魔法学校のポンコツ先生は死に戻りの人生を謳歌したい

おのまとぺ

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第一章 魔法学校のポンコツ先生

05 有難い教え



 そんなこんなで幕を開けた初日。

 楽観的なコレットもさすがに疲れ果てて食堂の配膳列に並んでいた。記憶が妄想で無ければ、おそらく半年ほどは教師として過ごしていたはずなのに、まったくもってこの身体はそれを覚えていない。

 生徒の名前と顔はボンヤリと思い出せる。もともと八人ほどの少人数から成るクラスなので、おそらく一週間もすれば記憶することが出来るだろう。親が魔法省勤めだと言うミナ・レイトンに秀才バロン・ホーキンスを始めとする個性的な生徒諸君は、確かに前世でもコレットの頭を悩ませていた。

(………それにしても、)

 記憶にないこともチラホラある。
 コレットが新人として採用された際に、あんな拍手喝采をもらう場面があっただろうか?きっかけとなったあの一人の男子生徒にも覚えはない。名前を調べておこう、と分厚いファイルを開こうとしたところで、後ろから大きな声で呼ばれた。

「コレット・クライン先生!」

「うわぁっ!?」

 持っていたファイルが右手から滑り落ちて床に落下する。広がった紙を掻き集めていたら、そばまで寄って来た男は同じようにしゃがんでコレットの顔を覗き込んだ。

「アーベル先生……!」

 それは、今朝方コレットを副校長の詰問から救ってくれたルピナス・アーベルだった。


「職員室でのことは気にしないでください。ボクは先輩教師として自分の責務を全うしただけですからね!」

「その節はありがとうございました。パウラ先生のお名前はたぶん何処かで聞き齧ったんですが、咄嗟に思い出せなくって……」

「良いんですよ!困ったときはお互い様です。でも、そうですね。クライン先生がどうしてもと仰るならB定食を奢っていただくという案はどうでしょう?」

「………はい?」

「んん!A定食にはサーモンとオニオンのマリネか……タンパク質の量を考慮したら理想的だ。しかし、B定食にはデザートのヨーグルトが……」

 ブツブツと小言を言いながら顎に手を当てて唸る横顔を見つめる。この人はいったい何を言っているのか。コレットの記憶が正しければ、魔獣生態学を担当するアーベルはベテラン教師だ。

 そのベテラン教師にたかられている。
 親切の代償として昼ごはんを。

「よし、決めた!今日は天の声に従ってB定食!」

「まだ奢るなんて言ってませんが……!?」

「クライン先生、これは先輩からの有難い教えです。君のその分厚いファイルの一番上にデカデカと書いておくと良い」

「………?」

「他人に奢られる飯は美味い、以上!」

 絶句。ガハハハッと大口を開けてトレイを手に取る自称先輩の後ろで財布を開きながら、コレットはとんでもなく面倒な男に借りを作ってしまったと後悔する。

 昼飯ぐらい、と思うかもしれない。
 しかしながら、何を隠そうコレットは貧乏人なのだ。下宿先であるマダム・メロウのアパートメントの賃料すらヒィヒィ言いながら払っている身分に、他人のごはんを奢る余裕などない。

 とりあえず、恩は恩なのでアーベルの分の食事代を払い終わると、コレットはファイルを持って購買へと飛び込んだ。空腹に鳴る脇腹を抱えながら、なんとか小さな白パンを掴んでレジへと向かう。

(…………お腹、空いたぁ……)

 校舎を出ると、ちょうど良い感じの木陰があったので、よっこいせと腰を下ろして脚を伸ばした。心地の良い柔らかな風が頬を撫でる。

 くそう。絶対にいつかは食堂で堂々と定食を注文する身分になってやる。ルミナス・アーベルに強請られても「A定食でもB定食でもどっちでも良いですよ~」と答えられるぐらいの資金力を手に入れてやる。

 そんな野望を胸にハグハグと白パンを齧っていたら、少し離れた場所にあるベンチに、見知った金髪を目撃した。

(ん……? あれは………)

 目を凝らすと蘇るのは教室での出来事。一人で座り込む少年は、コレットが挨拶をした際に一番最初に拍手を送ってくれたその生徒だった。

 慌てて草原の上に放り投げたファイルを掴み取る。ページをめくって名簿に目を落とすと、必要最小限の笑顔を浮かべた男子生徒の下には「ノエル・ブライス」と書かれていた。

 ふん、と息を吸い込んで立ち上がる。


「ノエル……ブライスくん?」

 静かにこちらを振り返った瞳は淡いグレー。
 まるで風の精霊のようだと思ったのが第一印象。

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