Over Rewrite Living Dead

きさらぎ冬青

文字の大きさ
12 / 454
【2020/05 邂逅】

《第2週 月曜日 日没》

しおりを挟む
「今日はもういいよ、研修中は9時5時でいいって聞いてるでしょ」
演習の授業が終わって研究室に戻り、直接質疑や相談に来る学生の姿もなくなったところで、小曽川さんのところに置いてきた私物を纏めて帰るよう促された。ついでに小曽川さんまで帰るよう促されて、一緒に帰ることになった。
「え~?いーんですかぁ、おれまで帰って。まだこのあとどうせ剖検あるじゃないですか、作成する書類もめっちゃあんのに」
「だから、今日は、だよ」
本来はまだまだやることがあり、普段は小曽川さんも一緒に残っている時間なのか。
「今日は、ねぇ」
からかうように小曽川さんは笑う。
「まあ、先生がそう仰るのであれば帰りますね~」
出て行く小曽川さんに返事をしない藤川先生に「お先に失礼します」と頭を下げる。
怒ってるのかと思いつつ顔を上げると、艶かしい暗い光を帯びた瞳に薄く笑みを浮かべて、右手の薬指でセーターの右の襟を引いてこちらを見ていた。
赤紫色の痕を人差し指で指して「見た?」というジェスチャー。
頷くとその人差し指を唇の前で縦にして緘口を要求した。
そのときの仕草や表情が、自分の中に抑え付けている欲をひどく刺激した。

あの、昼休みの、小一時間程度の時間に、施錠して、遮音カーテンを閉じた暗い個室で、痕を残すくらい激しい行為を?
そして、そんなことした後で、何食わぬ顔で2枠も講義を熟していたとか、学生ならともかく先生が?

甘い毒に中てられて、下腹部の奥で悪い虫たちが騒ぐ。

足早に小曽川さんを追うが、脚の間で息づいたものが、憑き物のように首を擡げ、うまく歩けない。
降りる途中の階でバリアフリートイレがあったので、フロアに人の気配がないことを確認して入って鍵をかけた。
簡易ベッドを引き出し、仰向けに倒れる。
飯野さんが言ってたのはそういうことか。
先生が小曽川さんに「南のほうが安全」と言ってたのはそういうことなのか。
頭の中でグルグルと考えが巡って止まらない。回し車に載せられた鼠みたいに、回る思考に振り回されている。
そのおかげで身体の反応は治まったが、良くない兆候だということに変わりはない。
トイレを出て、エントランスまで出てようやく追いつくと、小曽川さんは別人になっていた。
無精髭はなくなり、眼鏡もなくなり、赤紫と黒を基調とした化粧をしていた。服も朝着ていたシンプルな装いとは打って変わって黒いズルズルした恰好。薄い生地のロングカーディガンにスカートにサンダル。やけに重そうなアクセサリーをガチャガチャつけていた。
「あ~やっと来た~、大丈夫です?変なことされませんでした?」
喋るのを聞いたらやはり小曽川さんは小曽川さんだった。正直ちょっと安心した。
「変なことはされてないですよ」
直接何かされたかといえばされてない、が、されたのだけども。
「長谷さん、おうちってどこら辺ですかぁ?」
「京急沿線、品川駅とか署からなら歩いて帰れるとこです」
「じゃあ逆方向ですねえ、おれ実家住みで千葉なんでこちらで失礼しますね」
よかった、このまま一緒に帰るとかして半端に仲良くなってプライベート知られて面倒なことになるのも怖い。
「小曽川さん、お疲れ様でした」
手をヒラヒラ振って駅に向かうのを見送ってから、スマートフォンのロックを解除した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

チョコのように蕩ける露出狂と5歳児

ミクリ21
BL
露出狂と5歳児の話。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

  【完結】 男達の性宴

蔵屋
BL
  僕が通う高校の学校医望月先生に  今夜8時に来るよう、青山のホテルに  誘われた。  ホテルに来れば会場に案内すると  言われ、会場案内図を渡された。  高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を  早くも社会人扱いする両親。  僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、  東京へ飛ばして行った。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

【完結】  同棲

蔵屋
BL
 どのくらい時間が経ったんだろう 明るい日差しの眩しさで目覚めた。大輝は 翔の部屋でかなり眠っていたようだ。 翔は大輝に言った。  「ねぇ、考えて欲しいことがあるんだ。」  「なんだい?」  「一緒に生活しない!」 二人は一緒に生活することが出来る のか?  『同棲』、そんな二人の物語を  お楽しみ下さい。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

処理中です...