見習いコンコの縁結び

紅葉

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水の神様のいうとおり

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「なんや、清明、来とったんか」

 いかにも神社の関係者といった着物姿のおじさんが玉砂利を踏んで現れて、親しげに清明さんに声をかけた。

「はい、お邪魔しております。春田さん」

 そのわりには清明さんは敬語を崩さない。

「ん? 清明の彼女か?」

 春田さんがにやにやと頬を緩めながら、「すみにおけへんなぁ」と清明さんをからかう。

「いえ、天湖の新しい従業員です。僕の彼女だなんて結月さんに失礼です」

「そうか? ま、清明も色々と大変やろうけど、また飯でも食いに来いや。結月ちゃんも一緒に」

 結月ちゃん。

 いい大人になってから、ちゃん付けで呼ばれるとは思っていなかった結月はお愛想笑いを浮かべて、去っていく春田を見送った。

 清明と春田はどんな間柄なんだろうと結月は思ったが、足早に神域から出ていこうとする清明の後ろ姿に、完全に聞くタイミングを失った。







 伏見稲荷大社を出て、杉田みやびちゃんの家を探しにいくのかと思えば、一度天湖に戻ることになった。

 清明さんは願をかけた杉田みやびちゃんの名前に何かを思いだし、それを確認するために戻ることにしたのだ。

 清明さんは帰ってから自室にこもり、ごそごそしていた。ようやく見つけたのか、清明さんは新聞紙を手にしていた。とある記事を指さす。

「昨年の四月二十日の京都新聞です」

「ああ、これ。覚えてる」

 結月はその記事に目を通すと、痛みを感じたように顔をしかめた。

「暴走のはてに登校中の小学生の列に車が突っ込んだのよね。全国ニュースになったから東京でも報道されていたわ。たしか登校班のみんなを助けようとした小学六年生の女の子が一人重体になったのよね」

「そうです。そして、その女の子の名前は杉田かれん。おそらく、みやびちゃんのお姉さんです。彼女は車に弾き飛ばされ意識不明の重体になりました。その後のことは報道はされていませんが、みやびちゃんの願いを見るに、ずっと眠った状態のようですね」

「で、どうするの」

 新聞記事にはみやびちゃんの住所も、かれんちゃんが搬送された病院も書かれてはいない。

「病気平癒もよくよく掛けられる願いです。かれんちゃんは現世との縁が切れかけている状態。この世の理を無視することはできませんが、新月様を介して仕事が入ったということは、なにか原因があり、それを伝えよということでしょう」

「ふむふむ、なるほど。で? このまま行っても、見ず知らずの人間の言うとこを信じるとは思わないけど?」

「……」

「え、まさかのノープラン?」

 いつも仕事でやってるんじゃないの?

「……本当に、毎度のことながら新月様はむちゃぶりをなさるので。夢枕にでも立ってくださればいいのに」

「それで信じる人も少ないとは思うけど」

 どうしてこんなことをやらされているのか。

『みやびどののお住まいは分かりまする~。ボクがひとっ走り行ってまいります』

 意気揚々と出ていこうとするコンコ。見事にチームプレーが出来ていない。

「ちょっと待ってコンコ。いきなり行ってどうするの。あなたの姿は見えないんでしょう? みやびちゃんの夢にでも出る気?」

『あ~、現役いまのボクらには夢に介入できる力はないのです~』

 申し訳なさそうにコンコがうなだれる。

「かれんちゃんを目覚めさせる方法は分かるの」

『はい~、この中にお告げが入っておりますゆえ~。でもみやびどのしかお使いになれないのです』

 コンコが背中の筒を見えるように身体をひねった。
 
「とりあえず行ってみましょうか」

 ちょっと待って、清明さん。その格好で行くの? 

 


 コンコの案内で行き着いたのは、出町柳駅の近く、赤十字病院。かなり大きな規模の総合病院だ。

 清明さんが運転する赤のデミオに乗っての移動は快適だ。

 実は直接病院に行ったわけではない。私たちは、まず、杉田みやびちゃんとかれんちゃんの家の近くに向かった。

 伏見にはいくつか名水スポットがあることは、昨日着いたときに目にしていた。駅前の看板には十ヶ所の名前が書いてある。
 無料で水を汲んで持って帰ることができるところもあるようだ。

「伏見は地竜の通り道があります。御香水、白菊水、さかみづなどは有名ですが、それ以外にも湧水の出るところはありまして」

「地竜?」

「竜とは水神。地を司る竜の通り道とは、地下水脈のことです」

 衆目を集めているのにも関わらず清明さんは、デミオをコインパーキングに停めて、歩き出す。まるでどこに向かえばいいか分かっているようだ。

 コンコが脚を止める。

 清明さんが唇を綻ばせる。

 
 よくある住宅地のなか、蓋のされていない用水路のような整備された小川をのぞきこむ。浅く水が流れるそこに、ぽこぽこと水が湧いている。
 

「ここ、みたいですね」

 清明さんが祝詞らしきものを呟き、コンコがそれに合わせて踊り出す。

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