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第一章 魔法学校のポンコツ先生
04 ポンコツ先生
ポンコツとは。
使えない人間であること、またはその様子。能力が低く、周囲の人々の足を引っ張ることを意味する。反意語としては「有能」などがある。
え?ポンコツ?
聞き間違いではなく?
「えーっと………バロンくん?君ちょっと失礼じゃないかしら?ご両親からそういう言葉は使っちゃダメって言われなかった?」
「僕は公爵家の出です。両親は教育に厳しく、僕を王立アカデミーに入れたかったみたいですが、その勧めを蹴って魔法学校を選びました」
「あ、そうなんだ……」
公爵家だろうが何だろうがどうでも良いし、質問への回答になっているのか疑問は残るものの「爵位があるから黙れよ」という脅しだろうか。ぐぬ。
「失礼だったなら謝ります。ポンコツは悪口に当たる言葉なんですね。言われたことがないので分かりませんでした、すみません」
「いいのよ~これから分かってね」
ピクピクと引き攣りそうになる頬を叩いてコレットは黒板の方を向く。
可愛くない。どうしよう、ビックリするほど生徒たちが可愛くない。というか待って、三浪して教員になるのってそんなに恥ずかしいことだっけ。確かに受けに行くたびに「また来たなコイツ」という顔で試験官に見られていたけれど、あれは被害妄想では無かったのか。
いや、そもそも。
(………もしかして……無能?)
じんわりと思い出される一度目の人生の記憶。飛び交うゴミや筆記具。授業になっても席に座らない生徒たち。大声を出しすぎて喉が枯れるので常時のど飴を携帯していたような………
今なら分かる。コレットは成し遂げることが出来なかったのだ。生徒たちとの関係の構築、誠心誠意でのサポート、自分が理想とする教師像の実演を。
頭の中の情報を整理していたら、黙り込むコレットの背中に生徒からの不満げな声が刺さった。
「しっかりしてよーポンコツ先生!」
「なっ……!?」
ショックを受けるコレットの前でニヤニヤと笑う生徒たちが声を揃えて「ポンコツ」コールを始める。じんわりと涙が滲む目を擦って口を開いたとき、バリッと雷が落ちたような大きな音がした。
目を遣ると、コレットの前には先ほどまで入り口に立っていたマルティーナ・プッチ副校長が居た。
「貴方たち、品のない行いは控えなさい」
「だってその先生が!」
「クライン先生がどんな経験を経て教師になっていようと、今教壇に立っている現実がすべてです。夢を叶えた者を笑う権利は誰にもありません」
水が引いたように騒ぎが収まるのが分かった。
コレット自身、息を潜めて耳を澄ませる。
「プリンシパル王立魔法学校において私たち教員は絶対です。指示を仰いで、敬いなさい」
子供たちは互いに目配せをし合うと、渋々といった様子で「ごめんなさい」と小さく述べた。教卓の上にはプッチが付けたのか、焼け焦げた跡が残っている。指で触れると、まだ少し熱が残っているような気がした。
コレットは副校長に礼を伝えて、再び生徒たちを見渡す。先ほどよりもやや緊張した面持ちであるものの、話は聞いてくれそうな様子だ。
「あの……私は、みんなが毎日楽しいと思えるクラスを作りたいです。ここに集まった貴方たちは魔法使いの卵だから……プリンシパル王立魔法学校の先輩たちのような、偉大な魔法使いにも、きっとなれる」
名門とされる魔法学校には、それこそセレスティア王国中から高い目標を持った生徒たちが集まる。だけどコレットは、自分の技量を磨くだけではなく、学生生活自体を楽しんでほしいと思っていた。
このクラスで過ごす三年間は、一度だけだから。思い返した時にほっと胸が温かくなるように。
「先生にみんなの思い出作りの手伝いをさせてほしいの。最高の学校生活にしましょう……!」
意を決して言い切ると、少しの間その場は静まり返る。くさいことを言い過ぎただろうか、胸の内で反省が始まった頃、パチパチと小さな拍手が聞こえた。
顔を上げてみると、教室の一番後ろ、窓際の席に座った男子生徒が穏やかな笑みを浮かべて手を叩いている。やがて感化されたように拍手は広がって、最終的に口笛混じりの大きな音になった。
コレットは涙ぐみながら頭を下げる。
これが二度目のチャンスなら、必ず成功させなければいけない。どんな理由であれ、与えられた死に戻りの人生は、後悔しないために生き抜きたい。
黒板に書かれた日付は五月一日。
半年の時間が戻ったことになっていた。
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