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【2020/05 友よⅡ】
《第3週 火曜日 夜半》⑥
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長谷くんを泉岳寺駅前で降ろして、坂を登り始めたところで運転手に声をかけた。
「すみません、ちょっと遠くなるんですけど行き先変更でお願いします。東新宿駅周辺まで行ってください。」
タクシーは魚籃坂下で右折し、麻布十番の一の橋JCTの下で左折。環状3号線を通り四谷を経由して、歌舞伎町を横目に東新宿まで出た。
カードとレシートとカードの使用明細を受け取って降り、どうせまた碌に食べていないだろうと思い目の前のコンビニでお詫びがてら何種類かアキくんが好きそうなお菓子を買う。
アキくんはシンプルな焼き菓子と冷たくてぷるぷるもちもちしたものが好きだ。チョコチップクッキーとフィナンシェ、妙にぷよぷよした鯛焼きとチョコクレープ、ついでに自分用に炭酸水とノンカフェインのお茶を一緒に買った。
明治通りを横断して路地に入り、アキくんのマンションのエントランスまで進む。LINEで「着いたよ」と送ると間もなくエレベーターホールの自動ドアの施錠が解除された。最上階に着いて部屋の扉に手をかけると施錠は解除されている。
入って直ぐの手洗い場で手を洗って、スタイラーに羽織っていた上着をかけてスイッチを入れ、廊下を抜けてリビングに入ったが部屋の主はいない。右側の一面を覆う厚いカーテンをそっと捲ると、寝転がって本を読んでいるのが見えた。
間接照明と色とりどりのトルコガラスのランプがぼんやりと灯る部屋は華やかでありながら全体が紺色ベースで落ち着いている。ベッドファブリックも茶色で纏められていて、その上でふかふかの白いパイル地のバスローブ姿で転がっている。
「遅くなってごめんね」
傍らに近づいてサイドテーブルにコンビニ袋を置くと、寝返りを打ってこちらに背を向けた。LINEに鬼のように履歴が残っていたので、そりゃあお冠であろうとは思ったが、これは思いの外、いつもより臍を曲げている。
「飲んでるうち眠くなっちゃって、少し酔い冷まして来たから遅くなっちゃった、ごめんね」
「いいよもう、早く風呂入って着替えてきて寝なよ」
ベッドの上にはタオル一式とおれサイズの寝間着がひと揃え置いてある。
「そんな冷たく言わないでよ」
ベッドの上に上がって覆いかぶさってハグすると思い切り持っていた上製本の表紙で横っ面を叩かれた。
「ハルくん肉臭い、風呂入って歯磨きしてからにして。マジで何食ったの?あと毎回だけど酒臭えっつの」
渋々体を起こして、タオルと部屋着を手に持ってベッドを降りる。
「築地で水炊き」
「また贅沢しなれない若い女垂らしこんでんのかよ」
俯せになって不貞腐れながら言うアキくんの、細く骨ばった脚を眺める。
「違うよ、飲みだって言ったでしょ」
「その人、友達?」
再び本を広げて、読んでいたところを探ってページを捲る。
「友達になってほしいって言われたよ、断っちゃったけどね」
「なんで?かわいそうじゃん」
ちらりとこちらを振り返った。
「ふふ、なんでだと思う?」
答えは言わずに、そのまま部屋を離れた。
洗面所に入ると、洗面台の歯磨きが並んだところに一本歯ブラシが増えている。おれのじゃないやつだ。長谷くんのなんだろうなあと思いつつ洗面台の脇のキャビネットのおれの私物の入った引き出しを開けて自分の洗面道具一式を出す。
空いている引き出し、1つ長谷くん用にしてあげたらいいのに。そのうちおれよりも此処には入り浸るようになるだろうし、うまくいく気がするんだけど、もしかしてまだアキくんはそこまで入れあげてないのかな。まあ結構冷静だもんな。
