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真紅~赤く染まったその瞳~
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自分を包んでいた結界がなくなったことで、青龍が何やら雄たけびを上げているが、今の俺にそんなものは雑音でしかない。
あんな奴よりも今はエナの方が大事だ!
「エナしっかりしろ!!」
エナの元へ駆け寄った俺は、倒れているエナの上半身を抱き起した。
まだかろうじて意識が残っているのか、エナがうつろな目で俺の表情を伺ってくる。
「ごめんなさいシューイチさん……約束破っちゃいました……」
「今はそんなことはどうでもいい! 大丈夫なのか!?」
エナの額に手を当てると、火傷するんじゃないかと思うほど熱くなっていて思わず手を離してしまった。
なんなんだ……一体エナの身体に何が起こってるんだ!?
「大丈夫……死んだりは……しませんから……」
「エナっ……!」
俺を見上げるエナの瞳を覗き込むと、天力を使うたびに赤く染まっていった瞳が、もはや完全に真紅に染まっていた。
なんだよこれ!? なんだってこんなことに……。
「俺のせいだ……俺が青龍じゃなく人工神獣をさっさと倒していれば……!」
「どの道復活するんですから……恐らくシューイチさんでは倒せなかったはず……です……だからあまり自分を……せめ……」
そこまで言って、エナがとうとう意識を手放し寝息を立て始めてしまった。
身体の熱は未だに冷めないし、もしかしてこのままエナが目覚めないんじゃ……?
そんなことを思わず考えてしまい、まるで頭をハンマーで殴られたような感覚に陥ってしまった。
「ギャオオオオォォ―――!!!」
「うるせえな……少し黙ってろよ」
手だけを青龍に向けてそこから大量の魔力を放つと、それだけで青龍が吹っ飛んでいきまだ無事な建物に叩きつけられた。
遠くで建物が瓦礫へと変わり地面に落ちていく音とと、それに生じた地響きが地面を通して伝わってくるものの、今の俺には本当にどうでもよかった。
どうすればいい? どうすれば今のエナの状態を何とかしてやれる!?
―――どうすればいいもなにも、俺にはあるだろう……全てが思い通りになる理を生み出す力が―――
何者かが俺の心に語り掛けてくる。
たしかにそれならばエナを助けることは出来るかもしれない……だけど……!
「シュウ!!」
スチカの叫びで思考の深淵へと潜り込んでいた俺の意識が強引に呼び戻された。
なんだ……俺は今何を考えていた!?
「す……スチカ?」
「さっきからどないしたんや、ボーっとして? 戦いはまだ終わっとらんやろ! しっかりせい!!」
スチカが俺の頬を両手で音がするほどの勢いで叩いた。
全裸状態なので痛くはないが、おかげさんで少し目が覚めた気がする。
「すまん、突然の事態に我を忘れそうになった……サンキューな!」
「お礼なら後にせいや、今はなんとかこの事態を切り抜ける方が先やで?」
俺に吹き飛ばされた青龍が何やら怒りの籠った眼で俺を睨んでいる。
ああ悪かったよ……ちょっとそれどころじゃなかったんだ。
「人工神獣はエナのおかげで倒せたけど、問題は青龍なんだよな……倒すだけなら簡単なんだけど、生憎神獣は倒すなって言われるんだよ」
「そんならどうしたらええんや? このまま放っておくんか?」
「本来ならフリルの歌魔法で暴走状態を鎮めないといけないんだけど、肝心のフリルの魔力が……」
コロシアムで青龍の竜巻から観客を護る時に魔力を使い切ってるんだよな……あれからまだ一時間も経ってないし魔力だってそこまで回復はしてないはずだ。
そうなるともはや長期戦を覚悟で俺が無理やりにでも青龍を抑え続けなければいけないんだが……。
