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23歳・白露 ー愛するひとー
1.客寄せパンダじゃ終われない
しおりを挟む秋口と言えどまだまだ暑さの残るこの時期に……
なぜかタートルネックニットを中に着込んでいる、口元を白い不織布マスクで覆ったままの夕人は、ソファに近づくと速生を見下ろした。
口を少し開けたまま、言葉の出てこない速生の表情を一瞥して、もう一度、声をかける。
「玖賀さん?……相模です、こんにちは。
ーーーーどうされました?」
その表情は、笑っているような、少し照れているような……。
マスクの上の、端正な目元。
“驚いただろ?”と言いたそうに、まるで悪戯っ子が、はにかむのを我慢しているように。
速生は咄嗟のことに返事を返せず、
「あっ、その、っ、お、お世話になります」
と他人行儀な挨拶をしてしまう。
ーーーしめしめ、速生、驚いてるな。
声、ちょっと裏返ってるし。面白いやつ。
思い返せば、そうあれは1ヶ月前。
校長から一任すると言われた今回の、この高校創立以来初の一大イベント、人物クロッキー会。
美術科生徒のため……とは名ばかりで、蓋を開ければこの催しは結局のところ、学校側が募るスポンサーへのサービスイベントと言っても変わらないものだった。
ーーー校長先生、ああ見えてやっぱり、やり手だよな。
恣意的で、強かに。
この高校の利益となるものなら、例え教師の俺の事だって………宣伝の一環として使ってしまおうと考えるんだから。
日程は三日間に設定されていた。
その三日間のクロッキー会の授業をプログラムし、司会進行のすべてを担うことになった夕人。
日替わりで出席する予定の大勢の学校関係者、OB、権力を持つ保護者、中には聞いたことのある政治家関係者ーー…
招待客の面子を校長から聞かされた時は、正直恐れ入った、としか言えなかった。
そして、校長から頼み込まれた最後のダメ押し。
“クロッキー会が終わった後にねーー…
いらっしゃったお客さんたちに夕人先生の演説、聞かせてくれないかな?
あっいや、そんな堅苦しいものじゃなくていいんだよ?
トークタイム…というか、その、まあ質問の時間を設けて欲しくてね?
僕が君を皆さんに紹介するから、君の経歴やコンクール受賞の功績とか、いろいろと……。
ねっ?頼むよぉ、夕人先生~~!”
手を合わせて頼み込む校長の姿を思い出す。
ーーーやっぱり、客寄せパンダじゃないか。
人のこと利用する気満々だな、校長先生……。
ーーーま、いいよ。
だけどこの俺が、ただで折れると思うなよ?
そっちがその気なら、こっちだって。
使える物は使ってやる。
そして夕人は、校長に、交換条件を出した。
”クロッキー会で使う物、文具関係一式から、今後の画材品や校内備品、教材品について。”
“僕の知り合いの会社と、取引してくださいませんか?”
”ーーーそれなら、このお話、引き受けます”
ちょうど得意先の業者との取引を、教材品の値上げを理由に見直そうかと話していた校長と事務長。
“ほう、株式会社ペンタル……大きなとこじゃない!大歓迎だよ。
ちょうど、取引先を一本化させたいと事務長とも話してたところでねぇ。
夕人先生の知り合いの方なら、信用できるだろうし。
じゃ、その人をうちの担当さんにしてもらうってことで……話、進めさせてもらおうかな”
タイミングが良かったことも功を奏したらしく、二つ返事でOKを出した校長。
そして、いまに至る。
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