神様、探偵チートじゃ戦えません!

雨墨篤@「ニセ魔法使い~」第一巻発売中!

文字の大きさ
69 / 130
第五章 悪役令嬢の憂鬱

5-6話 悪役令嬢の野望

しおりを挟む
「アーッハッハ! 圧倒的ですわ、わが軍は!」

 城のバルコニーから戦況を見下ろすウェルヘルミナ。

「これこそが我が『アインノルド王国』の力! 今はアインノールド公爵家としてグレイス王国の傘下にいますが、元々『アインノルド王国』はグレイス王国などよりはるかに歴史の長い由緒ある王国でしたわ。――その誇りと権力を今こそ取り戻すときよ! 思い知りなさい、グレイス王国の簒奪者ども!」

 すでに勝ち誇ったように笑うウェルヘルミナ。
 彼女がどうやってこれほどの大軍を用意したのか?
 それは彼女が語る『アインノルド王国』の歴史に関連がある。
 アインノールド公爵家の源流である『アインノルド王国』が興されたのは、グレイス王国建国よりもさらに千年近くも昔の時代だ。
 その時代は『魔導開化期』と呼ばれ、魔道具、魔法陣、スクロールなど、様々なマジックアイテムが生み出された時代だ。
 今でも使われているマジックアイテムの殆どがこの時期に開発され、その中には今ではもう作れなくなった『幻の魔道具』なども存在する。
 そしてその一つが、このノルド城にある――『隷属と支配の祭壇』である。

====================
『隷属と支配の祭壇』
 種類:複合魔導装置
 レア度:☆☆☆☆☆☆
 魔物ではないものに[隷属魔法]をかけるための装置。
 祭壇にある魔法陣の中で服従を誓わせる事で、相手を[隷属(潜伏)]状態にする事が出来る。
 [隷属(潜伏)]状態の相手は、術者によっていつでも[隷属(小~大)]状態に移行させることが可能。
 また[隷属(潜伏)]はステータスに表示されないため、症状を発症させるまでは[隷属魔法]を掛けた事を気付かれる心配はない。
 さらにこの装置には[隷属魔法]の魔力運用を補助・増強する効果もあり、それによって[隷属魔法]を掛けられる人数はほぼ無制限となっている。
 ただし、この装置を使えるのはアインノルド王家の血を引く者のみ。
 現状ではアインノールド公爵ウェルヘルミナ・ディ・アインノールドだけである。
====================

 この解説文は、以前テルがその装置を鑑定したものだ。
 記載通り[隷属魔法]を人間に施すための装置である。
 代々[魔物使い]のジョブを持つ『アインノルド王家』のために作られた、特別な魔導装置なのだ。
 ただし――この装置はアインノルド王国がグレイス王国に合併されてから使えなくなっていた。
 この装置を使えるのは『アインノルド国王』のみであり、現在の『アインノールド公爵家』になってからは、その使用権限が失われてしまっていたのだ。
 だから合併以降に行われていた『誓いの儀式』は、本来の機能は失われて形骸化し、あくまで伝統の儀式として続けられてきたのだが……。
 そこで誕生したのがウェルヘルミナだ。
 彼女は生まれながらにして称号を与えられた珍しい人間だった。
 与えられた称号がこちら――。

====================
[アインノルド女王]
 アインノルド王国の女王となったものに与えられる称号。
 習得スキル:[カリスマ(大)]
====================

 この称号のおかげで、彼女は『隷属と支配の祭壇』を使用することが出来たのだ。

「それにしても素晴らしいですわ[隷属と支配の祭壇]は。このおかげで今や領民すべてがわたくしの奴隷。『城を守れ、死ぬまで戦え』と命じただけで、自らの命も顧みずに戦う無敵の軍隊の出来上がり。ウフフフフ、素晴らしい! 素晴らしいですわ、わたくしの陰謀は!」

 相手の軍と自分の大軍を見比べて、ウェルヘルミナはほくそ笑む。

「ですが私の策略はこれだけではありません。我が軍は数で相手を上回った。なら次は質ですわ。そのための転移者、そのためのサクヤ様とスズカ様ですの。異世界転移者は常人の十倍の力を有すると言われている。あのお二人ならば、いずれこの国で最強の戦士になってくれる事でしょう」

