疱瘡仏

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疱瘡仏

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 兄が、海から拾ってきたという流木をSNSへアップしていた。
 仏像みたいだな……と思い、いいねを付けておいた。
 その夜、夢を見た。

「これ……」
「おや、何を拾ってきたのかね?」
 それ大時化おおしけの後、村の孤児が長者の家に「買い取ってくれ」と持ってきたモノだった。
「ほうほう」
 孤児は海や山で拾った物を村の長者の家で買い取って貰い、生計を立てていた。主に貝や薪であるが、時折こうして珍しい物を拾ってくる。
「これは良いモノに違いないね」
 その木片は、右掌を見せ左は肘から先が無い仏像の様に見えた。
「仏様だ。良い物を拾ったものだね」
 海岸沿いで拾ったと言う其を、まぁ仏様に見えるのだから尊いモノに違いないと孤児には小銭を多めにやって帰らせた。
「ああ、キヨや。コレも仏様と一緒に世話を頼むよ」
 長者は、仏壇を磨く下女に声を掛け、木片を手渡した。

「ああ、もう! 汚らわしい!」
 同じ頃、下働きに疱瘡ほうそうが流行り、既に何人かにいとまを出した。それで手が足りずに不便をしていたら、今度は長者の子供が疱瘡になり、慌てて医者を呼んだ。
 医者は遠出しており戻りが夜になると言う。
 丁稚に、明日医者を長者宅へ向かわせると約束させたその足で、奥方は最初に疱瘡になった下女の親に文句を言おうと仲介屋へ行った。
「なんだってあんな病気持ちを我が家に回しておくれだい! おかげで坊まで病気にかかっちまった! 一言、あの女の親に文句を言わなきゃ気が済まないよ!」
 仲介屋は顔をしかめた。
「あの家は先月、疱瘡で全員倒れ、家も遺体も焼かれたよ。あんたが文句を言いたい相手はもう居ねぇし、むしろあんたんとこで働き始めてから何年経ってると思ってるんだいね。文句を言いたいのはあちらさんだろうよ」
 仲介屋で喚く奥方は目立つ。
 皆が奥方を遠巻きに眺め、けた。
 村では疱瘡に怯えると同時に、なぜ長者の家の者だけが疱瘡にかかったのかといぶかしがった。
 いや、そういえば孤児の一人を最近見ない気がすると誰かが言うが、気にした所で他人の子供を養えるわけでもない。すぐに噂は立ち消えた。

「戻ったよ。あんた、どうしたんだい、そんな所で寝て……?」
 家に帰った奥方は、夫である長者が倒れているのを見つけた。
 駆け寄ろうとしてそのまま崩れ落ちる。
 急な目眩。頭痛。寒気。
 ぎしぎしと手足と腰が痛む。
 目がかすみ、身体を起こす事ができなかった。
 目の前で呻く夫の身体に沸々と赤い斑点が広がり、赤い斑点はぶくりぶくりとみるみる盛り上がると膿を湛え、やがてぐしゃりと割れ……。
 奥方は己の顔で何かが弾けたのを感じた。
 動かすのすら億劫な手を、そっと自分の顔にあてる。
 ぬるりとした。
 手は、血と黄色い膿の混ざった液体でまみれていた。

 翌日、子の往診で訪れた医者が惨状を発見した。
 子は布団で息を引き取っていた。
 長者も奥方も全身を疱瘡に侵され、既に息はなかった。
 生きた人は一人も居なかった。
 遺体ごと家は燃やされる事になった。

 火が燃え広がるにつれ、何かが聞こえてきた。
 それは徐々に大きくなった。
 住職は、他所の国の神の断末魔だと言った。
 やがて、全てを焼き付くした後、燃え残った仏像を祠で囲った。
 その仏像は、右掌を見せ左は肘から先が無かった。
 その後、村では疱瘡が流行る事もなかった。

 そして、百五十年も経つと村の土地が売られはじめた。
 開発が進み、人の手が村に入り始め、村は町へと名を変えた。
 鉄道が通り、駅が建てられ、商店街ができた。
 元長者の土地を買ったのは若夫婦で、流行りの家を建てた。
 だが、ある日お互いを刺した姿で発見された。
 血と黄色い膿で悲惨な有り様だった。
 祟りだと言う噂だ。
 夫婦には身体中に痘痕あばたがあったと言う。

 村長がその家を買い取り、破格の値段で貸しに出した。
 すると借り手はついた。
 家には寝に帰るだけだと言う男ばかりの4人組だった。
 数ヵ月後、二人の男が刃物で殺され、二人が首を吊っていた。
 四人とも、血と黄色い膿の混ざった液体でまみれて目もあてられない状態だった。
 祟りだ呪いだと噂は更に強固になる。
 彼らの死体にも痘痕あばたがあった。

 家は取り壊された。
 だが立地の良い土地であったので企業が買い取った。
 そこには小さなマンションが建った。
 部屋はすぐに埋まった。
 10世帯程の住民達は皆が皆異変に陥った。
 事故、薬の過剰摂取、障害事件、自傷、首吊り……異常だった。
 中でも、既に死病では無くなった筈の疱瘡が流行った。
 毎日、誰かの叫び声が聞こえた。
「死なせて」と。
 急な目眩。頭痛。寒気。
 ぎしぎしと手足と腰が痛む。
 目がかすみ、身体を起こす事ができない。
 いっそ死なせてくれと膿と血溜まりの中から叫ぶのだ。
 疱瘡は、ありえない速さで悪化し、それに耐えきれずに死を求めた。

 やがて呪われた土地だと、町からは人が流出し、鉄道も廃線となり、町への道は塞がれた。

 その程近い海岸で、兄がふらふらと歩いている。
 と、不意に屈み、流木を拾った。
 その木片は、右掌を見せ左は肘から先が無い仏像の様に見えた。

 スマホの着信音で目が覚めた。
 バクバクと心臓が早鐘を打つ。
 スマホには、【母】の文字が踊っていた。
 着信音が止まるのとほぼ同時に、メールがきた。

「お兄ちゃんが亡くなりました」
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