眠れない夜に贈る物語集

杏栞しえる

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眠れない夜に贈る物語集◇第六夜◇〜七夕〜

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 眠れない夜に贈る物語。あなたにそっとお供します。もちろん、途中で寝てもかまいません。さぁ行ってらっしゃい。


『七夕』

 かさかさと風に吹かれ、笹の香は宙に舞った。
「今年も会えなかったね」
 大粒の雨が降り始めている。いつになったら、私たちは……。
 昔彼に言われた言葉を未だに信じている。
『どこにいても、七夕には会いに行くよ』
 って。あの言葉を聞いてから七夕は毎回ベランダで過ごしてる。友人から「もう五年経つんだよ?」と呆れられた。でも、そう言われたって、どうしたって、私は待っていたいんだから。
「お願いだから、もう、止んでよ……」
 灰色の空には風がびゅうびゅう鳴り響き、ふりかかる雨は私の顔を濡らした。銀色の柵にもたれ掛かって、濡れることも構わず突っ伏す。
 もう待てないよ。あなたはふっといなくなってしまったんだから――。
 その時、あたたかい風が私を包んだ。
「顔はあげないで」
 行動を読んだかのようにそうささやかれた。彼の……声だ。
「あなたなの……?」
 聞かなくてもわかっていた。あたたかい彼が、そこにいる。
「ごめんね。もう待っていなくていいんだよ」
 彼の言葉は胸にすっと染み込み、私の心を離さない。何を今更……。風に乱され、笹の葉が揺れる音はどんどん大きくなっていく。
「なんでそんな事言うのよ」
 少しむきになっていた。なんて子供っぽいセリフなんだろう。久しぶりの彼なのに、素直になれない。ゆるやかな風が頬をなでた。
「君が好きだから」
 はっきりと聞こえたその声に、思わず顔をあげてしまった。すっと光が灰色の空へと消え、かさかさと笹が鳴る。笑ってるみたいだ。ふと横を見ると、黄色い短冊が飾ってあった。こんなの飾ったっけ? そう思って覗き込むと、
『幸せになってね』
 と、書かれた文字が滲んでいた。



七夕の日、皆さんは誰を想っていましたか。
想いは論理を越える。
そんな特別な日もあるのかもしれませんね。

それでは、良い夢を。

「おやすみなさい」
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