無敵の力で異世界無双~ただし全裸~

みなみ

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白虎~雪山の戦い~

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 この声……耳ではなく脳に直接語り掛けてくるかの響き……私はこの感覚を知っている。

「あなたが最近この山に住み着いたという魔物ですか?」
『魔物……そう思ってもらっても構わぬが……そういうお前も人間ではないな?』
「……私は人間……ですよ……」

 そう、私は人間だ。

『まあいい……この山に何をしに来た?』
「決まっています、あなたのせいでこの山のふもとにあるクルテグラという国の周辺に、元々ここにいた魔物たちが降りてきて迷惑しているんです! それを何とかしに来ました!」
『そうか……その国には悪いとは思うが、この山を護るのは某の使命だ』

 なんだか随分変わった一人称を使うなぁ……。
 それにしてもこの山を護っている……か。

「この山を護るためにふもとの国に迷惑を掛けて良い理由にはなりませんよ?」
『知らぬ。与えられた恩を返すことが某の務めだ』
「恩を与えられた……? 誰に?」
『それをいうことはできぬ』

 ようするに誰かしらに恩を受けたので、その恩を返す為にここでこうして山にいる魔物を追い出している……という認識で間違いないようだ。

「ていうかいい加減姿を現してください!」
『何を言うか、姿ならとっくに現しておるぞ』
「え?」

 まさかと思い目を閉じて視力に魔力を集中させて再び目を開けると、そこにはプラチナの髪に白いマフラーを風になびかせ、これまた全身真っ白の服を着た謎の少年が立っていた。
 なんだろう……見た目的にはコランズ君を彷彿とさせるけど、こっちの方が随分と野性味にあふれた表情をしている。

「なるほど……それがあなたの姿……いえ仮の姿ですか?」
『……貴様、どうやら某の事情に精通しておるな?』

 どうやら先生の予測は当たっていたようだ。

「あなた、白虎ですね?」
『白虎……それが某の本当の名前なのか?』
「……何を言ってるんですか? あなた神獣ですよね?」
『神獣? なんだそれは?』

 なんだろう、会話がうまくかみ合ってないこの感覚。
 さっきから感じているこの人から感じる特異な魔力は、玄武や朱雀が纏っていた魔力と全く同質の物だ。
 恐らく彼が白虎で間違いないはずなんだけど……。

「あなたもしかして記憶を失っているんですか?」
『記憶……たしかに某は何も思い出すことは出来ぬ。ただ一つわかっているのは、某を封印から解いてくれた者たちの為にもこの場所を護るということだけだ』

 神獣関係の事件が今までスムーズに解決したことがないとはいえ、まさか今度は記憶喪失とは……というか今封印を解いてもらったって言ったような?

「封印を解いてもらったって……誰にですか!?」
『なるほど……彼らの言った通り、某と彼らの関係を根掘り葉掘り聞こうとするものは敵と認識して良さそうだな』
「はぁっ!? なんでそうなるんですか!?」
『某は彼らの守護者となった! そうなった以上、迫りくる彼等への脅威は排除しなければならぬ! 覚悟せよ!!』

 うわぁ……全然話通じない。
 向こうはやる気満々みたいだし……戦って勝てるだろうか?

『すぅ―――……破っっっ!!!!』

 白虎が体内の魔力を練り上げて声を上げた瞬間、私は後方に大きく吹き飛ばされていた。
 しまった! あまりに突然のことで防御する暇もなかった!

『取った!!』

 吹き飛ぶ私の元に真っすぐ跳んできた白虎が、私に向けて真っすぐに拳を振り下ろす。

「プロテクション!!」

 咄嗟に魔力による壁を張るも、その壁は白虎の拳によってあっさりと破壊されてしまった。

『この程度、壁にもならぬぞ!!』
「ええそうですね!」

 再び拳を振りかざした白虎のがら空きとなったみぞおちに私は狙いを定め、魔力を一気に解放した。

「ドルク・ブロウ!!」
『がはっ!!?』

 私の両手から放たれた、魔力で作られた拳の形をした土の塊が白虎のみぞおちに突き刺さり、そのまま上空に大きく吹き飛ばされていく。

「あうっ!?」

 吹き飛ばされた私はというと、木に背中から当たることでようやく止まることが出来たが……。

「いたっ……完全に先手撃たれましたね……」

 ズキズキと痛む背中を手を当てながら後ろに振り返ると、木の向こう側は切り立った崖となっていた。
 もしこの木にぶつからなかったら、ここから真っ逆さまだと思うとぞっとする。

『運のいい奴だ』

 白虎は何事もなかったかのように着地しており、お腹についた魔力で出来た土を手で払いのける。
 倒せないまでもそれなりのダメージを与えられた一撃だと思ったのに……やはり神獣には魔法の効き目が薄いのだろう。シューイチさんもそんなようなことを言っていたし。

『先日ここで戦った者たちよりは楽しめそうだ』
「先日……? もしかして!?」

 間違いない、先生が言っていた先に調査に来ていた冒険者だ!

