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脳筋~子供じゃないよと~
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スチカもいなくなってしまったことだしいつまでもここにいても仕方ないので、俺はスチカのラボを後にする。
鍵とか掛けていかなくても大丈夫なのかな?
「さてと……これからどうしようかな?」
スチカの用事に丸一日付き合わされると思っていたが、想像以上に時間が余ってしまった。
ていうかお腹すいたな……時間的にはもうお昼過ぎてるんじゃないかな?
「よし、炊き出しの手伝いをしているテレアたちのところへ行こう」
誰に言うわけでもなくそう呟いた俺は、早速足を踏み出す。
ひょっとしたら俺にも何か食べ物を分けてもらえるかもしれないからな。
それならどこかに食べに行けばいいだろ?……と思われるかもしれないが、昨日の今日で街中を歩くのは少しご遠慮したい。
なにせ全裸状態であちらこちらに出没したからなぁ……絶対顔を覚えられてるだろうし。
最近はすっかり慣れてしまったものの、俺にだって一般的な羞恥心くらいはちゃんとあるのだ。
そんなことを思いながら炊き出しが行われているお城の中庭まで歩を進めていると、前方に見知った二人組が歩いてくるのが見えた。
「あっお兄ちゃん!」
「……シューイチ」
白い前掛けを付けた二人が、俺を見つけるなり駆け寄ってくる。
「よっ二人とも! 炊き出しは終わったのか?」
「……休憩中」
「レリスお姉ちゃんが休憩してきていいよって」
聞けば炊き出しには難民が長蛇の列を作っているらしく、まだ終わりそうにないらしい。それを聞くだけで昨日の一件がどれだけ大規模な被害だったのかを物語ってるようで、少しばかり心苦しいな。
「お兄ちゃんはスチカお姉ちゃんのお手伝いじゃなかったの?」
「思ったより早く終わってな」
ていうかあいつを俺を置いてどこに行ったんだろうか? おっちゃんと話をしてくるみたいなことを言ってたから王様のところにいるんだろうけど。
「しかし炊き出しはそんなに混雑してるのか……何か食べ物分けてもらえるかと思ったけど無理そうだな」
「そもそもテレアたちの為にやってもらってるわけじゃないような……」
「……シューイチ意地汚い」
だってお腹すいたんだもんよう。
「お城の厨房も今大忙しらしいよ?」
「マジか……そこへ行っても何も食べられそうにないな」
「……お腹すいた」
そうなると困ったな……街だってまだ復旧作業の真っ最中だし、食べられるところ探すのも難しいだろう。あんまり時間をかけると二人の休憩時間も終わってしまう。
……仕方ない、あんまり頼りすぎるのは避けたいけど背に腹は代えられぬともいうしな。
「二人ともちょっと待っててくれ」
「お兄ちゃん?」
『シエル聞こえる?』
宝玉を手にし脳内でシエルに話しかける。
『はいはーい、なんですかー?』
『今から俺とテレアとフリルの三人でそっちにご飯食べに行ってもいい?』
『唐突ですね……今ちょうど私たちもお昼にしようと準備してたから、まあ大丈夫ですけど』
『じゃあ今から三人でそっちに行くわ』
『はーい』
シエルの間延びした返事を最後に念話を打ち切った。
よし、ちゃんとアポは取ったぞ。
「二人とも、これから俺の自室まで一緒に来てくれ。転移でエルサイムの拠点まで飛んでそこでご飯食べよう」
「転移……って?」
あっそうか、テレアはそのことを知らないんだった。
「移動しながらその辺のことも説明するよ。とにかく行こう、時間あんまりないんだろ?」
「……おなかグーペコ」
「前々から思ってたけど、お前さんそういう言葉どこで覚えてくるの?」
そんなこんなで城の俺の自室へ移動し全裸状態になってから転移でエルサイムにある拠点の自室へと飛ぶ。
そこで再び服を着なおした俺は、一瞬でエルサイムまで転移したことに驚く二人を伴いダイニングへと移動すると、そこには食事の準備のためにテーブルを拭いているコランズがいた。
「―――皆さん、おかえりなさい」
「よお! コランズ久しぶりだな! 元気にしてたか?」
「―――普通ですね」
「そうか、普通か」
あらかじめシエルから話でも聞いていたのか、コランズは特に驚くこともなくテーブル拭きを再開した。
