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第五章 悪役令嬢の憂鬱
5-6話 悪役令嬢の野望
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「アーッハッハ! 圧倒的ですわ、わが軍は!」
城のバルコニーから戦況を見下ろすウェルヘルミナ。
「これこそが我が『アインノルド王国』の力! 今はアインノールド公爵家としてグレイス王国の傘下にいますが、元々『アインノルド王国』はグレイス王国などよりはるかに歴史の長い由緒ある王国でしたわ。――その誇りと権力を今こそ取り戻すときよ! 思い知りなさい、グレイス王国の簒奪者ども!」
すでに勝ち誇ったように笑うウェルヘルミナ。
彼女がどうやってこれほどの大軍を用意したのか?
それは彼女が語る『アインノルド王国』の歴史に関連がある。
アインノールド公爵家の源流である『アインノルド王国』が興されたのは、グレイス王国建国よりもさらに千年近くも昔の時代だ。
その時代は『魔導開化期』と呼ばれ、魔道具、魔法陣、スクロールなど、様々なマジックアイテムが生み出された時代だ。
今でも使われているマジックアイテムの殆どがこの時期に開発され、その中には今ではもう作れなくなった『幻の魔道具』なども存在する。
そしてその一つが、このノルド城にある――『隷属と支配の祭壇』である。
====================
『隷属と支配の祭壇』
種類:複合魔導装置
レア度:☆☆☆☆☆☆
魔物ではないものに[隷属魔法]をかけるための装置。
祭壇にある魔法陣の中で服従を誓わせる事で、相手を[隷属(潜伏)]状態にする事が出来る。
[隷属(潜伏)]状態の相手は、術者によっていつでも[隷属(小~大)]状態に移行させることが可能。
また[隷属(潜伏)]はステータスに表示されないため、症状を発症させるまでは[隷属魔法]を掛けた事を気付かれる心配はない。
さらにこの装置には[隷属魔法]の魔力運用を補助・増強する効果もあり、それによって[隷属魔法]を掛けられる人数はほぼ無制限となっている。
ただし、この装置を使えるのはアインノルド王家の血を引く者のみ。
現状ではアインノールド公爵ウェルヘルミナ・ディ・アインノールドだけである。
====================
この解説文は、以前照がその装置を鑑定したものだ。
記載通り[隷属魔法]を人間に施すための装置である。
代々[魔物使い]のジョブを持つ『アインノルド王家』のために作られた、特別な魔導装置なのだ。
ただし――この装置はアインノルド王国がグレイス王国に合併されてから使えなくなっていた。
この装置を使えるのは『アインノルド国王』のみであり、現在の『アインノールド公爵家』になってからは、その使用権限が失われてしまっていたのだ。
だから合併以降に行われていた『誓いの儀式』は、本来の機能は失われて形骸化し、あくまで伝統の儀式として続けられてきたのだが……。
そこで誕生したのがウェルヘルミナだ。
彼女は生まれながらにして称号を与えられた珍しい人間だった。
与えられた称号がこちら――。
====================
[アインノルド女王]
アインノルド王国の女王となったものに与えられる称号。
習得スキル:[カリスマ(大)]
====================
この称号のおかげで、彼女は『隷属と支配の祭壇』を使用することが出来たのだ。
「それにしても素晴らしいですわ[隷属と支配の祭壇]は。このおかげで今や領民すべてがわたくしの奴隷。『城を守れ、死ぬまで戦え』と命じただけで、自らの命も顧みずに戦う無敵の軍隊の出来上がり。ウフフフフ、素晴らしい! 素晴らしいですわ、わたくしの陰謀は!」
相手の軍と自分の大軍を見比べて、ウェルヘルミナはほくそ笑む。
「ですが私の策略はこれだけではありません。我が軍は数で相手を上回った。なら次は質ですわ。そのための転移者、そのためのサクヤ様とスズカ様ですの。異世界転移者は常人の十倍の力を有すると言われている。あのお二人ならば、いずれこの国で最強の戦士になってくれる事でしょう」
それこそがウェルヘルミナが異世界転移者を横取りした理由だ。
アインノールド家の前当主は、自ら異世界人を召喚しようとし、それが察知されて失敗した。