アキくんが集めている歯磨き剤の中から、一番減っていないごく普通のミント味のフッ素と研磨剤入りのペーストを手にとって絞り出して歯を磨く。アキくんは辛いものが大嫌いで手を付けないのでおればかり使っている。
これがなくなる前に、おれはこの部屋には来れなくなるのかもな。
「すみません、ちょっと遠くなるんですけど行き先変更でお願いします。東新宿駅周辺まで行ってください。」
タクシーは魚籃坂下で右折し、麻布十番の一の橋JCTの下で左折。環状3号線を通り四谷を経由して、歌舞伎町を横目に東新宿まで出た。
カードとレシートとカードの使用明細を受け取って降り、どうせまた碌に食べていないだろうと思い目の前のコンビニでお詫びがてら何種類かアキくんが好きそうなお菓子を買う。
アキくんはシンプルな焼き菓子と冷たくてぷるぷるもちもちしたものが好きだ。チョコチップクッキーとフィナンシェ、妙にぷよぷよした鯛焼きとチョコクレープ、ついでに自分用に炭酸水とノンカフェインのお茶を一緒に買った。
明治通りを横断して路地に入り、アキくんのマンションのエントランスまで進む。LINEで「着いたよ」と送ると間もなくエレベーターホールの自動ドアの施錠が解除された。最上階に着いて部屋の扉に手をかけると施錠は解除されている。
入って直ぐの手洗い場で手を洗って、スタイラーに羽織っていた上着をかけてスイッチを入れ、廊下を抜けてリビングに入ったが部屋の主はいない。右側の一面を覆う厚いカーテンをそっと捲ると、寝転がって本を読んでいるのが見えた。
間接照明と色とりどりのトルコガラスのランプがぼんやりと灯る部屋は華やかでありながら全体が紺色ベースで落ち着いている。ベッドファブリックも茶色で纏められていて、その上でふかふかの白いパイル地のバスローブ姿で転がっている。
「遅くなってごめんね」
傍らに近づいてサイドテーブルにコンビニ袋を置くと、寝返りを打ってこちらに背を向けた。LINEに鬼のように履歴が残っていたので、そりゃあお冠であろうとは思ったが、これは思いの外、いつもより臍を曲げている。
「飲んでるうち眠くなっちゃって、少し酔い冷まして来たから遅くなっちゃった、ごめんね」
「いいよもう、早く風呂入って着替えてきて寝なよ」
ベッドの上にはタオル一式とおれサイズの寝間着がひと揃え置いてある。
「そんな冷たく言わないでよ」
ベッドの上に上がって覆いかぶさってハグすると思い切り持っていた上製本の表紙で横っ面を叩かれた。
「ハルくん肉臭い、風呂入って歯磨きしてからにして。マジで何食ったの?あと毎回だけど酒臭えっつの」
渋々体を起こして、タオルと部屋着を手に持ってベッドを降りる。
「築地で水炊き」
「また贅沢しなれない若い女垂らしこんでんのかよ」
俯せになって不貞腐れながら言うアキくんの、細く骨ばった脚を眺める。
「違うよ、飲みだって言ったでしょ」
「その人、友達?」
再び本を広げて、読んでいたところを探ってページを捲る。
「友達になってほしいって言われたよ、断っちゃったけどね」
「なんで?かわいそうじゃん」
ちらりとこちらを振り返った。
「ふふ、なんでだと思う?」
答えは言わずに、そのまま部屋を離れた。
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空いている引き出し、1つ長谷くん用にしてあげたらいいのに。そのうちおれよりも此処には入り浸るようになるだろうし、うまくいく気がするんだけど、もしかしてまだアキくんはそこまで入れあげてないのかな。まあ結構冷静だもんな。
アキくんが集めている歯磨き剤の中から、一番減っていないごく普通のミント味のフッ素と研磨剤入りのペーストを手にとって絞り出して歯を磨く。アキくんは辛いものが大嫌いで手を付けないのでおればかり使っている。
これがなくなる前に、おれはこの部屋には来れなくなるのかもな。
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