Over Rewrite Living Dead

きさらぎ冬青

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【1989/05 Salvation】

《第二週 火曜日》③

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アキくんのお父さんが帰ってしばらくして、昼休みになると担任の先生がおれの分の給食を届けてくれた。事情を知っているから一番先によそって、しかもできるだけ多めに持ってきてくれるし、休んだ子の分があればそれも持ってきてくれる。
今日の献立は揚げた鶏肉に炒めたピーマンや玉ねぎや人参を合わせてソースとクラッシュアーモンドで和えた何かと、白いご飯と野菜たっぷりのスープ、牛乳と冷凍のクレープ。好きなものばかりだ。
ついでにその後のおれの処遇について先生方の話し合いはどうなったか、訊いてみたが特に進展はないようだった。
児相に相談はしているが何せまったくうちの親の所在が知れないこと、うちの親自体が周囲や親族ともつながりがなく、かと言って特別養子縁組で実子として育てられているので実際の父母にも連絡は取れないことからも、手も足も出ないらしい。
おれも一応、家の電話回線は通じる状態ではあるが、引き続きインフラはもう間もなく水道しかなくなること、残りの手持ちの現金の金額、家にある食べられるものがどの程度か、税金の督促が来ていることは伝えた。
その間、アキくんは黙って机にお弁当やピルケースを並べ、お茶を水筒から注ぎ、食事の準備をしていた。典子先生が「困ってることはない?」と声をかけたときに少しだけ振り返って頷いたが、一言も声を出さなかった。
先生が保健室を出ていって、おれが給食を置くまで、声を出さないというか、出せない様子だった。アキくんの担任の先生が来たときはそこまで表情や反応まで封じられたようにはなっていなかった。
仮に女性全般が苦手だとして、アキくんちには当然お母さんもいるはずだけど、お母さんとは意思疎通できているんだろうか。
「アキくんは、典子先生苦手?」
問いかけてみると、左右に首を振って否定する。
「なんか、女の人に目を向けられると動けなくなっちゃう、声も出なくなっちゃう、わかんない」
自分でも、やはりそういう部分にちょっと自己嫌悪しているんだろうか。なんだか急に元気がない。
「とりあえず、お昼食べよう。アキくんのお弁当見せて」
そういうと、少し微笑んで、弁当箱の蓋を開けて見せてくれた。刻んだ魚肉ソーセージと菠薐草の入った卵焼き、アスパラガスとしめじのバターソテー、チーズちくわ、醤油をまぶした削り節と白ごまがかかったご飯。量は少なくて、お弁当箱自体もとても小さかった。
そして、その横のピルケースには何種類もの薬が入っていて、お弁当箱と同じくらいの大きさがあった。まさかこれ、全部一回で飲むんだろうか。
「アキくん、給食あるのになんでお弁当なの?」
「うん、食べられないものがいっぱいあるの。おーいしくんはないの?」
言われてみれば、好き嫌いは特に無い気がする。
「うん、ないよ。薬いっぱいあるけど、これ全部飲むの?アキくんどっか悪いの?」
アキくんはやや暫く考えてから「うーん、いっぱい悪すぎて、もうよくわかんない。少しならわかるけど」と言い、そして「多分、あたまもおなかも悪いの」とも言った。やっぱり、何か集団生活するには難しい、健康な生徒と同じように過ごすこと自体難しい事情があるのかもしれない。
「ね、アキくん、クレープ半分あげるから、おれに一個卵焼きかチーズちくわ食べさせてほしいな。だめ?」
するとアキくんは「いいよ!」とやっと笑顔に戻った。
「両方上げるからクレープ全部ちょうだい」
アキくんはどうやら、ごはんよりお菓子が好きっぽい。
「え…それはちょっと」
クレープを隠そうとするとアキくんは脚をパタパタさせて、声を出して笑った。
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