だからこそウェルヘルミナは、自前での召喚ではなく横取りという方法をとったのだ。
「父の失敗から学び、慎重に召喚の準備を整えていたところに、突然予告された八人の異世界転移。これを奪えば父の時のような邪魔をされる前に、異世界転移者を手に入れることができるはず。そう考えての転移者強奪でしたが――手に入れられたのが二人だけなのは残念ですが、一応は目論見通りに行きましたわね」
強引なやり方だったため、あっという間に反逆者扱いとなってしまったが、彼女はあまり気にしていない様子。
「ウフフ、いずれ敵対することになっていましたもの、開戦は仕方ありませんわ。今のわたくしには二十万の軍隊と二人の異世界転移者、さらには奥の手がありますしね。時期が少し早まったとはいえ、わたくしが負けるはずがありませんわ」
ウェルヘルミナはすでに勝利を確信しているようだ。
「かつての『アインノルド王国』の栄光を取り戻す――。そのためにもまずはあのお二人を早く言いなりにしなければ。サクヤ様とスズカ様を奴隷にし、わたくしの最強の戦士に育て上げるのです! そのときこそわが軍は、世界最強の軍隊と化すのですわ! オーッホッホッホッ!」
高笑いをし、悦に入るウェルヘルミナ。
だがその時――。
――ゾクッ!
「――っ!?」
――ウェルヘルミナの背筋を冷たいものが走った。
同時に体の中から、何か大切なものがゴッソリと抜け落ちてゆく感覚――。
(なっ……何ですの今の……? 寒気と、それに……喪失感……? これは……まさかっ!)
慌てたウェルヘルミナはバルコニーから身を乗り出し、目を皿のようにして自軍の様子を伺う。
ざわ……ざわ……ざわ……
[隷属魔法]によって支配された二十万の軍勢。
先ほどまで静かだったその大軍から、徐々にさざめきが聞こえ始めた。
「ま……まさか……!」
次々と正気に戻っていく領民たち。
ウェルヘルミナは信じられない思いでその光景を眺める。
「な、なぜこんな……あり得ない、どうして魔法が解けて……?」
――二十万を超える自慢の軍隊、その崩壊が始まっていた。
城のバルコニーから戦況を見下ろすウェルヘルミナ。
「これこそが我が『アインノルド王国』の力! 今はアインノールド公爵家としてグレイス王国の傘下にいますが、元々『アインノルド王国』はグレイス王国などよりはるかに歴史の長い由緒ある王国でしたわ。――その誇りと権力を今こそ取り戻すときよ! 思い知りなさい、グレイス王国の簒奪者ども!」
すでに勝ち誇ったように笑うウェルヘルミナ。
彼女がどうやってこれほどの大軍を用意したのか?
それは彼女が語る『アインノルド王国』の歴史に関連がある。
アインノールド公爵家の源流である『アインノルド王国』が興されたのは、グレイス王国建国よりもさらに千年近くも昔の時代だ。
その時代は『魔導開化期』と呼ばれ、魔道具、魔法陣、スクロールなど、様々なマジックアイテムが生み出された時代だ。
今でも使われているマジックアイテムの殆どがこの時期に開発され、その中には今ではもう作れなくなった『幻の魔道具』なども存在する。
そしてその一つが、このノルド城にある――『隷属と支配の祭壇』である。
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『隷属と支配の祭壇』
種類:複合魔導装置
レア度:☆☆☆☆☆☆
魔物ではないものに[隷属魔法]をかけるための装置。
祭壇にある魔法陣の中で服従を誓わせる事で、相手を[隷属(潜伏)]状態にする事が出来る。
[隷属(潜伏)]状態の相手は、術者によっていつでも[隷属(小~大)]状態に移行させることが可能。
また[隷属(潜伏)]はステータスに表示されないため、症状を発症させるまでは[隷属魔法]を掛けた事を気付かれる心配はない。
さらにこの装置には[隷属魔法]の魔力運用を補助・増強する効果もあり、それによって[隷属魔法]を掛けられる人数はほぼ無制限となっている。
ただし、この装置を使えるのはアインノルド王家の血を引く者のみ。
現状ではアインノールド公爵ウェルヘルミナ・ディ・アインノールドだけである。
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この解説文は、以前照がその装置を鑑定したものだ。
