その海にクジラは泳ぐか

杏栞しえる

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その海にクジラは泳ぐか

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 時速三九一㎞でかっ飛ばす船。その様子をじっと見つめる三人がいた。一番近くで船を眺めていたのは、鈴木リョウヘイ。リョウヘイの背後から船を睨んでいたのは、追川シンヤだ。そしてその二人の後ろで帽子を深く被り船を注意深く観察しているのは、井崎マモルである。三人は一言も喋らず海を見つめ続けた。
「何か見えましたか?」
三人はびくっとして一斉に振り返った。スーツの男が三人を冷やかな目で見ている。帽子を深く被った井崎は、
「老眼が進んでいて実はよく見えてないんですよ」
と、穏やかな口調で答えた。スーツの男は軽くうなずき、今度は二人に視線を向けた。はっとした若い男、鈴木は、
「僕はクジラが見えました」
と、海の方を指した。
「どんなクジラでしたか?」
男は面白そうに聞く。鈴木は怪しがりながらも、
「はっきりは見えなかったんですけど、多分シロナガスクジラ」
スーツの男はニヤッとして深くうなずいた。そして、追川に視線を向ける。追川はすました顔で、
「俺は船を見ていただけだ」
と、顎で海の方を示した。男は形式的に、
「どんな船でしたか?」
と聞いた。追川は眉間に皺を寄せながら、
「あんなに遠いんだから見えるわけねーだろ。でも、大型船ではないな」
と答える。男は、ほうとだけ言った。
「それではVRヘッドセットを外してみて下さい」
三人は静かに男の指示に従った。男は突然一礼したかと思うと、
「本日は我社のVRを体験していただきありがとうございます。お客様からはクジラだけでなく他の生き物も出してほしいというご意見を多数受けていましてね。しかし、この海にオブジェクトは何も設定していないんですよ」
と言った。それからすぐに男はリョウヘイの方を見て、再びニヤッとした。スーツ男はまた喋り出す。
「皆さんはこれがVRだと覚えていらっしゃいましたか?」
三人はそれぞれ覚えていたという主旨を述べるが、男は声をあげて笑い始めた――。
 「皆様、VRヘッドセットをお外し下さい」
近くで若い女の声がする。三人はあっと声をあげて、さっき取ったはずのヘッドセットを再び外した。
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みんなの感想(1件)

鈴丸ネコ助
2019.06.14 鈴丸ネコ助

読んでいて不思議な気持ちになりました…
思わず引き込まれる作風にグッときました!
読みやすかった(๑´ㅂ`๑)

解除

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