「コランズ君、何か手伝おうか?」
「―――大丈夫ですよ、これも僕の仕事のうちですから」
昨日シエルも言っていたけど、コランズの奴かなり様になって来てるみたいだな。
テキパキと食事の準備を整えていくコランズを眺めていると、昼食をトレイに乗せたシエルがダイニングの扉を開けて入って来た。
「三人ともおかえりなさい」
「シエルお姉ちゃん、ただいま!」
「……ただいま」
「悪いなシエル、いきなり帰ってきて」
「本当ですよ、せめて一時間くらい前に連絡してくださいよ! そうすればもっと手の込んだ昼食を用意できたんですから!」
そっちに怒ってんのかよ。
「簡単なサンドイッチですけど大丈夫ですかね?」
「うん! 大丈夫だよシエルお姉ちゃん」
「……お腹すいた」
それぞれが席についていただきますをして、思い思いにサンドイッチへと手を伸ばしていく。
お腹空いてたから、なおのこと美味く感じるな。
「シューイチさんから大方聞きましたけど、中々大変だったみたいですね」
「うん、テレアも頑張ったけど、あっちこっち壊されちゃった……」
「あんだけ大量にデカブツが出てこられるとなぁ……でも薄情に聞こえるかもしれないけど、そこをいちいち悔やんでも意味ないからな? あれはさすがにどうしようもなかった」
いくら俺たちの個々の能力が高いと言っても、数の上での限界はどうしようもないからな。
「はあ……もっと強くなりたいなぁ」
「―――テレアさんは今でも十分強いと思いますが」
青龍の手助けがあったとはいえ、コランズもテレアと戦って負けてるからな。
とはいえそのコランズだってあの時のテレアと全く互角だったわけだけど。
「アーデンハイツにいる間に、もう一回くらいお師匠様に会って色々教わりたいなぁ……」
「気のせいかもしれませんが、テレアちゃんどんどん脳筋になっちゃってませんか?」
「のうきん……ってなにかな?」
「……脳みそまで筋肉の略」
サンドイッチを頬張りながらぼそっと呟いたフリルの言葉を聞いたテレアが、何やら真っ青な顔になり手にしたサンドイッチを落としてしまった。
「そっそっそっそっそ」
「落ち着けテレア、サンドイッチが台無しだ」
三秒ルールは……もう無理だな、憐れサンドイッチ。
「そんなことないよぉ! テレアは筋肉まで脳みそじゃないもん!」
「……なにそれこわい」
いやいや、逆になってるから!
「そんなんだと、いつか宗一さんに嫌われてしまうかもしれませんよぉ~?」
面白いおもちゃを見つけたかのような顔したシエルが、からかい口調で言った瞬間、テレアがまるでこの世の終わりの様な顔になって固まってしまった。
「お前も余計なこと言うな! ……でもさすがにテレアがムキムキマッチョマンになったら、俺も引くかもな?」
「うわーーーーん!!!!」
テレアが号泣しながらものすごい勢いで部屋を飛び出して行ってしまった。
場に一瞬の静寂が訪れる。
「―――今のはさすがに酷いですね」
「俺なりのパーティーギャグだったんだが、言葉のチョイスを完全に間違えたな……」
「ギャグだったんですか!? 完全にとどめ刺してましたけど!?」
シエルが驚愕の表情で俺を見てきた。
「……シューイチ、テレアに謝ってきて」
「わかってるよ、さすがに今のはやりすぎた」
普段滅多に感情を表に出さないフリルが、珍しく怒っているのが表情から見て取れる。
俺も静かに席を立って、テレアの後を追いかけるべく部屋を出る。
さてはて……テレアはどこに行ったんだろう? 凄い勢いだったし転んだりしてなきゃいいけど。
「どこ行ったんだろうな……」
テレアは探知するのも得意だが、実は気配を消すのも得意だったりする。
さすがにソニアさんのレベルまではいかないものの、テレアと模擬戦するとその能力をいかんなく発揮してくるので非常に厄介なのだ。
「仕方ない……そんなに遠くにはいないだろうし多分なんとかなるだろ……」
脳内でテレアの顔をしっかりと思い浮かべながら、俺は体内の魔力を活性化させていく。
「よし……転移!」
全身を浮遊感が包んだと思うと、一瞬にして景色が切り替わりやたらとファンシーな光景が目に前に広がっていた。
この可愛い物で溢れかえっているのは……。
「おっお兄ちゃん!?」
やはりテレアの部屋か。