記載通り[隷属魔法]を人間に施すための装置である。
代々[魔物使い]のジョブを持つ『アインノルド王家』のために作られた、特別な魔導装置なのだ。
ただし――この装置はアインノルド王国がグレイス王国に合併されてから使えなくなっていた。
この装置を使えるのは『アインノルド国王』のみであり、現在の『アインノールド公爵家』になってからは、その使用権限が失われてしまっていたのだ。
だから合併以降に行われていた『誓いの儀式』は、本来の機能は失われて形骸化し、あくまで伝統の儀式として続けられてきたのだが……。
そこで誕生したのがウェルヘルミナだ。
彼女は生まれながらにして称号を与えられた珍しい人間だった。
与えられた称号がこちら――。
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[アインノルド女王]
アインノルド王国の女王となったものに与えられる称号。
習得スキル:[カリスマ(大)]
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この称号のおかげで、彼女は『隷属と支配の祭壇』を使用することが出来たのだ。
「それにしても素晴らしいですわ[隷属と支配の祭壇]は。このおかげで今や領民すべてがわたくしの奴隷。『城を守れ、死ぬまで戦え』と命じただけで、自らの命も顧みずに戦う無敵の軍隊の出来上がり。ウフフフフ、素晴らしい! 素晴らしいですわ、わたくしの陰謀は!」
相手の軍と自分の大軍を見比べて、ウェルヘルミナはほくそ笑む。
「ですが私の策略はこれだけではありません。我が軍は数で相手を上回った。なら次は質ですわ。そのための転移者、そのためのサクヤ様とスズカ様ですの。異世界転移者は常人の十倍の力を有すると言われている。あのお二人ならば、いずれこの国で最強の戦士になってくれる事でしょう」
それこそがウェルヘルミナが異世界転移者を横取りした理由だ。
アインノールド家の前当主は、自ら異世界人を召喚しようとし、それが察知されて失敗した。
だからこそウェルヘルミナは、自前での召喚ではなく横取りという方法をとったのだ。
「父の失敗から学び、慎重に召喚の準備を整えていたところに、突然予告された八人の異世界転移。これを奪えば父の時のような邪魔をされる前に、異世界転移者を手に入れることができるはず。そう考えての転移者強奪でしたが――手に入れられたのが二人だけなのは残念ですが、一応は目論見通りに行きましたわね」
強引なやり方だったため、あっという間に反逆者扱いとなってしまったが、彼女はあまり気にしていない様子。
「ウフフ、いずれ敵対することになっていましたもの、開戦は仕方ありませんわ。今のわたくしには二十万の軍隊と二人の異世界転移者、さらには奥の手がありますしね。時期が少し早まったとはいえ、わたくしが負けるはずがありませんわ」
ウェルヘルミナはすでに勝利を確信しているようだ。
「かつての『アインノルド王国』の栄光を取り戻す――。そのためにもまずはあのお二人を早く言いなりにしなければ。サクヤ様とスズカ様を奴隷にし、わたくしの最強の戦士に育て上げるのです! そのときこそわが軍は、世界最強の軍隊と化すのですわ! オーッホッホッホッ!」
高笑いをし、悦に入るウェルヘルミナ。
だがその時――。
――ゾクッ!
「――っ!?」
――ウェルヘルミナの背筋を冷たいものが走った。
同時に体の中から、何か大切なものがゴッソリと抜け落ちてゆく感覚――。
(なっ……何ですの今の……? 寒気と、それに……喪失感……? これは……まさかっ!)
慌てたウェルヘルミナはバルコニーから身を乗り出し、目を皿のようにして自軍の様子を伺う。
ざわ……ざわ……ざわ……
[隷属魔法]によって支配された二十万の軍勢。
先ほどまで静かだったその大軍から、徐々にさざめきが聞こえ始めた。
「ま……まさか……!」
次々と正気に戻っていく領民たち。
ウェルヘルミナは信じられない思いでその光景を眺める。
「な、なぜこんな……あり得ない、どうして魔法が解けて……?」
――二十万を超える自慢の軍隊、その崩壊が始まっていた。
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