Over Rewrite Living Dead

きさらぎ冬青

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【2020/05 冀求】

《第4週 木曜日 夜》③

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概ね、飯野さんから聞いた内容と合致していた。
しかし、それ以前のバックグラウンドが気になる。
死にかけてたおれを発見したことを切掛に志望を変え刑事になった人が、あの事件の僅か数年後、何故よりによってカルトに所属する女性と結婚したのか。母親はいつ頃からカルトと関わりを持っていたのか、父親はどういう経緯で知り合ったのか、入信はしていたのか、長谷本人も入信していたのか。
今日仕事していて長谷に訊きたいと思っていたこともいくつかあったけど、今は自分の訊きたいという欲求を抑えて労る必要がある。
「怖かっただろ。とりあえず、その人にもう遭遇する可能性があるならそこのジムには行かないほうがいいな。付きまとわれたりはしなかったか」
「わかんないです…てか、嘘言いました…そのときはパニックになったと言うか、只でさえナーバスになってたとこに声かけられて、あと、その人からは前も声かけられてたし、しつこいなって、ちょっとカッとなって。あれってもしかして…って思ったのはその後で」
長谷はまだちょっと鼻声でぐずぐずしていて、その時のことが相当ショックだったのか混乱している。
嘘言ったってか、その時混乱していたというのは別に強ち嘘でもないんじゃないのかなと思った。下心ある人間に声かけられて混乱したり身の危険を感じたり不安になるのは当たり前だし、不安を感じればと恐れと怒りどちらも生じる。その事自体にも混乱はするだろうし。
あと、そういう声掛けとかつきまといに遭ったときって実際、追っ払うには徹底無視するか声あげて怒って抵抗するしか無いし、学生時代そういう目に遭ってたなら逃れるのにその時は必死だっただろう。
それより、長谷を今住んでるところから逃さないといけない。本人が気づいていなかっただけで、前にも声をかけられてるってことはその前から、今住んでいる所に越して来てからの動向が知られてるような気がする。
目的が肉体関係の強要なのか、長谷が安定収入且つ職務的に給与高めの公務員だからカネなのか知らんが、どっちにしろリスクがすぐそこまで迫って来ている気がする。
本人が体格に恵まれていて体力があっても、職業柄戦う方法を知っていても、それが発揮できるのは相手に明らかな害意があるとわかってて、それに対し戦う意志とそのための覚悟があってのこと。
性という「尊厳の根幹たる部分」を目当てに声をかけられたり付きまとわれたり、突然脅されたり襲われるという状況には人間は弱い。それも、案外男性の方が弱い。
生命が危機に晒されるようなことは想像できても、性という「尊厳の根幹たる部分」が傷つく、傷つけられるということに対しては想像出来ていないことが多い。
これは概して健康で大病したことがない人間が、衰えたり病を持ち摂取できないものがあるとか思うように活動できないということに対し想像が及ばないことに近い。
なのでその多くがそういう目に遭うことを想定して生きておらず、或いは自分なら振り切れる、抵抗できると思っていることが多いから故にそのための警戒や対策も手薄だ。
実際には体格や力の有無などは関係なく、被害に遭うときは遭う。
そしてそういう被害に遭っても、それが同性に知られれば、相手が男なら同性愛行為を揶揄され感想を訊かれたり、相手が女性なら羨ましいことのように冷やかされるなど心無いに誂いの対象になる事が少なからずある。
知られて嗤われる前にと被害経験を笑い話として提供してしまい、ネタとして消費され、本人は二重に傷ついてしまうこともある。
それだけならまだしも、被害に遭ったにもかかわらず、それを「抵抗しなかった」「誘ったんじゃないか」と見做され責め立てられ、罰されることすらある。
おそらく嘗ての長谷がそうだったように。
だから男性の性被害は表に出てこない。
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