「その人たちはどうなったんですか!?」
『安心しろ、死んではおらん。だがもうここにはおらぬ』
「どこへ連れて行ったんですか!」
『いうわけがなかろう? それよりもっと戦うぞ! 華奢な人間もどきと侮っていたが、予想以上に出来るようだ!』
「ああもう! 少しはこっちの質問にも答えてくださいよ!!」

 ていうか人間もどきとか失礼だ!
 そんなことを考えている間にも、地を蹴った白虎が物凄い勢いで私の元へと迫ってくる。
 このスピードはテレアちゃんを彷彿とさせるなぁ……ってそんなこと考えてる場合じゃない!!

「アース・ウォール!!」

 前方に魔力の岩でできた分厚い壁を作り出したが、次の瞬間腹の底まで響くような打撃音と共に岩壁にひびが入った。

『この程度で某は止まらぬ!!』

 再び打撃音が響き、ひびがどんどん広がっていく。もってあと10秒くらいか……。
 仕方がない……死ぬよりはましだ。

「大いなる創造主よ、目の前の不浄なるものを切り裂く光の刃を我に!」

 私の身体に流れる力……天力を両手に集めて呪文を唱える。
 両手に集められた天力が光放ちながらどんどん大きく膨れ上がっていく。
 勝負は一瞬……この壁が壊されたその一瞬!
 左手を真上に……右手を真横に構え、私はその一瞬を待ち構える。

『破ぁっ!!!』

 白虎の怒号と共に岩でできた分厚い壁がついに破壊された。
 今だ!!

「クロス・ブレード!!!」

 それぞれ構えた両手をお互いにクロスさせるように振り下ろすと、光の軌跡が十字架を模り刃となって白虎を捕らえた。

『うぐあああああぁぁぁぁぁああぁ!!!??』

 大きな十字の傷をつけられた白虎が血をまき散らしながら後方に吹き飛んで、大きく突き出た岸壁に激突した。

『なんだこれは……某の身体に傷をつけられるこの力……がああぁぁ!?』

 傷の痛みにもんどりを打ちながら、白虎が地面を転げまわる。
 上手く直撃させたからかなりのダメージになったはずだ。この間に……!

「テレポート!!」

 どこでもいい! とにかく逃げないと……このまま戦っていても勝ち目なんかない!
 必死にそう思いながら、私は転移によってその場を離脱したのだった。





 どこでもいい! とにかく逃げないと……ここにいても俺の心に平穏なんか訪れない!
 必死にそう思いながら、俺は店の出口へと足をむけたが……。

「どこいくつもりやねんシュウ? 次はこれを見てくれ!」
「シューイチ様! 先ほどの服よりもこちらの方が色合い的にいい感じだと思われるのですがいかがでしょうか?」

 うが……完全に逃げ遅れた。
 振り返ると、もう何着目かの服を手に俺の前に立つレリスとスチカ。
 どうやらたかが防寒服と言えど自身に似合う物を選びたいらしく、こうしてその都度俺の元にやって来て意見を聞いてくるのだ。
 さっきからこの繰り返しである……もうなんでもいいじゃんよー暖かければさぁー!

「……それもさっきの服も似合ってるよ?」
「それではダメなのです! 防寒服とはいえシューイチ様に見られるのですから、わたくしに似合ったものを選びませんと!」
「今回ばかりはレリスの言う通りや! だからもっとしっかり見ろや!」
「二人ともテレアとフリルを見習ってスパッと決めてくれよもう……!」

 ちなみにテレアとフリルの二人はあまりファッション的な物に興味がないのか、俺が「これとかいいんじゃないか?」と軽く勧めた物に決めてものの5分ほどで買い物を済ませている。

「レリスお姉ちゃんたち、物凄く一生懸命だね」
「……テレアもいつかはああなる」
「なる……のかな?」
「そうねぇ……今はまだテレアも子供だからああいい風に意識しなくても自分の感性だけを頼りに選べるだろうけど、もうあと二・三年も経ったらわからないわね」

 なにやら心当たりがあるのか、ルカさんがうんうんと頷いていた。
 テレアには純真な心のままでいてほしいんだけどなぁ……。

「……シューイチ、大人になるって悲しいことなの」
「サラマンダーよりも早いってか?」

 前々から思ってたけど、フリルのボケの引き出し半端ないな?
 もしかしてスチカから俺の世界の笑いのネタとか仕入れてるんだろうか?

