Over Rewrite Living Dead

きさらぎ冬青

文字の大きさ
193 / 454
【2020/05 埋火】

《第3週 木曜日 午前》①

しおりを挟む
てかさっき先生「これ以上悪い大人にホイホイついてって利用されちゃダメだよ」って言ったじゃないですか。言った傍から利用する気じゃないですか。なんなんだ。
でも、それでもなんだかおれは先生が感情的に怒ったりしないことも、縁が途切れず済んだことも、同棲してくれるということも、根が単純だからうれしくて仕方がなくて、その後ずっとダラシのない顔をしていた。
先生は自分の部屋に戻って今後の調整のためオンラインで色んな所と話をするということで、午前中は時間が与えられた。
おれは小曽川さんのところで先生のこれまで蓄積していた授業に使った資料データや録音や録画、板書したときのボードの写真とかで、年間通してどんなことを教えているのかを見せてもらった。
今担当している講座だけではなく、これまで担当したものすべてが整理されて蓄積してあり、先生や小曽川さんのマメさに驚いてしまう。外部で講義したり、講演したときのものも遺してある。
「これ、ずっと見てるだけで一年勉強できちゃいますよね」
「そうなんですよお、おれなんかオンラインで公開してカネ取っちゃえばいいのにってずっと思ってますけど、先生はあくまで学生や直接聴講に来た人のためのものだから、やるならもっと噛み砕いて作り直さないとだし面倒だからヤダって拒否るんですよねえ」
おれは腕組みしながら貸してもらったノートパソコンで引き続きNAS(ネットワークハードディスク=Network Attached Storage)に保管されている授業の映像を鑑賞する。
「でも先生、それで儲かったら、ぶっちゃけあんな事しなくてもよくないじゃないですか…」
「あんなこと、は…趣味と実益だからやめないんじゃないですかねえ、あの人の場合」
でも、娘さん、優明さんのためにやってきたことで、優明さんが結婚したらやめられるとまで言っていたのであれば、もうその必要もないのか。
それより、ふられはしたけど関係はそんな大きく変わったりしないなのであれば、改めて優明さんの結婚式に来てもらえるように説得したい。どう切り崩そう。
部屋の契約が前回の異動の関係で8月の末だったので、先生の家に引っ越すとしたらそのタイミングだし、そこまではおとなしくしていたほうがいいんだろうか。
「小曽川さん、先生を説得する件なんですけど、どうしましょうねアレ」
「うーん、おれからも引き続き働きかけてはみるけど、長谷くんがなんとか絆してくれたら助かるなとはやっぱ思ってますよ。でもせっかくの同棲計画が御破算にならないように、無理しないでいいですよ」
そう言ってもらえて、ちょっと気が楽になった。
「お式ってもう決まってるんですよね、いつなんですか」
「11月の28日が日曜で大安なんでそこですねえ。先生の誕生日の翌々日なんで、いいプレゼントになると思ってるんですけどねえ」
そうか、だったらちょっと誕生日はひっそりしといて、その日にサプライズとして呼び出すってこと出来ないかな。
おれがその日までに先生と関係を深めておいて、改めてお付き合いしてほしいって言えるようになりたい。指輪とか贈っちゃったりして…ってそんなのまるでプロポーズじゃないか。
重いって言われそうだし、おれにはハルくんがいるからなんて改めてお断りされたら一緒に暮らすのつらくなっちゃうよなあ。現実的じゃないな。
気を取り直して、授業の映像を見る。カメラを通して見る授業中の先生は、凛としていてかっこいい。生徒さんからはこう見えているんだな、と思う。
おれが知っている先生は、思わせぶりで、ずるくて残酷で、いやらしくて、かわいくて、もっと違う生き物だ。どれが本当の先生なんだろう。正直よくわからない。
でもいろいろな面を見てしまったほうが、その分嫌いにはなりにくい人だと思う。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

  【完結】 男達の性宴

蔵屋
BL
  僕が通う高校の学校医望月先生に  今夜8時に来るよう、青山のホテルに  誘われた。  ホテルに来れば会場に案内すると  言われ、会場案内図を渡された。  高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を  早くも社会人扱いする両親。  僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、  東京へ飛ばして行った。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

チョコのように蕩ける露出狂と5歳児

ミクリ21
BL
露出狂と5歳児の話。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

告白ごっこ

みなみ ゆうき
BL
ある事情から極力目立たず地味にひっそりと学園生活を送っていた瑠衣(るい)。 ある日偶然に自分をターゲットに告白という名の罰ゲームが行われることを知ってしまう。それを実行することになったのは学園の人気者で同級生の昴流(すばる)。 更に1ヶ月以内に昴流が瑠衣を口説き落とし好きだと言わせることが出来るかということを新しい賭けにしようとしている事に憤りを覚えた瑠衣は一計を案じ、自分の方から先に告白をし、その直後に全てを知っていると種明かしをすることで、早々に馬鹿げたゲームに決着をつけてやろうと考える。しかし、この告白が原因で事態は瑠衣の想定とは違った方向に動きだし……。 テンプレの罰ゲーム告白ものです。 表紙イラストは、かさしま様より描いていただきました! ムーンライトノベルズでも同時公開。

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

処理中です...