Over Rewrite Living Dead

きさらぎ冬青

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【2020/05 冀求】

《第4週 木曜日 夜》⑤

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「うっわ…サイっ…テー…」
「おれもウワァ…ってなりましたよ。大石先生がクズ先輩って呼ぶの、ちょっと納得でした」
幸い長谷は笑っているけど、これはちょっと、戻ったら先輩にちょっと釘刺さないと。全く、先輩自分はさっさと結婚してとっくに既婚者なのにまだおれに執着してるし、相変わらず他の男にすぐ意地悪言うんだから…。
てか、先輩のとこ子供だってそろそろお年頃のはずなのに、関係バレたりしてモメたらどうすんのかな。奥さんはおれの顔も嘗ての先輩との関係も知ってるけど、今になってまた下心アリアリで以来請け負ってヤッてると思わないよなあ。
やだなあ家庭壊すようなことになったら。慰謝料とか請求されちゃったらどうしよ。
「ほんと…もう…なんだったら長谷もクズって言っていいからね…」
面食らってるおれに長谷は笑って「大丈夫です、言わないですよ」と言った。
そこでそっとバスルームの扉が開いて、頭にターバンよろしくタオルを髪の毛ごと巻きつけたまま小林さんが隙間から顔を覗かせて様子を見ている。
「あ、じゃあおれ、お風呂空いて順番来たみたいだから入ろうかな。そろそろいい?」
「おれも朝出勤前軽く体動かして風呂入るんで、そろそろ明日の準備をして早めに寝ます。先生も今日は早く休んでくださいね。鍵の件お待ちしてますのでお願いします」
互いにおやすみなさいと声を掛け合って通話を切った。
そして、一旦端末をベッドに置いた。
「小林さん、おれ髭全く生えないわけじゃないけど生えるからちょっと剃りたいんだけど顔そり用の持ってきてない?あとヘアオイルとかトリートメントある?」
小林さんは頭に盛られたタオルのバランスを取りながらうまいことしゃがみ、自分の荷物をゴソゴソ漁りながら「ありますよ」と言い、またうまいことそのまま立ち上がって両手に持ってこちらに来た。
「シャンプーとリンスもポンプごと持ってきたのでお風呂に置いてます、藤川くんが嫌じゃなかったら櫛とかブラシも洗って使っていいですし、スキンケアも使っていいですよ」
サロン専売のトリートメントやオイル、抵抗の少ないことがウリの櫛とかシリコンを浸透させたブラシ。さすが、髪の毛がきれいなだけある。やっぱりあのおかっぱをサラサラのツヤツヤに保つにはそれなりに手をかけているんだなと感心した。
おれもオッサンの割に手はかけてる方だと思うけど、やっぱり女の子のほうがいろいろ詳しいし、マメだよなあ。南もおかっぱだしオシャレさんだけど、案外あっちは切れ毛になったとこピンピン出てるし寝癖ではねてるのピンで留めて何気に誤魔化してたりするし、
手にとって成分なんかを見ていると、小林さんは再び荷物を漁りに戻り、今度は無印の拭き取り化粧水に医薬品メーカーが作っているスキントナーや乳液、リフト効果のあるゼリー状の赤い美容液、ラベンダーの香りがついたオイルなど様々なものを出してくる。
「そんなにいっぱい持ってきたの?」
「だって、毎日防護服にマスクにゴーグルだのフェイスガードで顔がムレムレで、お肌荒れるし頭すぐ汗臭くちゃっちゃうじゃないですか…お気に入りの香りのボディシートもドライシャンプーもいっぱい持ってきました」
やけにでかい、海外に行くようなスーツケース2つもあるのはそのせいか。
おれはこういうとこ来るときって服は行き帰りの私服と部屋着以外はスクラブとインナー類があればいいし、タオル類は借りれるからいらないし、多少身だしなみが整わなくてもどうせ防護服にマスクにと覆われてるからいいやと思ってた。
寧ろ電子機器…主に仕事用のパソコンとか通信端末とゲーム機と、現場で置いてなさそうな、或いは現地で確保できなそうな物品を自腹で持ってくることが多くてそういう事は余り考えていなかった。
あと、単純にアレも必要コレも必要と完璧な準備を追い求めてやってると収集がつかなくなりがちだ。多分小林さんもそんな感じで普段使うものは全部持ってきちゃったんだろう。気持ちはわかる。
おれも最初はよく荷物多くなりがちで、徐々に学習して敢えて意識して見切りをつけて減らすようになったから、小林さんも何度か行けばそのうち最低限の必要なものに絞れるようにはなるだろう。
「やっぱ女の子がいると違うなあ…ありがたく使わせてもらうよ」
そう言うと小林さんは嬉しそうに頷いた。
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