エナもテレアもレリスも戦える状態ではないし……こりゃ今まで以上にピンチな状況だな。
一瞬俺の理を生み出す力を使えばと脳裏をよぎったが、それがどれほどのリソースを食うかわからない以上迂闊に理を生み出すことはできない。シエルの話では俺のキャパを超えてしまうと暴走してしまうらしいしな。これは本当の意味で最後の手段として取っておいた方がいいだろう。
「何とかしてフリルの魔力の回復が出来ればいいんだけど……スチカ何かいいアイテムないか?」
「あったらとっくに使っとるわ」
となるとやはり長期戦を覚悟した方がよさそうだな。
俺は立ち上がり青龍を睨みつける。
「スチカ、俺が青龍を抑えてる間に悪いけどなにか魔力を回復できる手段を探しに―――」
「シューイチ! スチカ! 無事かえ!?」
スチカに指示を出そうとしたその時、聞きなれた少女の声が俺たち二人の耳に入ってきた。
「ティア!?」
「おまっなんでこんなところに来てんねん!?」
先ほどいなくなったと連絡を受けたティアが瓦礫の山からひょっこり顔を出していた。
「連れてこられたのじゃ!」
「連れて……って誰に!?」
「それは……」
「私です、ハヤマ様」
その声と共にティアの後ろからこれまた見慣れた顔が姿を現した。
「ソニアさん!?」
「お前はあんときの……!?」
思わずスチカが懐から魔力銃を取り出しソニアさんに向けて構え、俺も警戒しつつソニアさんを睨みつける。
そんな俺たちの様子を見たソニアさんが、戦う意志はないとばかりに両手を上げながら俺たちの元へ近づいてきた。
「恐らく必要になるだろうと思って、クルスティア王女をお連れしました」
「お前がティアを城から誘拐したのか!?」
「スチカ、ストップ! 今は言い争いをしてる場合じゃないだろ!?」
俺に促されて、スチカ小さな声で「すまん」と呟いた。
しかしコロシアムにいた時、いつの間にか姿見えなくなっていたけど、まさか城に行ってティアを連れだしていたとは……。
「どういうことだ? あなたは俺たちの敵じゃないのか?」
「私の立場も色々と複雑でして……現状の私はどちらかというとハヤマ様の味方ではありますが、本来は中立の立場です」
言ってる意味がさっぱり分からない。
現状は見方だけど本来は中立? それならなんでグウレシア家とカルマ教団の連中と手を組んで俺たちの邪魔をしてきたんだよ?
「今は詳しく話している時間がありません……この事態が無事に収まりましたらその時は私の正体と目的について話したいと思います」
「……わかった、今は敵じゃないと言うならとりあえずは信じるよ」
「はぁ!? シュウ、お前そんな簡単に信じてええんか!?」
「今は非常事態だし、信じる信じないの話をしてる場合じゃないからな」
それにわざわざソニアさんがこの危険な場にティアを連れて現れたんだ……何かしらの意味があるはずだ。
「かーっ! 相変わらずのお人好しやな! 今この二人が来たところでフリルの魔力切れがいきなり回復するわけでもないやろ?」
「フリルが魔力切れ……?」
その言葉を聞いたティアが訝し気な表情で呟いて、レリスの傍らで座り込んでいるフリルの視線を送った。
「……青龍、出てくるのじゃ!」
『なるほどね……あのレディが僕たちをここに連れきた意味がようやく分かったよ』
「うむ、フリルの為なのじゃな!」
なにやらティアとミニ青龍がお互いに納得しあっているが、俺たちにもわかるように説明してほしい。
「皆の者! ここはわらわと青龍に任せておくのじゃ!!」
そう叫んだティアが、フリルの元へと走っていく。
相変わらず突っ走る子だな……少しは現状を……。
「シュウ!」
「あーもうわかってるよ!!」
背後にいる青龍本体の魔力が急激に膨れ上がったので、そちらに振り替えると冷気を含んだ竜巻をこちらに向けて発射した瞬間だった。
悪いけど、今こちらは取りこんでる最中なんだよ!