 それこそがウェルヘルミナが異世界転移者を横取りした理由だ。
 アインノールド家の前当主は、自ら異世界人を召喚しようとし、それが察知されて失敗した。
 だからこそウェルヘルミナは、自前での召喚ではなく横取りという方法をとったのだ。

「父の失敗から学び、慎重に召喚の準備を整えていたところに、突然予告された八人の異世界転移。これを奪えば父の時のような邪魔をされる前に、異世界転移者を手に入れることができるはず。そう考えての転移者強奪でしたが――手に入れられたのが二人だけなのは残念ですが、一応は目論見通りに行きましたわね」

 強引なやり方だったため、あっという間に反逆者扱いとなってしまったが、彼女はあまり気にしていない様子。

「ウフフ、いずれ敵対することになっていましたもの、開戦は仕方ありませんわ。今のわたくしには二十万の軍隊と二人の異世界転移者、さらには奥の手・・・がありますしね。時期が少し早まったとはいえ、わたくしが負けるはずがありませんわ」

 ウェルヘルミナはすでに勝利を確信しているようだ。

「かつての『アインノルド王国』の栄光を取り戻す――。そのためにもまずはあのお二人を早く言いなりにしなければ。サクヤ様とスズカ様を奴隷にし、わたくしの最強の戦士に育て上げるのです! そのときこそわが軍は、世界最強の軍隊と化すのですわ! オーッホッホッホッ!」

 高笑いをし、悦に入るウェルヘルミナ。
 だがその時――。

 ――ゾクッ!

「――っ!?」

 ――ウェルヘルミナの背筋を冷たいものが走った。
 同時に体の中から、何か大切なものがゴッソリと抜け落ちてゆく感覚――。

(なっ……何ですの今の……? 寒気と、それに……喪失感……? これは……まさかっ!)

 慌てたウェルヘルミナはバルコニーから身を乗り出し、目を皿のようにして自軍の様子を伺う。

 ざわ……ざわ……ざわ……

 [隷属魔法]によって支配された二十万の軍勢。
 先ほどまで静かだったその大軍から、徐々にさざめきが聞こえ始めた。

「ま……まさか……!」

 次々と正気に戻っていく領民たち。
 ウェルヘルミナは信じられない思いでその光景を眺める。

「な、なぜこんな……あり得ない、どうして魔法が解けて……?」

 ――二十万を超える自慢の軍隊、その崩壊が始まっていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

国外追放だ!と言われたので従ってみた

れぷ
ファンタジー
 良いの?君達死ぬよ?

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

足手まといだと言われて冒険者パーティから追放されたのに、なぜか元メンバーが追いかけてきました

ちくわ食べます
ファンタジー
「ユウト。正直にいうけど、最近のあなたは足手まといになっている。もう、ここらへんが限界だと思う」 優秀なアタッカー、メイジ、タンクの3人に囲まれていたヒーラーのユウトは、実力不足を理由に冒険者パーティを追放されてしまう。 ――僕には才能がなかった。 打ちひしがれ、故郷の実家へと帰省を決意したユウトを待ち受けていたのは、彼の知らない真実だった。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

追放料理人とJKの異世界グルメ無双珍道中〜ネットスーパーは最強です〜

音無響一
ファンタジー
わーい、異世界来ちゃった! スキルスキル〜何かな何かな〜 ネットスーパー……? これチートでしょ!? 当たりだよね!? なになに…… 注文できるのは、食材と調味料だけ? 完成品は? カップ麺は? え、私料理できないんだけど。 ──詰みじゃん。 と思ったら、追放された料理人に拾われました。 素材しか買えない転移JK 追放された料理人 完成品ゼロ 便利アイテムなし あるのは、調味料。 焼くだけなのに泣く。 塩で革命。 ソースで敗北。 そしてなぜかペンギンもいる。 今日も異世界で、 調味料無双しちゃいます!

最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)

みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。 在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。

処理中です...