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【2020/05 埋火】
《第3週 木曜日 午前》①
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てかさっき先生「これ以上悪い大人にホイホイついてって利用されちゃダメだよ」って言ったじゃないですか。言った傍から利用する気じゃないですか。なんなんだ。
でも、それでもなんだかおれは先生が感情的に怒ったりしないことも、縁が途切れず済んだことも、同棲してくれるということも、根が単純だからうれしくて仕方がなくて、その後ずっとダラシのない顔をしていた。
先生は自分の部屋に戻って今後の調整のためオンラインで色んな所と話をするということで、午前中は時間が与えられた。
おれは小曽川さんのところで先生のこれまで蓄積していた授業に使った資料データや録音や録画、板書したときのボードの写真とかで、年間通してどんなことを教えているのかを見せてもらった。
今担当している講座だけではなく、これまで担当したものすべてが整理されて蓄積してあり、先生や小曽川さんのマメさに驚いてしまう。外部で講義したり、講演したときのものも遺してある。
「これ、ずっと見てるだけで一年勉強できちゃいますよね」
「そうなんですよお、おれなんかオンラインで公開してカネ取っちゃえばいいのにってずっと思ってますけど、先生はあくまで学生や直接聴講に来た人のためのものだから、やるならもっと噛み砕いて作り直さないとだし面倒だからヤダって拒否るんですよねえ」
おれは腕組みしながら貸してもらったノートパソコンで引き続きNAS(ネットワークハードディスク=Network Attached Storage)に保管されている授業の映像を鑑賞する。
「でも先生、それで儲かったら、ぶっちゃけあんな事しなくてもよくないじゃないですか…」
「あんなこと、は…趣味と実益だからやめないんじゃないですかねえ、あの人の場合」
でも、娘さん、優明さんのためにやってきたことで、優明さんが結婚したらやめられるとまで言っていたのであれば、もうその必要もないのか。
それより、ふられはしたけど関係はそんな大きく変わったりしないなのであれば、改めて優明さんの結婚式に来てもらえるように説得したい。どう切り崩そう。
部屋の契約が前回の異動の関係で8月の末だったので、先生の家に引っ越すとしたらそのタイミングだし、そこまではおとなしくしていたほうがいいんだろうか。
「小曽川さん、先生を説得する件なんですけど、どうしましょうねアレ」
「うーん、おれからも引き続き働きかけてはみるけど、長谷くんがなんとか絆してくれたら助かるなとはやっぱ思ってますよ。でもせっかくの同棲計画が御破算にならないように、無理しないでいいですよ」
そう言ってもらえて、ちょっと気が楽になった。
「お式ってもう決まってるんですよね、いつなんですか」
「11月の28日が日曜で大安なんでそこですねえ。先生の誕生日の翌々日なんで、いいプレゼントになると思ってるんですけどねえ」
そうか、だったらちょっと誕生日はひっそりしといて、その日にサプライズとして呼び出すってこと出来ないかな。
おれがその日までに先生と関係を深めておいて、改めてお付き合いしてほしいって言えるようになりたい。指輪とか贈っちゃったりして…ってそんなのまるでプロポーズじゃないか。
重いって言われそうだし、おれにはハルくんがいるからなんて改めてお断りされたら一緒に暮らすのつらくなっちゃうよなあ。現実的じゃないな。
気を取り直して、授業の映像を見る。カメラを通して見る授業中の先生は、凛としていてかっこいい。生徒さんからはこう見えているんだな、と思う。
おれが知っている先生は、思わせぶりで、ずるくて残酷で、いやらしくて、かわいくて、もっと違う生き物だ。どれが本当の先生なんだろう。正直よくわからない。
でもいろいろな面を見てしまったほうが、その分嫌いにはなりにくい人だと思う。
でも、それでもなんだかおれは先生が感情的に怒ったりしないことも、縁が途切れず済んだことも、同棲してくれるということも、根が単純だからうれしくて仕方がなくて、その後ずっとダラシのない顔をしていた。
先生は自分の部屋に戻って今後の調整のためオンラインで色んな所と話をするということで、午前中は時間が与えられた。
おれは小曽川さんのところで先生のこれまで蓄積していた授業に使った資料データや録音や録画、板書したときのボードの写真とかで、年間通してどんなことを教えているのかを見せてもらった。
今担当している講座だけではなく、これまで担当したものすべてが整理されて蓄積してあり、先生や小曽川さんのマメさに驚いてしまう。外部で講義したり、講演したときのものも遺してある。
「これ、ずっと見てるだけで一年勉強できちゃいますよね」
「そうなんですよお、おれなんかオンラインで公開してカネ取っちゃえばいいのにってずっと思ってますけど、先生はあくまで学生や直接聴講に来た人のためのものだから、やるならもっと噛み砕いて作り直さないとだし面倒だからヤダって拒否るんですよねえ」
おれは腕組みしながら貸してもらったノートパソコンで引き続きNAS(ネットワークハードディスク=Network Attached Storage)に保管されている授業の映像を鑑賞する。
「でも先生、それで儲かったら、ぶっちゃけあんな事しなくてもよくないじゃないですか…」
「あんなこと、は…趣味と実益だからやめないんじゃないですかねえ、あの人の場合」
でも、娘さん、優明さんのためにやってきたことで、優明さんが結婚したらやめられるとまで言っていたのであれば、もうその必要もないのか。
それより、ふられはしたけど関係はそんな大きく変わったりしないなのであれば、改めて優明さんの結婚式に来てもらえるように説得したい。どう切り崩そう。
部屋の契約が前回の異動の関係で8月の末だったので、先生の家に引っ越すとしたらそのタイミングだし、そこまではおとなしくしていたほうがいいんだろうか。
「小曽川さん、先生を説得する件なんですけど、どうしましょうねアレ」
「うーん、おれからも引き続き働きかけてはみるけど、長谷くんがなんとか絆してくれたら助かるなとはやっぱ思ってますよ。でもせっかくの同棲計画が御破算にならないように、無理しないでいいですよ」
そう言ってもらえて、ちょっと気が楽になった。
「お式ってもう決まってるんですよね、いつなんですか」
「11月の28日が日曜で大安なんでそこですねえ。先生の誕生日の翌々日なんで、いいプレゼントになると思ってるんですけどねえ」
そうか、だったらちょっと誕生日はひっそりしといて、その日にサプライズとして呼び出すってこと出来ないかな。
おれがその日までに先生と関係を深めておいて、改めてお付き合いしてほしいって言えるようになりたい。指輪とか贈っちゃったりして…ってそんなのまるでプロポーズじゃないか。
重いって言われそうだし、おれにはハルくんがいるからなんて改めてお断りされたら一緒に暮らすのつらくなっちゃうよなあ。現実的じゃないな。
気を取り直して、授業の映像を見る。カメラを通して見る授業中の先生は、凛としていてかっこいい。生徒さんからはこう見えているんだな、と思う。
おれが知っている先生は、思わせぶりで、ずるくて残酷で、いやらしくて、かわいくて、もっと違う生き物だ。どれが本当の先生なんだろう。正直よくわからない。
でもいろいろな面を見てしまったほうが、その分嫌いにはなりにくい人だと思う。
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