魔法学校のポンコツ先生は死に戻りの人生を謳歌したい

おのまとぺ

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第五章 祈りと迷い

93 悪夢3



 ハインツが何をしたのか分からない。
 彼の魔術の仕組みも分からない。

 コレットに分かったのは、先ほどまで荒い息を繰り返していたレオンが今ではすっかり静かになって地面に首を垂れていること。そして、彼の身体を囲むように徐々に広がっていく赤い血が、彼自身から流れ出ているということ。


「レオン……!!!」

 走り寄ってその手に触れるも、いつも強い意志を持って光る灰色の双眼は瞼の下で眠ったままで、半開きの唇はピクリとも動かない。

「ハインツ、どうして………ッ!!」

「君が納得するだけの理由は話せないよ。彼にトドメを刺したのは彼自身の恐怖心だ。僕たちの計画にこの男は邪魔だった。ソロニカの回収は済んだから、もう行こうかな」

「待って、行かないで……!ソロニカ先生はどこに居るの!?レオンを助けたいの、何でもするから治癒を……!!」

「あぁ、コレット…… 言っていることが無茶苦茶だよ。レオン・カールトンを生かしておけば僕らの計画に支障が出る。分かるだろう?首輪のない獰猛な獅子みたいなものだよ、僕ら羊は彼を警戒している」

「羊ですって………?」

 レオンの胸を押さえながら、コレットは自分の声が掠れてほとんど音になっていないことに気付いた。最悪な結果を前にして、想像以上に動揺している。怒り、悲しみ、驚きといった感情がドロドロに溶けて心臓を包み込む。

 親切な隣人が悪魔だった。

 その悪魔は、この国の王子を自死に見せ掛けて殺害しようとしている。何も知らなかった日々が、酷く馬鹿らしくて、思い出がすべて色褪せていくのを感じた。

 コレットは腕の中のレオンの顔を見下ろす。
 魔法で多少傷は塞がったが、急を要することは変わらない。あまりにも多くの血を流し過ぎた。このままでは失血によるショック反応で命に関わる可能性もある。

(病院まで……運ばないと、)

 魔力があれば、そんなことは今更だと分かっていても悔しい思いは捨て切れない。ズルッと自分より遥かに大きいレオンを背負うコレットを見て、ハインツは両手を大袈裟に叩いた。


「偉いねぇ、コレット!恩返しをしたいんだね。彼は君の命の恩人なわけだから」

「………静かにして」

「それとも一緒に行動するうちに愛でも芽生えた?僕は人間のことは嫌いだけど、君のことは好きだったからちょっと妬けるなぁ。そうだ、王子様が死んだら僕とデートしてみない?」

「ハインツ、それ以上喋らないで」

「へ?」

 痛む頭を振って、コレットは顔を上げる。
 不思議そうな双眼を睨んで口を開いた。

「今、私すごく気が立ってるの。自分でもビックリするぐらい怒ってる…… どんな理由があるにせよ、この人が助からないなんて結果になったら、そうなったら私は……」

「…………」

「貴方を許さない……絶対に、」

 ハインツは口角を上げて笑った。
 黒い瞳がキラッと光って、悪魔は楽しくて仕方がないといった様子で手を叩く。場違いな拍手が鳴り止む前に、細い声がその場に割って入った。


「退場なさい、魔の者」

 瞬間、明るい光が辺り一面を包む。
 コレットはあまりの眩しさに目を閉じた。


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