「ワイド・プロテクション!!」
いつもよりも横幅の広い防御壁を作り出し、冷気の竜巻をこちらへ来られないように防ぐ。
先ほど定義した理のおかげで結界が壊される様子は見られない……しばらくは耐えられるはずだ。
俺が青龍の攻撃を防いでいる間に、ティアがフリルの元へと到着していた。
「フリル!」
「……ティア、何しに来たの?」
「わらわの友が危険な状況に陥っておるのじゃ! 助けに来たに決まっておろう!」
「……ティアに助けられるなんて、屈辱」
「ええい! 今はそんなことを言っておる場合ではなかろう! 天邪鬼も大概にするのじゃ!」
まあどんな時でも自分のスタンスを貫くのがフリルのキャラだしなぁ……。
「魔力を失っておると聞いたのじゃ! わらわと青龍に任せておくのじゃ!!」
『このレディの魔力を回復させるんだろう? お安い御用さ』
ミニ青龍がそう言うと、身体が青く発光していき、その青い光がフリルへと移っていく。
そんな光景が10秒ほど続いた後、ミニ青龍の光が収まり、フリルがすくっと立ち上がった。
「……魔力が回復した……?」
『君の魔力量はかなり大きいから全快とまではいかなかったけど、鎮めの唄を歌えるくらいには回復したはずだ』
「……うん、これなら歌える」
『それならよかった……言っておくけどこうして魔力の回復をしてあげられるのはこの一回だけだ。これで失敗したらもう後がないと思ってくれ』
「……わかった、二人ともありがとう」
フリルの魔力を回復したミニ青龍の姿が光に包まれて少しずつ消えていく。
『さて……これで本格的にお別れだね……一人の少女を命を懸けて救い消えていく……なんとも僕にふさわしい消え方じゃないか』
「さよならは言わぬぞ? シューイチたちがこの事態を鎮めることが出来ればまた会えるのじゃろ?」
『そうだね……またティアと出会うためにも、彼らがこの戦いに勝てるように祈ってあげておいてくれ』
そう言い残し、ミニ青龍はいつぞやの教会跡地の時とは違い、今度こそ完全に消滅していった。
なんかえらくあっさりしてたけど、文字通り命がけだったのか……あらかじめ言っておいてくれれば俺だってもうちょっとこう……さ?
「フリルよ、青龍の犠牲を無駄にするでないぞ……!」
「……うい」
ティアの言葉に力強く頷いたフリルが歌魔法を発動させるために魔力の活性化を行っていく。
こうなれば後はもう時間の問題だ、後は俺がフリルを全力で守り切れば……!
「申し訳ありませんが、そうはいきませんよ」
いつの間にかやって来ていたのか、ロイが魔力の活性化をしていて無防備になっているフリルの目の前に立っていて、フリルを冷たく見降ろしていた。
「あんにゃろいつの間に!?」
その様子に気が付いたスチカがいち早くロイの元へ駆け寄ろうとするが……ダメだ、多分間に合わない!
ロイが懐からナイフを取り出して振り上げ、勢いよくフリルへと振り下ろした。
だがそれは金属音と共に弾かれて、フリルへと届くことはなかった。
「……なんの真似ですか、ソニアさん?」
「何の真似も何も、私は最初からあなたたちの味方になったつもりはありませんでしたよ?」
ロイのナイフを手に装備したかぎ爪で弾いた状態で、ソニアさんがロイに言い放った。
「薄々そうなんじゃないかとは思ってましたが、やはりあなたは……」
「お喋りをするつもりはありません、フリル様には指一本触れさせませんよ」
そう言ってソニアさんが構えを取りながら、殺意の籠った眼でロイを睨みつける。
「まさかソニアさん、私に勝てると思ってませんか?」
「……残念ながら私の実力ではあなたには及びません……ですが」
ソニアさんがそう言った瞬間、何者かが現れてロイを斬りつけた。
「がはっ!?」
「はあ……はあ……フリルちゃんには指一本触れさせませんわ!!」
それは先ほどまで大ダメージを受けて倒れていたレリスだった。
完全にダメージが回復したわけではないらしいが、フリルを守るためにどうにか起き上がってきたようだ。
レリスに剣で斬りつけられた腕から血を流しながら、ロイがレリスとソニアさんを睨みつける。
「レリスお嬢様と二人ならば、辛うじてあなたを食い止めることは出来ると思ってますよ?」
「……なるほど……いくら彼女が手負いと言えど、二対一はさすがに不利ですね……」
斬られた腕を回復魔法で治療しながら、ロイが大きくバックステップをして二人から距離を取った。
「レリスお嬢様、あまり無理はなさらぬように」
「ソニアさん……あなたに聞きたいことは山ほどありますが、今はフリルちゃんを守るという共通の目的を持つ仲間ですわ……なんとしても二人でフリルちゃんを守り切りますわよ!」
青龍を鎮めるためのこの戦いも、いよいよ正念場だな……俺も頑張って青龍を抑えないと!
