魔法学校のポンコツ先生は死に戻りの人生を謳歌したい

おのまとぺ

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第一章 魔法学校のポンコツ先生

10 一年一組



 そして迎えた二日目。


「みなさーん、おはようござ───」

 仕方ない。認めよう。
 これは認めざるを得ない。


「ちょっとバロン!昨日の魔力測定だけどやっぱり私の方が上だと思うの。あの時はコンディションが良くなかったから勝負は引き分けよ!」

「ミナ、君は馬鹿なのか?コンディションによって魔力の値は変わらない。魔法省エリートの娘がこの程度とはご両親が気の毒だね」

「は、はぁ……!?だいたい、私は測り直しを希望したのよ!計測器が壊れなかったらもう一度ちゃんとした状態で測定出来たのに!」

「それを言うなら僕を責めないでくれ。最後に測ったのはブライスくんだろう」

 やんややんやと言い合っていたミナとバロンが教室の後方を振り返る。その視線の先では顎に手を突いてぼうっと外の景色を眺めるノエル・ブライスの姿があった。

 まったくと言って良いほど、みんなコレットに関心がない。というか、普通は教師が話し始めたら着席して顔をそちらに向けるものではないか。プッチ副校長に注意された際はしょんぼりして反省の色が見えたものの、今では完全に元通り。

 コレットはショックを受けつつ、再度奮起して声を張り上げた。


「みんな!こっちを見なさい!」

 最前列のミナとバロンが首だけ捻ってこっちを見る。着席するように指示を出すと渋々といった様子で椅子を引いて腰を下ろした。

「なに?」

「なにじゃないです!もう朝の会を始める時間なのよ?どうして落ち着いて座れないの」

「それを鎮めるのが先生の役割でしょーが」

「ぐぬっ……!」

 急募、生徒が可愛く見える魔法。
 もしくは生意気な生徒を黙らせる魔法でも可。

 コレットは唇を一文字に結んで感情を抑えながら、なんとか連絡事項の通達を終え、今日の時間割を上から説明していった。まだ五月ということもあって、一日のコマ数は五限までと少ない。一時間の授業を生徒たちは午前に二つ、午後に三つ受ける。

「えーっと、今日は魔法薬学の授業が自習に振替だそうです。担当のベルーガ先生のスクーターが故障したらしくって、到着が遅れるらしく……」

 説明しつつ、その自由っぷりに目を疑う。
 一度目の人生でもそうだったように、魔法薬学を担当するピクシー・ベルーガは変わらず自由人を貫いているようだ。色白の小柄な女性である彼女は自分で染めた緑の髪が特徴だった。

(変な感じ……夢を見てるみたいだわ)

 二度目の人生であるものの、起こる出来事は微妙に違っている気がする。初日の挨拶や転校生ノエル・ブライスの存在からして疑惑は持っていたけど、五月の魔力測定でバロンがミナに抜かされたというのも初耳だ。二人は常に同じ数値を叩き出して歪みあっていたはずだから。


「先生も今日は授業するの??」

 ミナの質問に我に帰る。

「あ、いいえ。私は今週は他の先生方の授業を見て学習する時間よ。臨時講師のリンレイ先生が今週いっぱいは担当される予定でしょう?」

「うえー残念!リンレイ先生って怖いもん」

「そんなこと言わないの。しっかり学んでね、私がする最初の授業では何処まで身に付いてるか小テストするから」

「ポンコツ先生~それは勘弁!」

「こらっ!ポンコツ言わない!」

 すかさずヤジを飛ばしたのはクラスの中央に座るアストロ・ファッジ。ツンツンとワックスで立たせた赤毛に少しそばかすのある少年だ。「前世でもこの子の揚げ足取りには泣かされたな」とぼんやり思い出しながら、コレットはファイルに目を落とす。

 アストロ・ファッジ、と書かれた名前の下には彼が公爵家の息子であること、父親は隣の都市サガンを本拠地とするサガンゴールドバンクという金の売買を専門とする会社の社長であることが記されている。今更ながらこのデータはいったい誰が収集したんだろう。やや個人情報が過ぎる気がするけれど。


「えーっとね、ファッジくん。自分が言われて嫌な言葉は人に言ってはいけないのよ、分かった?」

「オレは先生と違って一流だからポンコツなんて言われることないんですぅ~」

「…………」

 想像以上の生意気っぷりに言葉を失っていると、クラスの後方から静かな声が聞こえた。

「随分と低俗なことを言うんだな」

 ミナを始めとして多くの生徒たちが勢いよく振り返る。コレットもまた声のした方へ目を向けた。皆の視線を集めるのは、それまで窓の外を眺めていたノエルだった。

「親の威を借りて大きな顔をするのは良くない。まだ子供なんだから、一流も三流も無いだろう」

「はぁ……?なんだよお前、偉そうに」

「ファッジくん!」

 ガタンッと立ち上がったアストロの腕を慌ててコレットは掴む。教室の中にはピリッとした緊張が漂っていた。これは非常に良くない事態だ。

「みんな、一旦先生の話を聞きましょう!もうすぐ一限目の授業が始まるし、準備が必要よね?」

「黙れよ!おい、ノエル……!」

 その時、頭上でボーンと予鈴の音が鳴り響いた。

 ハッとしたように我に帰った生徒たちがそれぞれの鞄を漁り始める。タイミングよく、一コマ目を担当する魔獣生態学のルピナス・アーベルが教室に入って来たことで、アストロも大人しく着席した。


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