Over Rewrite Living Dead

きさらぎ冬青

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【2020/05 凱旋】

《第5週 月曜日 朝》③

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結局機内ではスポットアウトする前から着陸態勢に入るまで1時間40分寝っぱなしだったというわけだ。
しかし、昨夜と合わせて5時間近くは寝たはずなのに、まだ全然眠いし、怠い。通常の勤務だったら5~6時間は十分回復できる睡眠時間のはずだが、一向に回復する気配がない。
梅雨に差し掛かった時期に、居住地より気温の高い場所で、吸湿性がいいとはいえないスクラブと体温や体から出る湿気ごと密閉される防護服に身を包まれた状態のまま、更にマスクやフェイスガードを着けて何時間も座る間もなく動き回ってたら消耗しないわけがない。
それはそれとして、あと消耗が激しくなる要素はもう一つあって、単純に、やっぱり自分は人の多い環境は基本的に苦手なんだと思う。普段は最低限の人員で淡々とやってるけど、ああいう流動的で出入りの激しい状況だとそうもいかない。様々な影響を受けてしまい余計に疲弊してしまう。
仕方ないことだし、細切れにしか寝れない体質についても仕方がないのだけど、しんどい。歳のせいもあるんだろうけど疲れが全然抜けない。家に戻ったら先ずは一旦やることは置いといて、全部放棄して只管回復するまで、中途覚醒したとしても繰り返し寝てなんとかするしかない。
おれはもう一度、着陸してスポットインして起こされるまで眠ることにした。
(僅か10分ほどだったので、あっという間に寝落ちて、あっという間に起こされたけど)
降機してからも、引き取る手荷物もないのでさっさとタクシーに乗り込んで住所を伝えて再び車内で寝た。到着するまでぐっすりだったのもあるが、顔色も悪かったらしく運転手さんに心配されてしまった。
我が家のあるマンションのエントランスに入り、ポストを確認する。特に施錠してないので普段だったらポスティングされたチラシなんかが入ってるけど、何も入ってない。
「そういえば、長谷うちに住んでるんだよなあ」とじんわり実感した。
エレベーターで上がって、自宅の鍵を開ける。
灯りをつけて入ると、見慣れた景色があった。
でも、その中に見慣れないものがいくつかある。明らかにおれのものじゃないサイズの、おれが着ない色の大きなジャケットがスタイラーの中に掛かっていて、おれは普段履かないのに、大きなスニーカーがある。
とりあえず鞄を置いて手を洗ってリビングに向かうと、いつもなら入ってすぐ左にあった机がなくなって、広くなっている。
一旦踵を返し、通路を戻って書斎の扉を開けてみると、入ってすぐ右に机があった。本棚も並べ替えてなんとかすべて室内に収まるよう配置してあり、積みっぱなしだった本は入りきれなかったもの以外はきれいに収納されている。長谷なりに分野や内容を見て収容してくれたようだった。
感心しながら室内に足を踏み入れて、机の脇のクローゼットも開けてみた。でも特に一見して変わったことはなくて、警視庁の名前が入った段ボール箱が積まれているだけだった。
扉を閉じ、机の前の椅子を引き出して座り、ふと見上げると、思わぬものが目に入る。
中華風の飾り棚を模したような、円形の枠をランダムに直線で区切った形の、写真が何枚も飾れるフォトフレームに、幼い頃のおれと両親、藤川の両親と中学生の頃のハルくんとおれ、赤ちゃんの頃の優明とそれを抱く南などの写真が納められていた。
自分でもこんな写真あったことは忘れていた。ある意味、意図的に見ないようにしていたから当然だけど。
しかし長谷、おれが居ない間にまた勝手にあれこれ詮索して、クローゼットの中漁ったんだな、本当に困ったやつだなあ。
でも、選んでくれた写真はどれも、みんな笑顔で写っている。すごくいい写真ばかりだ。
長谷が、おれの過去を、おれの家族を大事に思ってくれていることはすごく伝わった。
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