【完結】小公爵様の裏の顔をわたしだけが知っている

おのまとぺ

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第三章 推しカプ大戦争

29 ド・ラ・パウル公爵家

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 グレンシア男爵家のメンバーが揃ってド・ラ・パウル公爵家を訪問したのは夜六時過ぎのこと。父グリフィンはよほど今日のことを楽しみにしていたようで、マリベルが帰宅した時にはすでに家に居た。

 母も母で、父の言っていた通りアプリコットとリンゴを煮込んだジャムの大きな瓶をバスケットに入れて、終始嬉しそうに微笑んでいる。確かにド・ラ・パウル公爵家の人たちは物腰が穏やかで、人当たりの良い性格だが、我が家のこのベタ惚れたるやいったい何事なのか。


「あぁ、グリフィン……!!この間のキャンプぶりだね。あの時は息子のせいで君の大切な一人娘に怖い思いをさせてしまってすまなかった。マリベル、怖かっただろう?」

「あ……いいえ、」

 出迎えてくれた公爵の心配そうな顔を見て言葉に詰まる。そういえば、そうだった。ルシアンの気遣いで、マリベルは彼の失くしものを手伝って迷子になったと周囲は思っているのだ。

「カレンは久しぶりだね!君が息子のオータムくんかな?いやぁ、写真で見た頃はまだ赤ちゃんだったのに時の流れは速いものだ」

 しみじみとそう言う公爵を見ながらカレンはただ頷いている。比較的おてんばな姉がド・ラ・パウル邸では借りてきた猫状態になるのは昔から謎だったが、その癖はまだ抜けていないようだ。

 公爵の話に相槌を打ちながら、皆で揃って庭を横切って屋内へと移動する。時折発せられるオータムの喜びの声を聞きながら、マリベルはルシアンの姿を目で探した。

 きっと彼もまた今日の晩餐会に参加するはずだ。
 何を隠そう、ここはルシアンのテリトリー。婚約を発表するのに夕食の場はもってこいだし、格下といえども父親同士が昔から親交があるので、グレンシア男爵家にもその知らせは言い伝えられるだろう。

(関係ないのに緊張しちゃう……)

 相手とはどんな風に知り合ったのだろう?
 どうやって二人は仲を深めたのか。

 野次馬のような疑問が後から後から湧いて出て、マリベルは頭を振ってそれらを追い出す。べつにルシアン親衛隊でもないし、そんなことをいちいち聞き出すべきではない。きっと彼も多くの質問は望んでいないだろう。

 一行がド・ラ・パウル邸の食堂へ到着した時、開け放たれた扉の向こうにマリベルは綺麗に着飾った公爵夫人と、何度も見た対外的な笑顔を浮かべたルシアンを見つけた。すみれ色の瞳がマリベルを捉えて、すぐに逸らされる。


「さぁさぁ、久方ぶりの我が家での食事だ……!グレンシアの皆もどうぞ楽しんでくれ」

 公爵が席に着くと、その隣に父グリフィンが着席し、母親もまた話がしやすいように公爵夫人の方へと寄って行く。どこに座るべきか迷っているマリベルの背中をカレンがぐいぐいと押して、結局意図せずルシアンの前に腰掛けることになった。

 本心の読めない小公爵と上手く会話できるかは分からないが、姉が隣に居れば多少なりとも気まずい思いは防げるだろう。安堵の息を吐きながら、並べられていく料理の皿を眺めた。

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