わざわざ転移を使うまでもなかったな……とはいえこのくらいの距離なら、素の状態の俺でもなんとか転移を使えることが分かったのはちょっとした収穫だな。魔力ごっそり減ったけど。
テレアの顔を見ると、泣いていたのか顔が涙でべたべたになっていた。……今更ながらに悪いことをしてしまったな……反省。
「えっと、ごめんなテレア? さすがにあの言い方はダメだった……」
「……」
俺の言葉に対し、テレアはそっぽを向くことで答えてきた。うわぁ……これ思った以上にダメージ来るな……。
「本当に悪かった! この通り!! 許してくれテレア!!」
土下座する勢いで……というか実際に土下座しながらテレアに謝り倒していく。
土下座が功を成したのか、あふれる涙をぬぐいながらもテレアが俺に向き直ってくれた。
「もういいよ……テレア別に怒ってるわけじゃないから……」
「でも俺の不用意な言葉でテレアを傷つけちゃったんだろ? だから……」
俺の言葉を受けて、テレアが小さく首を横に振った。
「お兄ちゃん……一つ聞きたいんだけど……」
「おう! 一つと言わず何でも聞いてくれ!」
「テレアはずっとお兄ちゃんの役に立ちたいから、一生懸命強くなろうって頑張ってたけど……それだけじゃダメなのかな?」
「……ダメとは?」
全然ダメではないぞ? テレアのおかげで今まで何とかなった場面だって一杯あったし。
いや……多分これそういうことじゃないんだろうな……。
「テレアじゃいくら頑張っても、レリスお姉ちゃんみたいになれないのかな……?」
「それは……」
「レリスみたいに」か……その言葉が何を意味するかが分からないほど、さすがの俺も馬鹿じゃない。
てっきりテレアは俺とレリスのことを知らないと思ってたんだけど……ていうか昨日まで全く気が付いてなかったよな?
「昨日レリスお姉ちゃんに聞いてみたの……そしたら……」
「あーレリス本人から直接聞いたのかー」
いつか言わないといけないなーとは思ってグズグズしてたらこのざまか……全く俺と言う奴は……。
テレアが俺に対して抱いている感情が、ただの「お兄ちゃん」ではないことは随分前から気が付いてはいたんだけど……ていうかリリアさんから言われてたしな。
「テレアまだ子供だけど、一生懸命強くなればレリスお姉ちゃんと同じになれるかなって思ってたけど、テレアが強くなっちゃったらお兄ちゃんはテレアのこと嫌いになるの……?」
俺はテレアの元へ歩いて行き、しゃがみ込んで視線の高さを合わせて、頭を撫でようと……いや、それじゃダメだよな。
この子は俺が思っているよりも子供じゃないんだ……恐らく俺は無意識にテレアをずっと子ども扱いしてて、テレアもそれに気が付いてずっと「そうじゃないよ」って主張してたんだろう。
にも拘らず、俺はそれに気が付かないばかりかずっとテレアを子供扱いしてたんだ……さぞ胸中複雑だっただろうな……。
「大丈夫だよ? 俺がテレアを嫌いになるはずがないから」
そう言って、俺はテレアの小さい身体を優しく抱きしめてあげた。
華奢だなぁ……こんなに華奢なのにいつも俺の役に立つために一生懸命前に出て戦ってくれてたんだな。
「お兄ちゃん……」
俺は今までこの子に何をしてあげられていただろうか? 無意識に傷つけてただけなんじゃないだろうか? この子は俺の為にいつも勇気を出して一杯傷ついていたのに、俺はこの子に何もしてやれてない気がする。
それなら次は俺が勇気を出す番だよな?
「テレアは、俺のこと好きか?」
「……うん……大好き……テレアはお兄ちゃんの……お嫁さんになりたい……」
お嫁さんときたか……テレアの想いの強さにびっくりだ。
「そうだなぁ……もしもテレアがもう少し大きくなって、その気持ちがまだ続いてたらその時にもう一度俺に聞かせてくれないかな? 俺もその時まで心の準備しとくからさ」
「でも……レリスお姉ちゃんが……」
「大丈夫だからな? そこはなんとかなる……ていうかなんとかするし」
「お兄ちゃん……うん……テレア、お兄ちゃんが大好きだよ」
そう言って、控えめながらもテレアが俺にキュッと抱き着いてきた。
あれだな……ここまで沢山の想いを向けられると俺もいい加減覚悟が出来てきたな……うん。
俺の胸の中で幸せそうに顔をうずめるテレアの頭を優しく撫でながら、今まであやふやだった色んな想いがゆっくりと固まっていくのを感じていた。
鍵とか掛けていかなくても大丈夫なのかな?
