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第三章 ベルトリッケ遠征
34 同居人の責任
しおりを挟む気付けば、隣のテーブルまで静かになっていた。
ひしひしと周りの視線を感じながら、私は顔を上げる。サイラスは冗談を言っている風ではなく、至って真面目な顔でこちらを見ている。その隣に座るクレアが胸の前で手を組んでキラキラと目を輝かせていた。
「………すみません、先生」
「どうしたの?」
「お誘いは有難いのですが、お断りせざるを得ません。まだプラムも小さいですし、混乱すると思います」
「誰か君を支える男が居るのかな?」
私が答える前に後ろからフィリップの声がした。
「サイラス先生、実は彼女はゴア隊長の命令でここに居るフランくんと住んでいるんです」
「え?誰と住んでるって?」
振り返ったサイラスの視線がフィリップからダースの方へ移る。私は大男が青い顔をして首を横に振るのを見た。続いて見られたメナードもまた勢いよく手を振る。最後にフランが顔を上げて、私はその黄色い双眼が若干の苛立ちを宿していることに気付いた。
そりゃあそうだろう。
進んで引き受けたわけでもない同居人という役割について見知らぬ男から問い正されても、彼は知ったこっちゃないはずだ。巻き込んでしまって申し訳なく思うし、後で何か詫びを入れたい。
「………フランは俺だが、」
不機嫌そうな少し低い声。
サイラスは驚いたように目を見開いた。
「君がローズと一緒に住んでいるの?隊長命令なんて言うけど、よく受け入れたね。彼女に悪いと思わなかったのかい?」
「待ってサイラス、提案を飲んだのは私の判断よ!」
「君は少し黙っていてくれ。こういうのは男側に責任が生じるんだよ。なんたって、同じ家に住むんだから」
「私たちはそんな関係じゃないの。彼は親切な人で、プラムにも私にも良くしてくれているわ」
「どうだかね。信じられないな」
目を細めるサイラスの視線を受けたまま、フランが息を吐いた。
その様子は怒っているように見えた。
無理もない。ただでさえ面倒な任務を押し付けられていたのに、それが原因で責任云々言われれば、良い気はしないだろう。なんとか場の収拾を付けたい私が解決策を見つける前に同居人は席を立った。
「少なくとも、」
冷たい声が場の空気を揺らす。
フランの目は私を見ていた。
「患者に邪心を抱くあんたに説教されたくない」
「邪心じゃない!僕は本気で……!」
「文句があるならゴアに言えよ。俺に当たるのはお門違いだろう、先生?」
サイラスが何か言い返す前に食堂の扉が閉まった。
私たちは暫く気不味い空気の中を所在なく視線を泳がせ、結局のところ長い沈黙を破ったのはラメールが開けた缶詰の異臭だった。年代物の鹿肉のなんとも言えない匂いが部屋に漂ったので皆が慌てて窓を開けたけれど、残念ながら重たい空気を変えることは出来なかった。
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