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樹木母
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てんてんてまり はなでまり
かわいいややこ うめたばしょ
きれいなおはな さきみだれ
あまいにおいで てをまねく
てんてんてまり はなでまり
ややこのともだち うめたばしょ
きれいなおはな さきほこり
あまいかおりで てをまねく
てんてんてまり はなでまり
てんてんてまり はなでまり
昔、山寺に乳房を持つ木があり、乳の出ない母達が願掛けに訪れていた。
「乳の木の神様、乳の木の神様。この子が吸えるだけの乳をわけてくだせぇ」
ある日、思い余った母が子に木の乳房を吸わせた。子は無我夢中で吸い、母は、これで子は生きられると思った。
夜中、ドンドンと乱暴に寺の門が叩かれ、住職が何事かと飛び出すと、麓村のまだ若い女が立っていた。
「子が、あたしの子が居なくなって……」
「落ち着きなさい。一体どうしたんだね」
「子供が居なくなったんです。まだ歩けやしないのに」
「そりゃあ大変だ」
動物に拐われたのか、神隠しにあったのか。
村長の役目も担う住職は、とにかく若い母親を落ち着かせるために門の内側へ招き入れた。
「ああ……!」
子が、あの木の乳房を吸っていた。
「坊や! 坊や!」
乳房の木へ駆け寄り、赤ん坊を抱き締めて泣く母親を家へ帰らせ、乳房の木に住職は語りかけた。
「あれはお前の子ではない」
『あれは私の乳を吸い、生きながらえた。私の子だ』
「あれを産んだ母が、乳が出ずに悩んでいたのだ」
『ならば私が乳を与えよう』
翌晩、再び寺の門が叩かれた。
今度は、落ち着きを持ってゆっくりと。
「坊は、子は、またこちらでしょうか?」
窶れた顔で訪れたのは、昨晩の若い母親だ。
子は、二晩続けて、乳房の木の乳を貪っていた。
若い母親はそれを眺め、子が満足するのを待ってから、己が子を抱いて帰った。
乳房の木に住職は語りかけた。
「あれはお前の子ではない」
『あれは私の乳を吸い、生きながらえた。私の子だ。私が乳を与えよう』
その翌日も、翌翌日も、更にその次の日も、毎晩、子は家から消え、乳房の木で見つかった。
そして、毎晩、住職は乳房の木へ語りかけた。
だが、乳房の木の返事はいつも同じだった。
「あれはお前の子ではない」
『あれは私の乳を吸い、生きながらえた。私の子だ』
「あれを産んだ母が、乳が出ずに悩んでいたのだ」
『ならば私が乳を与えよう』
語らいは一月に及んだ。
その間も子は木の乳を吸い、母は毎日寺へ来て子の世話をした。
一月が過ぎた頃、いつもの様に子が満足するまで乳房の木の乳を貪り、子の母が子を抱くと、子の父が現れた。
「嫁と子を迎えに来た」
苛々とした様子を隠そうともせず、子を抱いた母親である嫁の腕を掴み、引き寄せる。
「あんた、何を……」
「何をも何も、こいつが全部悪いんだろうが」
手に持った斧で、住職の背後の乳房の木を指し示す。
「いかん、何をする気じゃ!」
「俺ぁなぁ、ここ一月、嫁も抱けねぇ。夜もマトモに寝れねぇ。嫁と子が毎晩毎晩どこかへ消えやがる」
「やめんか!」
斧を大きく振りかぶり、そして思いきり叩きつけた。
乳房の木が真っ二つに避けた瞬間、うおおおおおおおん……と山全体が震え、子が木と同じ様に裂けた。
子の母の悲鳴が辺りを占める。
「なんと……なんと言う事だ……」
「……あああああああああ……」
子の母は、真っ二つの子を抱いたまま、ふらふらと山奥へと歩き入って行き、その内、見えなくなった。
誰にも止める事が出来なかった。
暫くして、乳房の木のあった場所には、一面、白い花が咲き乱れた。
見た事の無い花だった。
花は、夜毎に歌う。
てんてんてまり はなでまり
かわいいややこ うめたばしょ
きれいなおはな さきみだれ
あまいにおいで てをまねく
てんてんてまり はなでまり
ややこのともだち うめたばしょ
きれいなおはな さきほこり
あまいかおりで てをまねく
てんてんてまり はなでまり
てんてんてまり はなでまり