「さてと……これからどうしようかな?」
スチカの用事に丸一日付き合わされると思っていたが、想像以上に時間が余ってしまった。
ていうかお腹すいたな……時間的にはもうお昼過ぎてるんじゃないかな?
「よし、炊き出しの手伝いをしているテレアたちのところへ行こう」
誰に言うわけでもなくそう呟いた俺は、早速足を踏み出す。
ひょっとしたら俺にも何か食べ物を分けてもらえるかもしれないからな。
それならどこかに食べに行けばいいだろ?……と思われるかもしれないが、昨日の今日で街中を歩くのは少しご遠慮したい。
なにせ全裸状態であちらこちらに出没したからなぁ……絶対顔を覚えられてるだろうし。
最近はすっかり慣れてしまったものの、俺にだって一般的な羞恥心くらいはちゃんとあるのだ。
そんなことを思いながら炊き出しが行われているお城の中庭まで歩を進めていると、前方に見知った二人組が歩いてくるのが見えた。
「あっお兄ちゃん!」
「……シューイチ」
白い前掛けを付けた二人が、俺を見つけるなり駆け寄ってくる。
「よっ二人とも! 炊き出しは終わったのか?」
「……休憩中」
「レリスお姉ちゃんが休憩してきていいよって」
聞けば炊き出しには難民が長蛇の列を作っているらしく、まだ終わりそうにないらしい。それを聞くだけで昨日の一件がどれだけ大規模な被害だったのかを物語ってるようで、少しばかり心苦しいな。
「お兄ちゃんはスチカお姉ちゃんのお手伝いじゃなかったの?」
「思ったより早く終わってな」
ていうかあいつを俺を置いてどこに行ったんだろうか? おっちゃんと話をしてくるみたいなことを言ってたから王様のところにいるんだろうけど。
「しかし炊き出しはそんなに混雑してるのか……何か食べ物分けてもらえるかと思ったけど無理そうだな」
「そもそもテレアたちの為にやってもらってるわけじゃないような……」
「……シューイチ意地汚い」
だってお腹すいたんだもんよう。
「お城の厨房も今大忙しらしいよ?」
「マジか……そこへ行っても何も食べられそうにないな」
「……お腹すいた」
そうなると困ったな……街だってまだ復旧作業の真っ最中だし、食べられるところ探すのも難しいだろう。あんまり時間をかけると二人の休憩時間も終わってしまう。
……仕方ない、あんまり頼りすぎるのは避けたいけど背に腹は代えられぬともいうしな。
「二人ともちょっと待っててくれ」
「お兄ちゃん?」
『シエル聞こえる?』
宝玉を手にし脳内でシエルに話しかける。
『はいはーい、なんですかー?』
『今から俺とテレアとフリルの三人でそっちにご飯食べに行ってもいい?』
『唐突ですね……今ちょうど私たちもお昼にしようと準備してたから、まあ大丈夫ですけど』
『じゃあ今から三人でそっちに行くわ』
『はーい』
シエルの間延びした返事を最後に念話を打ち切った。
よし、ちゃんとアポは取ったぞ。
「二人とも、これから俺の自室まで一緒に来てくれ。転移でエルサイムの拠点まで飛んでそこでご飯食べよう」
「転移……って?」
あっそうか、テレアはそのことを知らないんだった。
「移動しながらその辺のことも説明するよ。とにかく行こう、時間あんまりないんだろ?」
「……おなかグーペコ」
「前々から思ってたけど、お前さんそういう言葉どこで覚えてくるの?」
そんなこんなで城の俺の自室へ移動し全裸状態になってから転移でエルサイムにある拠点の自室へと飛ぶ。
そこで再び服を着なおした俺は、一瞬でエルサイムまで転移したことに驚く二人を伴いダイニングへと移動すると、そこには食事の準備のためにテーブルを拭いているコランズがいた。
「―――皆さん、おかえりなさい」
「よお! コランズ久しぶりだな! 元気にしてたか?」
「―――普通ですね」
「そうか、普通か」
あらかじめシエルから話でも聞いていたのか、コランズは特に驚くこともなくテーブル拭きを再開した。
「コランズ君、何か手伝おうか?」
「―――大丈夫ですよ、これも僕の仕事のうちですから」
昨日シエルも言っていたけど、コランズの奴かなり様になって来てるみたいだな。
テキパキと食事の準備を整えていくコランズを眺めていると、昼食をトレイに乗せたシエルがダイニングの扉を開けて入って来た。
