Over Rewrite Living Dead

きさらぎ冬青

文字の大きさ
284 / 454
【2020/05 深度と濃度Ⅱ】

《第3週 土曜日 午後》③

しおりを挟む
「耐えられなかったって、それは、何にですか」
そういえば、同棲していたことは大石先生言ってたけど、どうして、何があってそれが終わったのかは言わなかった。あと、おれの思い違いでなければ、出ていったのは元々そこに住んでいた藤川先生の方だったはず。
耐えられなかったのは大石先生なのに、出ていったのは藤川先生って、どういうことなんだろう。いったいどうして。
「決まってるでしょ、あんな嫉妬深い人がおれが体売ってることとかフラフラ出歩いて他の男と寝たりしてるの目の当たりにして正気でなんかいられないよ。見てられなかった、おれのせいなのにね」
先生は立ち上がって、腕組みをしておれを見下ろしながら腰掛けていた箱を爪先で指し示した。
「てかさ、サッサと片付けて本棚積んじゃってくれないとさ」
そう言うと、おれの後ろを通って本棚の前に積んだまままだ戻していない本を手にとり片付け始めた。おれも収納に入っていたものを元通り片付けて、先生の横で次に移動させる棚から本を抜き出した。
「そうだ先生、本棚の上なんですけど、置こうと思えば収納ボックスくらいは置けそうな余裕があるんですけどどうします?」
「いや、目線が行かない場所に置いたものって普段見ないからなかったことになっちゃうじゃん、しかも箱なんかに入れてあった何入れたかさえ忘れちゃうからいいよ」
片付けついでに、先生は手にとった本をパラパラ捲って中身を見ている。所々付箋が貼ってあったり、線が引かれたり書き込みがあったりして、普段の整然とした部屋の様子や整った先生の身形からはちょっと想像できなかった。意外だった。
「あ、あと先生、重ねて壁沿いに積んでいくと、今部屋の中央に並んでた棚が半端に残っちゃうんですけどどうします?」
「邪魔だからってなくすと本が入り切らないんだよな、文庫とか入れてる薄い棚を廊下に移して、そこに置いたら丁度いいんじゃない?」
気易く言うなあ。
「でも、机を持ってきてからじゃないと駄目ですよね?廊下狭くなっちゃったら机運べなくなりません?」
「あ、そっか」
話し合った末、部屋の中央にある棚から本を抜いて一旦窓側に寄せて、リビングから机を持ってきて、入ってる本を抜いてから文庫の棚を廊下に出す、という流れでやることになった。
「今日は棚を窓側に寄せるとこまでにして、それ以降は明日にしよう」
その後おれたちは黙々と作業を続け、予定通り壁沿いに本棚を重ね終え、部屋の中央にあった棚も壁に寄せて空間を確保してこの日の作業を終えた。
久しぶりに重量物を上げ下ろしした疲れを訴えると、先生はおれを労ってるつもりなのか肩や背中を揉んでくれたが擽ったくて笑ってしまった。
リビングに戻り、残り物を並べてテレビを観ながらつまみ、ジャンケンで順番を決めてそれぞれ風呂に入り、セミダブルのマットレスを並べた大きなベッドに並んで、手をつないで眠った。
一緒に暮らしたら、おれが24時間勤務で不在の日以外は、こんな感じの暮らしになるんだろうか。なかなか悪くないと思う。先生と一緒にいるのは楽しい。
でも先生は、さっき「浮気はします、ウリも当面やめません」ということを言ってたわけで、不安な要素はいっぱいある。
それでも、いろいろあって寮も出てしまってて、父方の僅かな親類以外殆ど身寄りが無くなっているおれからすると、同居人がいることで安心できる点は多い。
何よりやはり、理由はどうあれ先生に同居を誘われた、選んでもらえたということが自分の中では大きくて、今更多少の不安があったって断るとか身を引くなんて選択は考えられない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

  【完結】 男達の性宴

蔵屋
BL
  僕が通う高校の学校医望月先生に  今夜8時に来るよう、青山のホテルに  誘われた。  ホテルに来れば会場に案内すると  言われ、会場案内図を渡された。  高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を  早くも社会人扱いする両親。  僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、  東京へ飛ばして行った。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

チョコのように蕩ける露出狂と5歳児

ミクリ21
BL
露出狂と5歳児の話。

ハンターがマッサージ?で堕とされちゃう話

あずき
BL
【登場人物】ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ハンター ライト(17) ???? アル(20) ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 後半のキャラ崩壊は許してください;;

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

処理中です...