魔法学校のポンコツ先生は死に戻りの人生を謳歌したい

おのまとぺ

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第一章 魔法学校のポンコツ先生

00 プロローグ





 何かの音がする。

 ガチャガチャ、バタバタ。

 もう少しゆっくり眠らせてほしいのに、どうしてそんなに騒ぎ立てるの。今日はせっかくの休みで、まだ行きたかった店にも辿り着けていない。


「怪我人は二人。一人は二十代と見られる女性で、腹部の損傷が激しい。すぐに緊急手術に入ってください」

「呼吸は?」

「なんとか続いています」

「分かりました、到着次第オペ室に回します」

 物騒な言葉が流れ込んでくる。

 流行りの小説のワンシーンみたいだ。天才外科医マーベル・ロック先生の手術シーンを頭の中で思い浮かべながら、手の拳を握った。

 だけれど、握り込んだ手の感覚がない。
 ただ空気を掴むみたいに何も感じない。


「あ、身分証を発見しました!プリンシパル王立魔法学校の教員のようです。連絡を入れますか?」

「そうだな。学校から親族にも電話するように伝えてくれ、今のままじゃいつまで持つか……」

 プリンシパル王立魔法学校?
 随分と聞き覚えのある名前だ。

 それは自分の勤務先で、昨日だって夜遅くまで職員室にこもってコレットは生徒たちのテストのマル付けを行っていた。何度も潜ったあの大きな門を思い出す。両側に立った獅子の銅像が最初は怖くて仕方なかったっけ。



「先生!心拍が落ちています……!」

「大変だ、病院まで間に合ってくれ!」

 何の話をしているのだろう。

 いったいどうして、姿の見えないこの人たちはこんなに慌てているのだろう。プリンシパル魔法学校の誰かが、何かの事件に巻き込まれたのだろうか。

 そうだとしたら、早く教えないと。
 校長のワイズ・ミドルセン先生に連絡して、今居る場所と状況を詳しく共有しなければ。緊急事態にはミドルセン先生の自宅に電話するように言われていたはず。

 なのになんで。
 身体が重くて動かない。


「心拍…!停止しました……!」

「あぁっ、なんということだ!名前を呼べ!手を握って、意識に呼び掛けて!!」

「コレットさん!聞こえますか!?コレット・クラインさん……!!」

 ええ、聞こえていますとも。

 そんなに大きな声を出す必要はないから大丈夫。頭の回転はどうだか分からないけれど、耳は悪くないし、何よりコレットはまだ若い。

 それより視界が真っ暗で困るから、とにかくカーテンなり何なり開けてほしい。もしくは誰かが頭から布でも掛けているの?意地悪な人も居るもんだ。

 やがて、騒々しい音が静まった。
 小さな溜め息が聞こえる。


「………残念だがもうこれまでだ」

「そんな……っ!」

「十月一日午後四時三十分……コレット・クライン、二十五歳の死亡を確認した」


 暗く沈んだ声がゆっくりと言葉を紡ぐ。
 コレットは、自分の身体が軽くなるのを感じた。

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