「三人ともおかえりなさい」
「シエルお姉ちゃん、ただいま!」
「……ただいま」
「悪いなシエル、いきなり帰ってきて」
「本当ですよ、せめて一時間くらい前に連絡してくださいよ! そうすればもっと手の込んだ昼食を用意できたんですから!」
そっちに怒ってんのかよ。
「簡単なサンドイッチですけど大丈夫ですかね?」
「うん! 大丈夫だよシエルお姉ちゃん」
「……お腹すいた」
それぞれが席についていただきますをして、思い思いにサンドイッチへと手を伸ばしていく。
お腹空いてたから、なおのこと美味く感じるな。
「シューイチさんから大方聞きましたけど、中々大変だったみたいですね」
「うん、テレアも頑張ったけど、あっちこっち壊されちゃった……」
「あんだけ大量にデカブツが出てこられるとなぁ……でも薄情に聞こえるかもしれないけど、そこをいちいち悔やんでも意味ないからな? あれはさすがにどうしようもなかった」
いくら俺たちの個々の能力が高いと言っても、数の上での限界はどうしようもないからな。
「はあ……もっと強くなりたいなぁ」
「―――テレアさんは今でも十分強いと思いますが」
青龍の手助けがあったとはいえ、コランズもテレアと戦って負けてるからな。
とはいえそのコランズだってあの時のテレアと全く互角だったわけだけど。
「アーデンハイツにいる間に、もう一回くらいお師匠様に会って色々教わりたいなぁ……」
「気のせいかもしれませんが、テレアちゃんどんどん脳筋になっちゃってませんか?」
「のうきん……ってなにかな?」
「……脳みそまで筋肉の略」
サンドイッチを頬張りながらぼそっと呟いたフリルの言葉を聞いたテレアが、何やら真っ青な顔になり手にしたサンドイッチを落としてしまった。
「そっそっそっそっそ」
「落ち着けテレア、サンドイッチが台無しだ」
三秒ルールは……もう無理だな、憐れサンドイッチ。
「そんなことないよぉ! テレアは筋肉まで脳みそじゃないもん!」
「……なにそれこわい」
いやいや、逆になってるから!
「そんなんだと、いつか宗一さんに嫌われてしまうかもしれませんよぉ~?」
面白いおもちゃを見つけたかのような顔したシエルが、からかい口調で言った瞬間、テレアがまるでこの世の終わりの様な顔になって固まってしまった。
「お前も余計なこと言うな! ……でもさすがにテレアがムキムキマッチョマンになったら、俺も引くかもな?」
「うわーーーーん!!!!」
テレアが号泣しながらものすごい勢いで部屋を飛び出して行ってしまった。
場に一瞬の静寂が訪れる。
「―――今のはさすがに酷いですね」
「俺なりのパーティーギャグだったんだが、言葉のチョイスを完全に間違えたな……」
「ギャグだったんですか!? 完全にとどめ刺してましたけど!?」
シエルが驚愕の表情で俺を見てきた。
「……シューイチ、テレアに謝ってきて」
「わかってるよ、さすがに今のはやりすぎた」
普段滅多に感情を表に出さないフリルが、珍しく怒っているのが表情から見て取れる。
俺も静かに席を立って、テレアの後を追いかけるべく部屋を出る。
さてはて……テレアはどこに行ったんだろう? 凄い勢いだったし転んだりしてなきゃいいけど。
「どこ行ったんだろうな……」
テレアは探知するのも得意だが、実は気配を消すのも得意だったりする。
さすがにソニアさんのレベルまではいかないものの、テレアと模擬戦するとその能力をいかんなく発揮してくるので非常に厄介なのだ。
「仕方ない……そんなに遠くにはいないだろうし多分なんとかなるだろ……」
脳内でテレアの顔をしっかりと思い浮かべながら、俺は体内の魔力を活性化させていく。
「よし……転移!」
全身を浮遊感が包んだと思うと、一瞬にして景色が切り替わりやたらとファンシーな光景が目に前に広がっていた。
この可愛い物で溢れかえっているのは……。
「おっお兄ちゃん!?」
やはりテレアの部屋か。
わざわざ転移を使うまでもなかったな……とはいえこのくらいの距離なら、素の状態の俺でもなんとか転移を使えることが分かったのはちょっとした収穫だな。魔力ごっそり減ったけど。
テレアの顔を見ると、泣いていたのか顔が涙でべたべたになっていた。……今更ながらに悪いことをしてしまったな……反省。