あんな奴よりも今はエナの方が大事だ!
「エナしっかりしろ!!」
エナの元へ駆け寄った俺は、倒れているエナの上半身を抱き起した。
まだかろうじて意識が残っているのか、エナがうつろな目で俺の表情を伺ってくる。
「ごめんなさいシューイチさん……約束破っちゃいました……」
「今はそんなことはどうでもいい! 大丈夫なのか!?」
エナの額に手を当てると、火傷するんじゃないかと思うほど熱くなっていて思わず手を離してしまった。
なんなんだ……一体エナの身体に何が起こってるんだ!?
「大丈夫……死んだりは……しませんから……」
「エナっ……!」
俺を見上げるエナの瞳を覗き込むと、天力を使うたびに赤く染まっていった瞳が、もはや完全に真紅に染まっていた。
なんだよこれ!? なんだってこんなことに……。
「俺のせいだ……俺が青龍じゃなく人工神獣をさっさと倒していれば……!」
「どの道復活するんですから……恐らくシューイチさんでは倒せなかったはず……です……だからあまり自分を……せめ……」
そこまで言って、エナがとうとう意識を手放し寝息を立て始めてしまった。
身体の熱は未だに冷めないし、もしかしてこのままエナが目覚めないんじゃ……?
そんなことを思わず考えてしまい、まるで頭をハンマーで殴られたような感覚に陥ってしまった。
「ギャオオオオォォ―――!!!」
「うるせえな……少し黙ってろよ」
手だけを青龍に向けてそこから大量の魔力を放つと、それだけで青龍が吹っ飛んでいきまだ無事な建物に叩きつけられた。
遠くで建物が瓦礫へと変わり地面に落ちていく音とと、それに生じた地響きが地面を通して伝わってくるものの、今の俺には本当にどうでもよかった。
どうすればいい? どうすれば今のエナの状態を何とかしてやれる!?
―――どうすればいいもなにも、俺にはあるだろう……全てが思い通りになる理を生み出す力が―――
何者かが俺の心に語り掛けてくる。
たしかにそれならばエナを助けることは出来るかもしれない……だけど……!
「シュウ!!」
スチカの叫びで思考の深淵へと潜り込んでいた俺の意識が強引に呼び戻された。
なんだ……俺は今何を考えていた!?
「す……スチカ?」
「さっきからどないしたんや、ボーっとして? 戦いはまだ終わっとらんやろ! しっかりせい!!」
スチカが俺の頬を両手で音がするほどの勢いで叩いた。
全裸状態なので痛くはないが、おかげさんで少し目が覚めた気がする。
「すまん、突然の事態に我を忘れそうになった……サンキューな!」
「お礼なら後にせいや、今はなんとかこの事態を切り抜ける方が先やで?」
俺に吹き飛ばされた青龍が何やら怒りの籠った眼で俺を睨んでいる。
ああ悪かったよ……ちょっとそれどころじゃなかったんだ。
「人工神獣はエナのおかげで倒せたけど、問題は青龍なんだよな……倒すだけなら簡単なんだけど、生憎神獣は倒すなって言われるんだよ」
「そんならどうしたらええんや? このまま放っておくんか?」
「本来ならフリルの歌魔法で暴走状態を鎮めないといけないんだけど、肝心のフリルの魔力が……」
コロシアムで青龍の竜巻から観客を護る時に魔力を使い切ってるんだよな……あれからまだ一時間も経ってないし魔力だってそこまで回復はしてないはずだ。
そうなるともはや長期戦を覚悟で俺が無理やりにでも青龍を抑え続けなければいけないんだが……。
エナもテレアもレリスも戦える状態ではないし……こりゃ今まで以上にピンチな状況だな。
