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【1989/05 komm tanz mit mir】
《第二週 土曜日 午前》②
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洗面所で着せられているアキくんの服は脱いで畳んで、洗濯機横のキャビネットの上に置いた。湯温の設定を45度にして電源を入れ、灯りをつけて風呂場に入るとひんやりしている。
暫くお湯を出せば暖まると思い、シャワーを出して温度を確かめてから一旦扉を閉めた。体を拭くのは今朝顔を洗ったときのフェイスタオルがあれば十分だ、あれを固く絞って体を拭けば大丈夫だろう。待っている間に水気をできるだけ絞った。
アキくんの家の洗濯機は全自動、しかも乾燥機付きで、既にタイマーかかけてあって親御さんが戻って来る頃ちょうど終わる設定になっている。帰ってきたらあとは乾燥機で乾かしてすぐ片付けられる。いいな、台所の食器乾燥機もオーブンレンジも羨ましい。
せめて養育を放棄して家事を丸投げして出ていくのであれば家事のための家電くらい立派なの買って置いていきゃあいいのに。そもそも帰ってこないなら家なんかいらないだろ、などと思っているうちに、浴室はすっかり暖まっていた。
使わせてもらって無駄遣いするのも申し訳ないので、要所だけ石鹸を手で泡立ててさっと洗ってすぐに出るつもりだった。しかし、扉の向こうから足音が近づいてきて、模様の入った擦りガラス越しにアキくんの姿が映った。
「ハルくん、おてつだいする?」
手伝うって、何を?今そんな事言われたら背中洗ってくれるとかそういうのじゃなく、如何わしい方面にしかおれの頭はシフトしてくれない。
「だめ、大丈夫だから向こうで待ってて」
「やだー」
強引に扉を開けようとして内側から施錠されているに気づいたアキくんは「開けて~」とガラスをぺたぺた叩いてくる。これが小さい近所や親戚の子だったらまだいい。でも、今これをやっているのはあくまでも同じ年の、自分よりちょっと背が高くて大人びた顔と声の男子だ。
しかも散々お父さんとイチャイチャしたりキスするの見せつけられたりして、挙句、少しではあるものの如何わしいことをしてしまったあとだ。友だちになりつつあるその途上でこんな事が起きた自体がよくないのに、これ以上何かあったら只の友達という関係ではなくなってしまう。
アキくんがお父さんといちゃついたときに感じたあのモヤモヤや憤りは否定できない、でも強い特別な好意が明確にあるわけでもない。生みの親のように一時の感情や情欲やエゴで、道に外れたことをするのは嫌だ。でも、それを退行してしまっているアキくんに伝えられる気はしない。
反応せずにいると、徐々にアキくんはしゅんとして、扉から離れた。やがて気配がなくなって静かになってしまったので、早く戻って謝ろうと思い手早く体を洗ってシャワーを止め、タオルを取るために扉の施錠を解除して開くと、洗面所のすみっこでアキくんは体育座りしていた。
いや、体育座りというよりバスタオルを抱えたまま目に涙を浮かべてぷるぷる震えて丸くなって、捨てられて保護された小動物のようだ。急いで固く絞ったタオルで体を軽く拭いて、流石にそのままはまずいので腰回りに巻いてからアキくんに近づく。
「あ、アキくん、ごめんね。でもおれ恥ずかしいからダメって言ったよね?」
屈んで膝をつくとアキくんはべったり抱きついて離れなくなってしまった。どうしよう。固まっていると、アキくんが耳元で「アキくんもいっしょがいいもん…」と呟いた。もう諦めて素直に従うことにした。アキくんがどうしようと、おれが耐えればいい。
「じゃあお風呂場戻るから、準備できたら入っておいで」
しがみつく手を引き剥がして、もう一度風呂場に戻ってシャワーを出し直す。アキくんは一旦自分の部屋に何か取りに行って戻ってきて、それから服を脱いだ。
やがて入ってきたアキくんの体を見て、おれは驚いた。
暫くお湯を出せば暖まると思い、シャワーを出して温度を確かめてから一旦扉を閉めた。体を拭くのは今朝顔を洗ったときのフェイスタオルがあれば十分だ、あれを固く絞って体を拭けば大丈夫だろう。待っている間に水気をできるだけ絞った。
アキくんの家の洗濯機は全自動、しかも乾燥機付きで、既にタイマーかかけてあって親御さんが戻って来る頃ちょうど終わる設定になっている。帰ってきたらあとは乾燥機で乾かしてすぐ片付けられる。いいな、台所の食器乾燥機もオーブンレンジも羨ましい。
せめて養育を放棄して家事を丸投げして出ていくのであれば家事のための家電くらい立派なの買って置いていきゃあいいのに。そもそも帰ってこないなら家なんかいらないだろ、などと思っているうちに、浴室はすっかり暖まっていた。
使わせてもらって無駄遣いするのも申し訳ないので、要所だけ石鹸を手で泡立ててさっと洗ってすぐに出るつもりだった。しかし、扉の向こうから足音が近づいてきて、模様の入った擦りガラス越しにアキくんの姿が映った。
「ハルくん、おてつだいする?」
手伝うって、何を?今そんな事言われたら背中洗ってくれるとかそういうのじゃなく、如何わしい方面にしかおれの頭はシフトしてくれない。
「だめ、大丈夫だから向こうで待ってて」
「やだー」
強引に扉を開けようとして内側から施錠されているに気づいたアキくんは「開けて~」とガラスをぺたぺた叩いてくる。これが小さい近所や親戚の子だったらまだいい。でも、今これをやっているのはあくまでも同じ年の、自分よりちょっと背が高くて大人びた顔と声の男子だ。
しかも散々お父さんとイチャイチャしたりキスするの見せつけられたりして、挙句、少しではあるものの如何わしいことをしてしまったあとだ。友だちになりつつあるその途上でこんな事が起きた自体がよくないのに、これ以上何かあったら只の友達という関係ではなくなってしまう。
アキくんがお父さんといちゃついたときに感じたあのモヤモヤや憤りは否定できない、でも強い特別な好意が明確にあるわけでもない。生みの親のように一時の感情や情欲やエゴで、道に外れたことをするのは嫌だ。でも、それを退行してしまっているアキくんに伝えられる気はしない。
反応せずにいると、徐々にアキくんはしゅんとして、扉から離れた。やがて気配がなくなって静かになってしまったので、早く戻って謝ろうと思い手早く体を洗ってシャワーを止め、タオルを取るために扉の施錠を解除して開くと、洗面所のすみっこでアキくんは体育座りしていた。
いや、体育座りというよりバスタオルを抱えたまま目に涙を浮かべてぷるぷる震えて丸くなって、捨てられて保護された小動物のようだ。急いで固く絞ったタオルで体を軽く拭いて、流石にそのままはまずいので腰回りに巻いてからアキくんに近づく。
「あ、アキくん、ごめんね。でもおれ恥ずかしいからダメって言ったよね?」
屈んで膝をつくとアキくんはべったり抱きついて離れなくなってしまった。どうしよう。固まっていると、アキくんが耳元で「アキくんもいっしょがいいもん…」と呟いた。もう諦めて素直に従うことにした。アキくんがどうしようと、おれが耐えればいい。
「じゃあお風呂場戻るから、準備できたら入っておいで」
しがみつく手を引き剥がして、もう一度風呂場に戻ってシャワーを出し直す。アキくんは一旦自分の部屋に何か取りに行って戻ってきて、それから服を脱いだ。
やがて入ってきたアキくんの体を見て、おれは驚いた。
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