「えっと、ごめんなテレア? さすがにあの言い方はダメだった……」
「……」
俺の言葉に対し、テレアはそっぽを向くことで答えてきた。うわぁ……これ思った以上にダメージ来るな……。
「本当に悪かった! この通り!! 許してくれテレア!!」
土下座する勢いで……というか実際に土下座しながらテレアに謝り倒していく。
土下座が功を成したのか、あふれる涙をぬぐいながらもテレアが俺に向き直ってくれた。
「もういいよ……テレア別に怒ってるわけじゃないから……」
「でも俺の不用意な言葉でテレアを傷つけちゃったんだろ? だから……」
俺の言葉を受けて、テレアが小さく首を横に振った。
「お兄ちゃん……一つ聞きたいんだけど……」
「おう! 一つと言わず何でも聞いてくれ!」
「テレアはずっとお兄ちゃんの役に立ちたいから、一生懸命強くなろうって頑張ってたけど……それだけじゃダメなのかな?」
「……ダメとは?」
全然ダメではないぞ? テレアのおかげで今まで何とかなった場面だって一杯あったし。
いや……多分これそういうことじゃないんだろうな……。
「テレアじゃいくら頑張っても、レリスお姉ちゃんみたいになれないのかな……?」
「それは……」
「レリスみたいに」か……その言葉が何を意味するかが分からないほど、さすがの俺も馬鹿じゃない。
てっきりテレアは俺とレリスのことを知らないと思ってたんだけど……ていうか昨日まで全く気が付いてなかったよな?
「昨日レリスお姉ちゃんに聞いてみたの……そしたら……」
「あーレリス本人から直接聞いたのかー」
いつか言わないといけないなーとは思ってグズグズしてたらこのざまか……全く俺と言う奴は……。
テレアが俺に対して抱いている感情が、ただの「お兄ちゃん」ではないことは随分前から気が付いてはいたんだけど……ていうかリリアさんから言われてたしな。
「テレアまだ子供だけど、一生懸命強くなればレリスお姉ちゃんと同じになれるかなって思ってたけど、テレアが強くなっちゃったらお兄ちゃんはテレアのこと嫌いになるの……?」
俺はテレアの元へ歩いて行き、しゃがみ込んで視線の高さを合わせて、頭を撫でようと……いや、それじゃダメだよな。
この子は俺が思っているよりも子供じゃないんだ……恐らく俺は無意識にテレアをずっと子ども扱いしてて、テレアもそれに気が付いてずっと「そうじゃないよ」って主張してたんだろう。
にも拘らず、俺はそれに気が付かないばかりかずっとテレアを子供扱いしてたんだ……さぞ胸中複雑だっただろうな……。
「大丈夫だよ? 俺がテレアを嫌いになるはずがないから」
そう言って、俺はテレアの小さい身体を優しく抱きしめてあげた。
華奢だなぁ……こんなに華奢なのにいつも俺の役に立つために一生懸命前に出て戦ってくれてたんだな。
「お兄ちゃん……」
俺は今までこの子に何をしてあげられていただろうか? 無意識に傷つけてただけなんじゃないだろうか? この子は俺の為にいつも勇気を出して一杯傷ついていたのに、俺はこの子に何もしてやれてない気がする。
それなら次は俺が勇気を出す番だよな?
「テレアは、俺のこと好きか?」
「……うん……大好き……テレアはお兄ちゃんの……お嫁さんになりたい……」
お嫁さんときたか……テレアの想いの強さにびっくりだ。
「そうだなぁ……もしもテレアがもう少し大きくなって、その気持ちがまだ続いてたらその時にもう一度俺に聞かせてくれないかな? 俺もその時まで心の準備しとくからさ」
「でも……レリスお姉ちゃんが……」
「大丈夫だからな? そこはなんとかなる……ていうかなんとかするし」
「お兄ちゃん……うん……テレア、お兄ちゃんが大好きだよ」
そう言って、控えめながらもテレアが俺にキュッと抱き着いてきた。
あれだな……ここまで沢山の想いを向けられると俺もいい加減覚悟が出来てきたな……うん。
俺の胸の中で幸せそうに顔をうずめるテレアの頭を優しく撫でながら、今まであやふやだった色んな想いがゆっくりと固まっていくのを感じていた。
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