一瞬俺の理を生み出す力を使えばと脳裏をよぎったが、それがどれほどのリソースを食うかわからない以上迂闊に理を生み出すことはできない。シエルの話では俺のキャパを超えてしまうと暴走してしまうらしいしな。これは本当の意味で最後の手段として取っておいた方がいいだろう。
「何とかしてフリルの魔力の回復が出来ればいいんだけど……スチカ何かいいアイテムないか?」
「あったらとっくに使っとるわ」
となるとやはり長期戦を覚悟した方がよさそうだな。
俺は立ち上がり青龍を睨みつける。
「スチカ、俺が青龍を抑えてる間に悪いけどなにか魔力を回復できる手段を探しに―――」
「シューイチ! スチカ! 無事かえ!?」
スチカに指示を出そうとしたその時、聞きなれた少女の声が俺たち二人の耳に入ってきた。
「ティア!?」
「おまっなんでこんなところに来てんねん!?」
先ほどいなくなったと連絡を受けたティアが瓦礫の山からひょっこり顔を出していた。
「連れてこられたのじゃ!」
「連れて……って誰に!?」
「それは……」
「私です、ハヤマ様」
その声と共にティアの後ろからこれまた見慣れた顔が姿を現した。
「ソニアさん!?」
「お前はあんときの……!?」
思わずスチカが懐から魔力銃を取り出しソニアさんに向けて構え、俺も警戒しつつソニアさんを睨みつける。
そんな俺たちの様子を見たソニアさんが、戦う意志はないとばかりに両手を上げながら俺たちの元へ近づいてきた。
「恐らく必要になるだろうと思って、クルスティア王女をお連れしました」
「お前がティアを城から誘拐したのか!?」
「スチカ、ストップ! 今は言い争いをしてる場合じゃないだろ!?」
俺に促されて、スチカ小さな声で「すまん」と呟いた。
しかしコロシアムにいた時、いつの間にか姿見えなくなっていたけど、まさか城に行ってティアを連れだしていたとは……。
「どういうことだ? あなたは俺たちの敵じゃないのか?」
「私の立場も色々と複雑でして……現状の私はどちらかというとハヤマ様の味方ではありますが、本来は中立の立場です」
言ってる意味がさっぱり分からない。
現状は見方だけど本来は中立? それならなんでグウレシア家とカルマ教団の連中と手を組んで俺たちの邪魔をしてきたんだよ?
「今は詳しく話している時間がありません……この事態が無事に収まりましたらその時は私の正体と目的について話したいと思います」
「……わかった、今は敵じゃないと言うならとりあえずは信じるよ」
「はぁ!? シュウ、お前そんな簡単に信じてええんか!?」
「今は非常事態だし、信じる信じないの話をしてる場合じゃないからな」
それにわざわざソニアさんがこの危険な場にティアを連れて現れたんだ……何かしらの意味があるはずだ。
「かーっ! 相変わらずのお人好しやな! 今この二人が来たところでフリルの魔力切れがいきなり回復するわけでもないやろ?」
「フリルが魔力切れ……?」
その言葉を聞いたティアが訝し気な表情で呟いて、レリスの傍らで座り込んでいるフリルの視線を送った。
「……青龍、出てくるのじゃ!」
『なるほどね……あのレディが僕たちをここに連れきた意味がようやく分かったよ』
「うむ、フリルの為なのじゃな!」
なにやらティアとミニ青龍がお互いに納得しあっているが、俺たちにもわかるように説明してほしい。
「皆の者! ここはわらわと青龍に任せておくのじゃ!!」
そう叫んだティアが、フリルの元へと走っていく。
相変わらず突っ走る子だな……少しは現状を……。
「シュウ!」
「あーもうわかってるよ!!」
背後にいる青龍本体の魔力が急激に膨れ上がったので、そちらに振り替えると冷気を含んだ竜巻をこちらに向けて発射した瞬間だった。
悪いけど、今こちらは取りこんでる最中なんだよ!
