アイオライト・カンヴァス 【下】【前編完結済み】

オガタカイ

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23歳・立秋 ー混ざり合い、重なるー

2.社畜の帰りを待ち侘びて

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「ーーー…うと、……夕人」

「…………ん………」




名前を呼ばれながら肩を優しく揺さぶる動作に、夕人はうっすらと目を開けた。



「…………んん…。……はやみ…?……」


すぐ近くには心配そうな顔で見つめる速生の顔があり、夕人ははっとする。


「あっ、…おれ、寝てた……?
ーーおかえり…」



突っ伏したベッドから顔を上げ、周りを見渡す。

ベランダに面した大きな窓からは橙色の西陽が差し込んでいて、日暮れを知らせている。



「ごめんな、夕人。遅くなって……。
一旦会社寄ったら課長が来てて、いろいろ呼び止められてなかなか帰られなくて……。
ほんっとごめん……」



ワイシャツにネクタイのまま夕人のすぐ近くに座り込み、今にも土下座でもしそうな勢いで謝り倒す速生。


「いや……仕方ないよ。
ーーーあれ、今、何時………?」 


「えっ……?もうすぐ17時半だけど…」


「えっ!??」


それを聞いた夕人は声をあげて勢いよく立ち上がった。



「やばい!
約束、18時からなのに……遅れるっ!!」



今日の約束とは……


M美大の恩師瀬戸教授から、今度大学で行われる講演会にOBとしてゲスト出演して欲しいと頼み込まれて、短時間で良ければと承諾したことからーーー…


簡単な打ち合わせを、と久方ぶりに瀬戸教授と落ち合い食事をする約束をしていたのだった。




「えっ…夕人、約束ってどこでだよ?」


「なんか知らないけど料亭みたいなとこ!
T駅で落ち合ってそこからハイヤーで連れてってもらえるみたいに言ってたような…やばいやばい、ちょっと洗面所借りる!」



(ま、マジか……ハイヤーに、料亭で打合せって。さすがエリート画家教師……)



夕人はまだ寝起きの顔をシュッとさせるために急いで洗面所で洗顔し、慌てた様子で自分の持ち物のチェックをする。



「速生、俺今日はもう戻って来れるかわかんないけどーー…とりあえず、また電話するから!
あっ、あといろいろ料理作ったんだけどさ……その、美味しいかわかんないけど…た、食べろよな!
じゃ、行ってきます!」



「えっ、あっ!ゆ、夕人ちょっと待っ…ーー!」




ガチャッ!……バタン…



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