その山には今も、真っ二つに裂けた子を抱いた女がさ迷っていると言う。
かわいいややこ うめたばしょ
きれいなおはな さきみだれ
あまいにおいで てをまねく
てんてんてまり はなでまり
ややこのともだち うめたばしょ
きれいなおはな さきほこり
あまいかおりで てをまねく
てんてんてまり はなでまり
てんてんてまり はなでまり
昔、山寺に乳房を持つ木があり、乳の出ない母達が願掛けに訪れていた。
「乳の木の神様、乳の木の神様。この子が吸えるだけの乳をわけてくだせぇ」
ある日、思い余った母が子に木の乳房を吸わせた。子は無我夢中で吸い、母は、これで子は生きられると思った。
夜中、ドンドンと乱暴に寺の門が叩かれ、住職が何事かと飛び出すと、麓村のまだ若い女が立っていた。
「子が、あたしの子が居なくなって……」
「落ち着きなさい。一体どうしたんだね」
「子供が居なくなったんです。まだ歩けやしないのに」
「そりゃあ大変だ」
動物に拐われたのか、神隠しにあったのか。
村長の役目も担う住職は、とにかく若い母親を落ち着かせるために門の内側へ招き入れた。
「ああ……!」
子が、あの木の乳房を吸っていた。
「坊や! 坊や!」
乳房の木へ駆け寄り、赤ん坊を抱き締めて泣く母親を家へ帰らせ、乳房の木に住職は語りかけた。
「あれはお前の子ではない」
『あれは私の乳を吸い、生きながらえた。私の子だ』
「あれを産んだ母が、乳が出ずに悩んでいたのだ」
『ならば私が乳を与えよう』
翌晩、再び寺の門が叩かれた。
今度は、落ち着きを持ってゆっくりと。
「坊は、子は、またこちらでしょうか?」
窶れた顔で訪れたのは、昨晩の若い母親だ。
子は、二晩続けて、乳房の木の乳を貪っていた。
若い母親はそれを眺め、子が満足するのを待ってから、己が子を抱いて帰った。
乳房の木に住職は語りかけた。
「あれはお前の子ではない」
『あれは私の乳を吸い、生きながらえた。私の子だ。私が乳を与えよう』
その翌日も、翌翌日も、更にその次の日も、毎晩、子は家から消え、乳房の木で見つかった。
そして、毎晩、住職は乳房の木へ語りかけた。
だが、乳房の木の返事はいつも同じだった。
「あれはお前の子ではない」
『あれは私の乳を吸い、生きながらえた。私の子だ』
「あれを産んだ母が、乳が出ずに悩んでいたのだ」
『ならば私が乳を与えよう』
語らいは一月に及んだ。
その間も子は木の乳を吸い、母は毎日寺へ来て子の世話をした。
一月が過ぎた頃、いつもの様に子が満足するまで乳房の木の乳を貪り、子の母が子を抱くと、子の父が現れた。
「嫁と子を迎えに来た」
苛々とした様子を隠そうともせず、子を抱いた母親である嫁の腕を掴み、引き寄せる。
「あんた、何を……」
「何をも何も、こいつが全部悪いんだろうが」
手に持った斧で、住職の背後の乳房の木を指し示す。
「いかん、何をする気じゃ!」
「俺ぁなぁ、ここ一月、嫁も抱けねぇ。夜もマトモに寝れねぇ。嫁と子が毎晩毎晩どこかへ消えやがる」
「やめんか!」
斧を大きく振りかぶり、そして思いきり叩きつけた。
乳房の木が真っ二つに避けた瞬間、うおおおおおおおん……と山全体が震え、子が木と同じ様に裂けた。
子の母の悲鳴が辺りを占める。
「なんと……なんと言う事だ……」
「……あああああああああ……」
子の母は、真っ二つの子を抱いたまま、ふらふらと山奥へと歩き入って行き、その内、見えなくなった。
誰にも止める事が出来なかった。
暫くして、乳房の木のあった場所には、一面、白い花が咲き乱れた。
見た事の無い花だった。
花は、夜毎に歌う。
てんてんてまり はなでまり
かわいいややこ うめたばしょ
きれいなおはな さきみだれ
あまいにおいで てをまねく
てんてんてまり はなでまり
ややこのともだち うめたばしょ
きれいなおはな さきほこり
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その山には今も、真っ二つに裂けた子を抱いた女がさ迷っていると言う。
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