アイオライト・カンヴァス 【下】【前編完結済み】

オガタカイ

文字の大きさ
70 / 121
23歳・白露 ー愛するひとー

2.さあ躾の時間だ子猫ちゃん

しおりを挟む






「………ふぅーーーっ。」


ーーードスンッ!

速生は勢いよくソファに腰を下ろした。
脚を広げて、腕を組む。
人の部屋にいるというのに、とても横柄な態度。
わざとらしく、
『俺マジで怒ってるよ?』
と言わんばかりの顔つきで、立ち尽くした夕人の顔を下から見上げる。


「夕人から、よ。」

「………は、はぁっ……?な、何を…」

「何って、なんだろうな?
自分で考えてよ。
ほら、俺のこと好きなら、出来るだろ?」

「……………っ…」

「あれ?それとも、嫌い?
帰って欲しい?
こんな意地悪するやつとは……
……もう一緒に居たくもない?」

「そ、そんな、わけ……っ…ない、けど…」

夕人はそれだけ呟くと俯いて、涙ぐむ。




ーーーなんでこんな意地の悪いことばかり言うんだろう。
俺、そんなに信用ないのかな……。
確かに、あの日、いくら偶然でも…瀬戸さんと会ってお茶したことを黙ってたのは、本当だけど……

あれ、?これって……俺が悪いのかな…?

速生の言う通りにしないと…だめなやつ……?

ど、どうしよう………?



悲しそうに涙ぐんだまま下を向いて思い悩む夕人の姿を目にして感じるのは、謎の背徳感、優越感。

速生の中に、ゾクゾクと、サディスティックな感情が湧き上がる。





(ーーそんな可愛い顔で困ったふりしたって、許してあげないよ。
ほら、考えてーー…)


昂るあまりにやついてしまいそうになる顔をこらえて、うつむく夕人の目をじっと見る。


「俺いま、めちゃくちゃ不安なんだけど?
夕人がもしかして、さっき俺がああして電話切らせてなかったら、瀬戸さんとご飯行っちゃってたのかなって……俺といるより瀬戸さんの誘いの方優先してたんじゃないかって、不安で、すごく、腹立ってるんだけど?」


「そっ、そんなわけないじゃん……速生、何言って…」

「すごく心配されてたね?
『大丈夫か?』って。優しいなぁ?
ーーなぁ夕人、どう思ってんの?」

「……………っ…」






女々しくてうざい?
いいよ、別に。
なんとでも言えばいい。

だって不安なんだよ。

ほかの誰かにられるかも、なんて。
思わせるきみも悪いだろ?


だからちゃんと、教えてよ。


“俺だけ”だって。
信じさせてよ?
 











「ーーどうしたら、信じてくれる……?」


潤んだ目で見つめて、問いかける。

初めて見る、こんなにも怒りを露わにする速生の態度と表情に、どうすればいいのかわからなくて。

がっちりとした体格の良い身体が、いつもよりやたらに大きく見えて、ソファから向けられる重い威圧感にただ萎縮してしまう。




「夕人が俺のことをちゃんと『好き』だって、わかったら…かな。
だから、わからせてよ?」

「そんな、の……ど、どうやって…」


「いつも、俺が夕人にしてることだよ。
好きなら、できるよな?
ーーーほら、……乗れよ」

速生はそう言って、目線を下へーー…ソファの座部の、自分の両膝に目配せする。


「…………………っ………」


恥らいを堪え真っ赤に染まる頬。

潤んだ瞳で伏せ目がちに、夕人はゆっくりと速生の座るソファへ1歩,2歩、近寄る。




ーーーギシ……
 

皮革素材でできた肌触りの良い、高級なソファ。

スプリングがしっかり入っているためか沈みすぎない作りのその、白い座面にゆっくりと、恐る恐るーー…片方の膝をつき、少し、体重を掛ける。

「……………………」


ーーギッ、ギシ……


背持たれに寄りかかる速生の肩に手を乗せ、もう片方の膝も、ソファへ。

速生の身体を跨いで、膝の上へ、おずおず、と少しだけ,座るようついた膝の力を抜く。



「ーーーー………っ……」


恥じらいのあまり,言葉が出なくて。

すぐすぐ至近距離にあるお互いの身体。

このよくわからない何ともたとえようのない息苦しさを伴う感情を一体どうすればいいんだろう?

そう考えながら悶々としてしまう。




まるで夕人が、ソファに座る速生に乗り掛かり、

『これから

と迫っているように見えるその光景。





ぞくぞく、うずうず。


(だめだめ、まだ。まだ触っちゃだめだ。
もっと、欲しい。
夕人からーーー…)


「ああ、ーーーいい眺め。
ほら、いまから、どうする?
これで終わり?ーーー…違うよね?夕人。」

「~~~~っ………ど、どうしたら、っ…」



「ーーーやらしいことしてよ。
……夕人、?」


「ーーーっ……、最悪、……っ」


苦し紛れの抵抗の言葉。
夕人は瞳に涙を浮かべて、すぐすぐ目の前にある速生の顔を睨んだ。



そして目をぎゅ、と瞑り、速生の肩に置いた手に少し力を添えてそのまま、顔を近付ける。



ーーー……ちゅ、っ…



微かに震えた唇がゆっくりと、速生の唇にふれる。

「ーー、っ……」




しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

ミルクと砂糖は?

もにもに子
BL
瀬川は大学三年生。学費と生活費を稼ぐために始めたカフェのアルバイトは、思いのほか心地よい日々だった。ある日、スーツ姿の男性が来店する。落ち着いた物腰と柔らかな笑顔を見せるその人は、どうやら常連らしい。「アイスコーヒーを」と注文を受け、「ミルクと砂糖は?」と尋ねると、軽く口元を緩め「いつもと同じで」と返ってきた――それが久我との最初の会話だった。これは、カフェで交わした小さなやりとりから始まる、静かで甘い恋の物語。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

ヤンキーDKの献身

ナムラケイ
BL
スパダリ高校生×こじらせ公務員のBLです。 ケンカ上等、金髪ヤンキー高校生の三沢空乃は、築51年のオンボロアパートで一人暮らしを始めることに。隣人の近間行人は、お堅い公務員かと思いきや、夜な夜な違う男と寝ているビッチ系ネコで…。 性描写があるものには、タイトルに★をつけています。 行人の兄が主人公の「戦闘機乗りの劣情」(完結済み)も掲載しています。

【R18+BL】ハデな彼に、躾けられた、地味な僕

hosimure
BL
僕、大祇(たいし)永河(えいが)は自分で自覚するほど、地味で平凡だ。 それは容姿にも性格にも表れていた。 なのに…そんな僕を傍に置いているのは、学校で強いカリスマ性を持つ新真(しんま)紗神(さがみ)。 一年前から強制的に同棲までさせて…彼は僕を躾ける。 僕は彼のことが好きだけど、彼のことを本気で思うのならば別れた方が良いんじゃないだろうか? ★BL&R18です。

処理中です...