魔法学校のポンコツ先生は死に戻りの人生を謳歌したい

おのまとぺ

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第五章 祈りと迷い

94 悪夢4



 すべては刹那の出来事だった。

 植木に囲まれた中庭のような場所に居たはずなのに、いつの間にかコレットは真っ白な部屋の中で横たわっていた。膝の上で眠っていたレオンの姿も見当たらない。老人の死体も、ハインツもどこか見えない場所に行ってしまった。


「コレット・クライン、目覚めましたか?」

 鈴の音のような声に後ろを振り返ると、白いワンピースに身を包んだ若い女が立っていた。透けるような金髪に柔らかな肌、優しい目元には見覚えがある。その人物に思い当たった時、コレットは驚いて声を上げた。

「迷路で出会った女の子……!」

 少女だったはずの彼女が、どういうわけか成長した姿でコレットを見下ろしている。頭の上には何かの葉で出来た冠を載せて、その姿はまるで。

「私が女神です」

「………っ!!」

「男の悪魔は空間に引っ張られる前に逃げたようですね、気配を感じないわ。遺体はもう用無しといったところかしら?神聖な神殿で殺戮を行うなんて、野蛮な種族ね」

「貴女は、」

 コレットの声が聞こえないのか、それから暫く考える素振りを見せた女は独り言を呟くだけで、何も返答らしきことをしなかった。セレスティアの言語以外も織り交ぜて語られる話の内容を理解することは出来ないが、彼女が自分より高度な知識を有していることはよく分かった。

 女神、なのだろうか?本当に?

 長年セレスティアで生きるコレットも、女神なんて存在について聞いたことがない。もちろん学校でも習っていないし、それらしき文献も読んだことはない。空想上の存在がどうしてここに。目の前の存在について考えを巡らせながらも、頭の隅ではずっと居なくなったレオンのことを考えてしまう。


「王子様が心配なのね?」

 コレットの心の中を見透かしたように女はそう言った。ドキッとして顔を上げる。

「レオン・カールトンは眠っているのよ。長い長い眠りについたの。彼は私と交わした約束を守らなかったから、代償を払わせないと」

「どういう意味ですか……?」

「女神は対価なしに動きはしないわ。私は一年前に彼の願いで時間を戻してあげた。貴女はそれで息を吹き返した。感謝をすべきです」

「感謝はしています!レオンにも、女神様にも……救ってくれた恩は忘れません。だけど、彼が目を覚まさなかったら私は、」

 どうやって感謝を伝えれば良いのか。
 まだ、何も力になれていないのに。

 ハインツ曰く、ソロニカは連れ去られた。レオンは戦闘不能で意識がない。女神はもう目を覚ますことはないと言っている。それじゃあ、この先、コレットたちはどう極地会と向き合っていけば良いのだろう。ミドルセン校長と残された教師たちだけで、勝てるのだろうか?

 戦局が厳しくなったのは明白だ。

 コレットは震える手を白い床に着けて、ゆっくりと頭を下げた。冷たい石の温度が額から頭に伝わってくる。自分なりの誠意。


「女神様…… どうか……どうか、レオンを助けてください。私たちには彼が必要です」

「どうして?」

「彼はこの国の王子です。今、セレスティアは彼の力を求めています。レオンが眠ってしまったら、私たちはもう、」

「私が聞きたいのはそんな建前的な話じゃないわ。国の情勢が悪くなって貴女が何か困るの?ただの教師なのに?」

 コレットは言葉に詰まって、女神に視線を合わせる。人の姿をした美しい神様は、お見通しのような顔でこちらを見ていた。

「私が……レオンを必要としています」

「ふふっ、よく言えました」

 女神はニコッと笑う。
 そして立ち上がって腕を伸ばした。

「今から貴女たちを王宮の門の前へ飛ばすわ。衛兵に事情を話す必要はないから、王に謁見を申し出て。私が話すことを伝えてちょうだい」

「………?」

「東の極地キュアノスの封鎖を解いてほしいと。動かせるだけの兵士を用意して、隊を組ませて、穴を封じるために動くよう準備を。彼らはあくまでも援護で、第一線は貴女たち魔法使いよ」

「どういう意味ですか……?穴って……?」

「キュアノスの黒い森には魔界に通じる抜け道があります。かつてマーリンが塞いだ穴が、時の経過とともに劣化したのです」

 驚くコレットに向かって、女神は鋭い目を向けた。

「私がレオン・カールトンに提示した時戻りの条件は、その穴を塞ぐこと。彼の命を救いたいならば、貴女が約束を果たしなさい」


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