Over Rewrite Living Dead

きさらぎ冬青

文字の大きさ
436 / 454
【2020/05 営巣】

《第5週 火曜日 午後》⑧

しおりを挟む
「わかった、あとで今日行ってた人間リストアップして送るわ。長谷はもう上戻れ。お前のあとにさっきのとこ行ってた奴らも戻ってるはずだから、それ共有して。あと結果も」
「わかりました、一旦失礼します」
部屋を出て扉を閉めると、再び飯野さんは笹谷さんにお説教しているようだった。立ち止まってそろそろと忍び足で戻り、扉の前に屈み聞き耳を立てる。
「笹谷、お前、グッチャグチャになってる現場とか人死にが出てるとこ絶対自分で行こうとしねえよな。前の所轄の人間からも申し送りあっていろいろ聞いてるけど、上はお前の専門性を買って採用したから正直扱いに困ってる。科捜研に入れなかったからいろいろ考えてコッチ来たんだろうけどさ、自分でもやっぱり違うって納得してないんじゃないの」
それに対して、笹谷さんは何も言えずに黙っている。
「なあ。せめて本店に上がりたいとか、そういう気持ちがあるんだったら今頑張っておかないと正直先がねえぞ。わかってるか?ここまではキャリア待遇で早めに試験受けて通れば階級上がるし役職当たるけど、このあとは実力だぞ。長谷はああ見えて上昇志向の強いやつだ、お前下手したらアイツに抜かれるぞこのままだと」
そこでやっと笹谷さんは口を開いた。
「…飯野さんは、長谷に肩入れしすぎじゃないですか。てか、実力じゃなくてコネなんじゃないですか結局」
「そりゃするさ、あれの父親から死に際に託されたんだから。てかコネがどうこう言うならお前のほうがコネで下駄履いてんだろが。部隊指揮とか逮捕技術とか、お前正当な基準に達してると自分で思ってるのか?はっきり言っておくが、現業にコネなんか関係ないからな?」
笹谷さん、本店の上に誰か縁者が居るのかな。てか科捜研目指してたんなら理化学系の何かしらで学業修めてる人なんだろうな。だとしたら、補助研究員で受け直すとかは考えなかったのかな。でもそれだと給料日額だし賞与ないし現実的に食っていけないか。
まあ何があったにせよ、納得できなくても、此処でやっていくって決めたからには腹括って頑張らないとならないのが現実だよなあ。
おれは再びそっと扉の前を離れて、係のあるフロアに戻った。現場出てた人にデータ渡して引き継ぎをして、仕掛りになっていた仕事をやっつけて、日勤の定時を2時間ほどすぎてようやくカタがついて退勤した。
着替えて署を出るとき、黒いキャデラック・エルドラドが停まってて、黒のポロシャツを着て金縁のサングラスを掛けたTHEイケオジというスマートな感じのおじさまが誰かを待っていた。ここバスも通るし、道が広くないのに困るよなあ…しかもこんなとこ堂々と長く駐めてたら駐禁切られちゃうんじゃないかと思ってじっと見てたら目が合った。
会釈すると微笑んで頭を下げてくれたので、近づいてその旨を伝えてみた。すると「あ~、ごめんね。なんかうちの倅が聴取終わったから迎えに来いって言われて来たんだけど出てこなくてさ、この辺りってこの車停めれそうな駐車場ってある?」フランクな感じで訊いてくる。
「こういう車が停められるかどうかわかんないんですけど、次の丁字路左に入って、直ぐの交差点右折して路地入ると何個か駐車場あった気がします。或いは暫く待たれるんだったらちょっと遠くなっちゃうんですけど、もういっそプリンスの駐車場入れさせてもらったほうがこういう大きな車だと確実かもしれませんよ」
そう言うと「それもそうかもなあ、そうするかぁ」とすんなり納得してエンジンを掛け「お兄ちゃん、ここのおまわりさん?仕事ごくろうさん。ありがとうね」と言って走り去った。
見送ったあと、なんか知ってる顔の気がするな…と思ったけど、思い出せない。モヤモヤするけど、とりあえず家路を急いだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

  【完結】 男達の性宴

蔵屋
BL
  僕が通う高校の学校医望月先生に  今夜8時に来るよう、青山のホテルに  誘われた。  ホテルに来れば会場に案内すると  言われ、会場案内図を渡された。  高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を  早くも社会人扱いする両親。  僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、  東京へ飛ばして行った。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

チョコのように蕩ける露出狂と5歳児

ミクリ21
BL
露出狂と5歳児の話。

ハンターがマッサージ?で堕とされちゃう話

あずき
BL
【登場人物】ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ハンター ライト(17) ???? アル(20) ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 後半のキャラ崩壊は許してください;;

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

【完結】  同棲

蔵屋
BL
 どのくらい時間が経ったんだろう 明るい日差しの眩しさで目覚めた。大輝は 翔の部屋でかなり眠っていたようだ。 翔は大輝に言った。  「ねぇ、考えて欲しいことがあるんだ。」  「なんだい?」  「一緒に生活しない!」 二人は一緒に生活することが出来る のか?  『同棲』、そんな二人の物語を  お楽しみ下さい。

処理中です...