「二人とも、少なくともあと10分以内に決めないと、今回は置いていくからな?」
「んな殺生な!?」
「ぐっ……これは本気を出さないといけないみたいですわね……!」

 これで少なくとも10分以内には買う物を決めてくれるだろう……全くこっちとら時間がないってのに。
 しかし一人で雪山に行くなんて……エナも随分と無茶をするものだ。
 なんか変なことに巻き込まれてなきゃいいけどなぁ……朱雀の話から総合するに雪山にいるのはほぼ間違いなく白虎だろうし、頼むから早まったことだけはしないでほしい。
 本当なら転移ですっ飛んでいきたいところだけど、相変わらずエナの元には転移ができないし……やはり地道に歩いて雪山まで行きエナを探すしかないな。

 そんなことを考えているうちに、レリスとスチカはやっと買い物済ませ、俺たちはようやく店を後にしてギルドへ戻ることとなった。二人があーだこーだしてる間に一時間も経過している……女子の買い物が長いと言うのは本当だったんだな。

「時間的はそろそろギルドから新しい依頼が出た頃じゃないかしら?」
「早くエナお姉ちゃんを探しに行かないとだね」
「せやな! なんか嫌な予感もするしな!」
「エナさんの身に危険が迫ってる気がします……急ぎませんと!」

 そう思うならたかが服を選ぶのに一時間も掛けないでほしいというツッコミを俺はグッと堪えた。
 ともかくこれで最低限雪山へ行くための装備を整えることが出来た。
 後はシオンさんを通じて国から出たであろう雪山調査の依頼を受ければ、ようやく雪山に行けることとなる。

『みんなちょっといいかしら?』

 そんなことを思っていると、レリスから突然光が発生し朱雀が姿を現した。

「どうしました朱雀?」
『方角的にはあの大きな雪山の方ね……白虎の魔力を確認したわ』
「白虎の!?」

 どうやらこれであの雪山に白虎がいることが確定してしまったな。

『それともう一つ……あの子の魔力も一緒に確認できたわ』
「あの子って……エナか!?」

 スチカの言葉に朱雀が小さく頷いた。
 エナと白虎の遭遇……なんてこった、予想される最悪のケースじゃねーか!?

「今どうなってるかわかるか?」
『さっきまでお互いに戦ってたみたいだけど、今は違うみたいね……白虎の魔力が大きく低下してるから、恐らくあの子が白虎に深手を負わせたんだろうけど』
「エナのほうは?」
『もうその場にはいないわね……そこそこ離れた場所に転移で逃げたみたいだけど、雪山にいることは間違いないわね』

 こりゃまじでぼやぼやしてる暇はないな!

『でもおかしいわね……この魔力の感じは完全に白虎は封印が解けた状態になってるわ』
「神獣の封印が解けてるなら白虎は暴走してるってことですか?」
『それが変なのよ……この白虎には暴走の種による暴走の気配が全く感じられないのよね……』

 今までの神獣たちは朱雀という例外はあったものの、もれなく封印解除後は邪神のせいで暴走していた。
 それがないというだけでも、今回のケースがまた異常なのだと言うのがよくわかる。

「あの……その鳥がもしかして神獣?」
「あっ、そういえばルカさんにはちゃんと説明しておりませんでしたわね」
「細かい説明を受けたいところなんだけど、今は時間がないのよね? ならあなたたちは先に雪山へと向かって? 私は今からギルドに戻ってラトルと一緒に依頼を受けておくから! もしもあなたたちが雪山に着く間に依頼が受理されれば、関所で私とラトルの名前を出せば恐らく関所を抜けられると思うから!」

 事は緊急を要するみたいだし、ここは素直にルカさんの提案に従っておこう。

「わかりました! それじゃあ俺たちは先に雪山へと向かいます!」
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