれるとのことで、俺たちは折角だからとお言葉に甘えることとなった。
お城の兵士の扱う馬によって引かれる豪華な内装の荷馬車の中で、俺たちは今後について話し合う。
「これからエレニカ財閥へと行くわけだけど……」
「レリスさん、大丈夫ですか?」
「ご心配なく……大丈夫ですわ」
心配する俺たちに向けて、少しだけ疲れた表情をしながらもレリスが笑顔絵で答える。
実のところ、エルサイムを出てアーデンハイツに近づくにつれ、レリスがなにやら考え込むことが多くなっていくのを、俺たちは気が付いていた。
本人は隠してるつもりだろうが、残念ながらバレバレなんだよなぁ……。
「何や全然大丈夫そうに見えんで?何か心配事があるなら今のうちに話してすっきりしときや?」
「スチカさん……そうですわね……いつまでも一人でうじうじ考えていても仕方がありませんものね」
こういう時、スチカの聞きにくいことにズバッと切り込んでいくスタイルはありがたいよな。
レリスが大きく息を吐きだした後、今の自身の心境をぽつぽつと語り始めた。
「シューイチ様とエナさんには話しましたけど、わたくし家出当然で飛び出した身でして……その原因も優秀すぎるお姉様への確執が原因ではあったのですが……少しわからなくなってしまいまして」
「分からなくなった?」
俺の疑問に対し、レリスが小さく頷いた。
「なんというか……そういう風に思い込んでいたというか……思い込まされていたような……今になってこんなことを言うのも変な話なのですが、お姉様に対する多少の負の感情が原因で家を飛び出したのが、今になって変だな?と思ってしまって……」
「なんやそれ?自分の話やろ?」
「……ようするに、たったそれだけのことで、なにもかもを放り出して家を飛び出した自分に対して疑問を持っている……と?」
レリスが力なく頷くのを見て、俺も少し考えてみる。
家出する原因ってのは大体が親に対する不満とか反発であることがほとんどだ。
確かにレリスには堪え性のない部分があるのは俺も知ってるけど、本来のレリスはとても思慮深いのだ。
ソニアさんの話では元々レリスは両親や姉妹たちとの仲は良好だったとのこと。
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