13 / 105
第一章 魔法学校のポンコツ先生
10 一年一組
そして迎えた二日目。
「みなさーん、おはようござ───」
仕方ない。認めよう。
これは認めざるを得ない。
「ちょっとバロン!昨日の魔力測定だけどやっぱり私の方が上だと思うの。あの時はコンディションが良くなかったから勝負は引き分けよ!」
「ミナ、君は馬鹿なのか?コンディションによって魔力の値は変わらない。魔法省エリートの娘がこの程度とはご両親が気の毒だね」
「は、はぁ……!?だいたい、私は測り直しを希望したのよ!計測器が壊れなかったらもう一度ちゃんとした状態で測定出来たのに!」
「それを言うなら僕を責めないでくれ。最後に測ったのはブライスくんだろう」
やんややんやと言い合っていたミナとバロンが教室の後方を振り返る。その視線の先では顎に手を突いてぼうっと外の景色を眺めるノエル・ブライスの姿があった。
まったくと言って良いほど、みんなコレットに関心がない。というか、普通は教師が話し始めたら着席して顔をそちらに向けるものではないか。プッチ副校長に注意された際はしょんぼりして反省の色が見えたものの、今では完全に元通り。
コレットはショックを受けつつ、再度奮起して声を張り上げた。
「みんな!こっちを見なさい!」
最前列のミナとバロンが首だけ捻ってこっちを見る。着席するように指示を出すと渋々といった様子で椅子を引いて腰を下ろした。
「なに?」
「なにじゃないです!もう朝の会を始める時間なのよ?どうして落ち着いて座れないの」
「それを鎮めるのが先生の役割でしょーが」
「ぐぬっ……!」
急募、生徒が可愛く見える魔法。
もしくは生意気な生徒を黙らせる魔法でも可。
コレットは唇を一文字に結んで感情を抑えながら、なんとか連絡事項の通達を終え、今日の時間割を上から説明していった。まだ五月ということもあって、一日のコマ数は五限までと少ない。一時間の授業を生徒たちは午前に二つ、午後に三つ受ける。
「えーっと、今日は魔法薬学の授業が自習に振替だそうです。担当のベルーガ先生のスクーターが故障したらしくって、到着が遅れるらしく……」
説明しつつ、その自由っぷりに目を疑う。
一度目の人生でもそうだったように、魔法薬学を担当するピクシー・ベルーガは変わらず自由人を貫いているようだ。色白の小柄な女性である彼女は自分で染めた緑の髪が特徴だった。
(変な感じ……夢を見てるみたいだわ)
二度目の人生であるものの、起こる出来事は微妙に違っている気がする。初日の挨拶や転校生ノエル・ブライスの存在からして疑惑は持っていたけど、五月の魔力測定でバロンがミナに抜かされたというのも初耳だ。二人は常に同じ数値を叩き出して歪みあっていたはずだから。
「先生も今日は授業するの??」
ミナの質問に我に帰る。
「あ、いいえ。私は今週は他の先生方の授業を見て学習する時間よ。臨時講師のリンレイ先生が今週いっぱいは担当される予定でしょう?」
「うえー残念!リンレイ先生って怖いもん」
「そんなこと言わないの。しっかり学んでね、私がする最初の授業では何処まで身に付いてるか小テストするから」
「ポンコツ先生~それは勘弁!」
「こらっ!ポンコツ言わない!」
すかさずヤジを飛ばしたのはクラスの中央に座るアストロ・ファッジ。ツンツンとワックスで立たせた赤毛に少しそばかすのある少年だ。「前世でもこの子の揚げ足取りには泣かされたな」とぼんやり思い出しながら、コレットはファイルに目を落とす。
アストロ・ファッジ、と書かれた名前の下には彼が公爵家の息子であること、父親は隣の都市サガンを本拠地とするサガンゴールドバンクという金の売買を専門とする会社の社長であることが記されている。今更ながらこのデータはいったい誰が収集したんだろう。やや個人情報が過ぎる気がするけれど。
「えーっとね、ファッジくん。自分が言われて嫌な言葉は人に言ってはいけないのよ、分かった?」
「オレは先生と違って一流だからポンコツなんて言われることないんですぅ~」
「…………」
想像以上の生意気っぷりに言葉を失っていると、クラスの後方から静かな声が聞こえた。
「随分と低俗なことを言うんだな」
ミナを始めとして多くの生徒たちが勢いよく振り返る。コレットもまた声のした方へ目を向けた。皆の視線を集めるのは、それまで窓の外を眺めていたノエルだった。
「親の威を借りて大きな顔をするのは良くない。まだ子供なんだから、一流も三流も無いだろう」
「はぁ……?なんだよお前、偉そうに」
「ファッジくん!」
ガタンッと立ち上がったアストロの腕を慌ててコレットは掴む。教室の中にはピリッとした緊張が漂っていた。これは非常に良くない事態だ。
「みんな、一旦先生の話を聞きましょう!もうすぐ一限目の授業が始まるし、準備が必要よね?」
「黙れよ!おい、ノエル……!」
その時、頭上でボーンと予鈴の音が鳴り響いた。
ハッとしたように我に帰った生徒たちがそれぞれの鞄を漁り始める。タイミングよく、一コマ目を担当する魔獣生態学のルピナス・アーベルが教室に入って来たことで、アストロも大人しく着席した。
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。