「ワイド・プロテクション!!」
いつもよりも横幅の広い防御壁を作り出し、冷気の竜巻をこちらへ来られないように防ぐ。
先ほど定義した理のおかげで結界が壊される様子は見られない……しばらくは耐えられるはずだ。
俺が青龍の攻撃を防いでいる間に、ティアがフリルの元へと到着していた。
「フリル!」
「……ティア、何しに来たの?」
「わらわの友が危険な状況に陥っておるのじゃ! 助けに来たに決まっておろう!」
「……ティアに助けられるなんて、屈辱」
「ええい! 今はそんなことを言っておる場合ではなかろう! 天邪鬼も大概にするのじゃ!」
まあどんな時でも自分のスタンスを貫くのがフリルのキャラだしなぁ……。
「魔力を失っておると聞いたのじゃ! わらわと青龍に任せておくのじゃ!!」
『このレディの魔力を回復させるんだろう? お安い御用さ』
ミニ青龍がそう言うと、身体が青く発光していき、その青い光がフリルへと移っていく。
そんな光景が10秒ほど続いた後、ミニ青龍の光が収まり、フリルがすくっと立ち上がった。
「……魔力が回復した……?」
『君の魔力量はかなり大きいから全快とまではいかなかったけど、鎮めの唄を歌えるくらいには回復したはずだ』
「……うん、これなら歌える」
『それならよかった……言っておくけどこうして魔力の回復をしてあげられるのはこの一回だけだ。これで失敗したらもう後がないと思ってくれ』
「……わかった、二人ともありがとう」
フリルの魔力を回復したミニ青龍の姿が光に包まれて少しずつ消えていく。
『さて……これで本格的にお別れだね……一人の少女を命を懸けて救い消えていく……なんとも僕にふさわしい消え方じゃないか』
「さよならは言わぬぞ? シューイチたちがこの事態を鎮めることが出来ればまた会えるのじゃろ?」
『そうだね……またティアと出会うためにも、彼らがこの戦いに勝てるように祈ってあげておいてくれ』
そう言い残し、ミニ青龍はいつぞやの教会跡地の時とは違い、今度こそ完全に消滅していった。
なんかえらくあっさりしてたけど、文字通り命がけだったのか……あらかじめ言っておいてくれれば俺だってもうちょっとこう……さ?
「フリルよ、青龍の犠牲を無駄にするでないぞ……!」
「……うい」
ティアの言葉に力強く頷いたフリルが歌魔法を発動させるために魔力の活性化を行っていく。
こうなれば後はもう時間の問題だ、後は俺がフリルを全力で守り切れば……!
「申し訳ありませんが、そうはいきませんよ」
いつの間にかやって来ていたのか、ロイが魔力の活性化をしていて無防備になっているフリルの目の前に立っていて、フリルを冷たく見降ろしていた。
「あんにゃろいつの間に!?」
その様子に気が付いたスチカがいち早くロイの元へ駆け寄ろうとするが……ダメだ、多分間に合わない!
ロイが懐からナイフを取り出して振り上げ、勢いよくフリルへと振り下ろした。
だがそれは金属音と共に弾かれて、フリルへと届くことはなかった。
「……なんの真似ですか、ソニアさん?」
「何の真似も何も、私は最初からあなたたちの味方になったつもりはありませんでしたよ?」
ロイのナイフを手に装備したかぎ爪で弾いた状態で、ソニアさんがロイに言い放った。
「薄々そうなんじゃないかとは思ってましたが、やはりあなたは……」
「お喋りをするつもりはありません、フリル様には指一本触れさせませんよ」
そう言ってソニアさんが構えを取りながら、殺意の籠った眼でロイを睨みつける。
「まさかソニアさん、私に勝てると思ってませんか?」
「……残念ながら私の実力ではあなたには及びません……ですが」
ソニアさんがそう言った瞬間、何者かが現れてロイを斬りつけた。
「がはっ!?」
「はあ……はあ……フリルちゃんには指一本触れさせませんわ!!」
それは先ほどまで大ダメージを受けて倒れていたレリスだった。
完全にダメージが回復したわけではないらしいが、フリルを守るためにどうにか起き上がってきたようだ。
レリスに剣で斬りつけられた腕から血を流しながら、ロイがレリスとソニアさんを睨みつける。
「レリスお嬢様と二人ならば、辛うじてあなたを食い止めることは出来ると思ってますよ?」
「……なるほど……いくら彼女が手負いと言えど、二対一はさすがに不利ですね……」
斬られた腕を回復魔法で治療しながら、ロイが大きくバックステップをして二人から距離を取った。
「レリスお嬢様、あまり無理はなさらぬように」
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