Over Rewrite Living Dead

きさらぎ冬青

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【2020/05 速度と密度】

《第3週 土曜日 明け方》⑤

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なんか流れでしちゃったけど訊こうと思ってたこと他にもあったんだよな、なんだっけ。思い出せないまま軽くかけ湯して、ボディソープを手にとって泡立てて全身をサッと流してから浴槽に浸かる。
普段だとこのくらいの温度でも爪先や指の先がジンとするが、布団をかけてってくれたおかげで思ったより身体は冷えていなかったのかそういう感覚はなかった。自分で溜めるときより少し温度高めな気がするけど気持ちがいい。
今は何故おれのこと怖がってたのか訊いた時の「もう少し時間をくれませんか、今度ちゃんと話します」という言葉が気になっていた。
やはり、何か家族以外は知らない、いや、もしかしたら家族さえ知らないような出来事があったんじゃないか。おいそれとは話せないような、結構重い話が。
掌に浴槽の湯を掬って顔を軽く洗い、浴槽脇の棚から洗顔料のチューブと、それを泡立てるための容器を出して容器に少しお湯を汲む。洗顔料を2㎝ほど絞り出して、蓋についている泡立て器を上下して泡を作って顔に載せた。
泡を落とさないように浴槽の縁に頭を預けて上を向いてぼうっとしていると、足音が近づいてきた。扉の磨りガラスの向こうに長谷の姿が見える。
「先生、一応軽く食べるものは来る時買ったんですけど、なんか食べたいものとかないですか。おれアレじゃ足りない気がしたんであとで買いに出たいんですけど」
「いや、おれ、あのたまごサンドとタコと枝豆が入ったサラダで十分だよ。行くならおれが風呂上がって寝直してからにしなよ、この辺治安いいとは言えないから」
長谷が「わかりました、おれ、じゃあ寝てていいですか」と言うので「いいよ、寝てなよ」と言うと磨りガラスの向こうから姿は消え、足音は遠ざかった。
ああ、そうだ。この週末のうちに頼まないと、自力でできないことがあるからそれだけは手伝ってもらおう。それだけのために、今の状況で外から業者呼ぶのもリスクがありそうだし。こういう時、本というか、紙類が多い家は面倒だ。
浴槽の外に上半身を出して、顔に乗せていた泡を落としてから浴槽の湯を掬って残った泡も濯ぎ落とした。軽く手で水を払い落としてから再び浴槽に浸かる。
あと、そうだ。長谷がどのくらいの量の私物があるのかも確認しておかないと。少なくとも衣類を収納するところとか仕事に関係するものはちゃんと保管する場所は必要だろうし、試験とかはまだこれから先もあるだろうから勉強する場所はあったほうがいい。
そうなるとやっぱり、書庫を整理して本棚も組み替えてそこに置くしかない。今使ってるのと同じくらいのワークデスクと負担のかからなそうな前傾チルトもできるちゃんとした椅子と、座面に置く姿勢をサポートするやつと、キャビネットを買ってやろう。
他の家具家電はうちに揃ってるので十分だし、自前で持っているやつは処分してからうちに来るだろうから、それくらいはいいもの買ってあげないとな。
長谷がうちの学校に来る前、依頼を受けた時は随分苛ついて腹立たしくさえ思っていたのに、今こうやって一緒に暮らすことを考えて少し浮ついた気持ちになっているのがなんだか変な感じだ。
でも、今まで経てきた付き合いや関係とは違う感じがして、楽しみになってきているのは間違いない。
十分に暖まったところで、おれは浴槽の栓を抜いて風呂を上がった。
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