魔法学校のポンコツ先生は死に戻りの人生を謳歌したい

おのまとぺ

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第一章 魔法学校のポンコツ先生

14 魔力の暴走



 事件は、突然起こった。

 それは長かった一週間がやっと終わりを迎える金曜日の出来事で、コレットは副校長であるプッチにその週の気付きや経験を記した日誌を届けたところだった。

 既にほとんどの生徒が下校した後の校内では、人影もまばらで、残った生徒もだるそうにつるみながら校門の方へと向かっていた。


「先生!クライン先生……!」

 切羽詰まった声に振り返ると、一年一組のミナ・レイトンが赤い顔をしてそこに立っていた。かなりの距離を走って来たのか、肩を揺らしながらゼェゼェと苦しそうな呼吸を繰り返してる。

「レイトンさん、どうしたの?」

 いつも帰宅の早い彼女がまだ校内に残っていたことに驚きつつ、尋ねた。ミナはピアノや歌唱を始めとした多くの習い事を掛け持ちしているから、いつも誰よりも先に教室を飛び出て行くのだ。

 なにやら、非常事態であることを察知する。

「アストロと……ノエルが、喧嘩を始めちゃって。というか、最初はアストロが一方的に突っかかってて、ノエルは興味がない感じだったんだけど……それに怒ったアストロの魔力が暴走して、」

「魔力の暴走……!?」

「きっとわざとじゃないの!当たりどころが悪くて、攻撃が結界に……!」

「………っ」

 サッと血の気が引くのを感じる。

 プリンシパル王立魔法学校を外敵から守る頑丈な結界。ミナの話ではアストロの一撃は二層目である真骨層にめり込んだらしく、結界に手のひら大の穴が開いたらしい。そして、その穴はヒビを走らせながら広がって行こうとしていると。

「レイトンさん!この話をすぐに職員室の先生方に伝えてちょうだい!!」

 ミナはビクッと肩を震わせると慌てて駆け出す。
 コレットも聞き出した場所へと向かった。

 魔法学校を囲うドーム状の結界は三層から構成されている。一番外側が外殻層、続いて真ん中に挟まるのが真骨層、そして最も内側の壁となるのが内接層。当たり前だけど、結界は外からの攻撃を想定している。しかし、今回のようにアクシデントとして内から傷が付いたとしても、本来であれば真骨層に到達は出来ないはずだ。

(だけど……どうして?)

 嫌な予感がする。
 何か、邪悪なものが忍び寄るような。


 そして、こういう時の予感ほど当たるもので。

 コレットが現場に辿り着いた時、手のひら程度の大きさと聞いていた結界の穴は、すでに外殻層にまで達して、人間が通り抜け出来るぐらいまで広がっていた。バリバリと電気を発するその場所は、確かに結界が機能していないことを教えている。

 ミナは職員室に到着しただろうか?
 きっともうすぐ教師たちが駆け付けてるはず。

 一先ず応急処置でも良いから早く穴を塞がなければいけない。幸いまだ何かが侵入した形跡はないものの、放っておけば今この間にも何が潜り込むか分かったもんじゃない。

(えーっと、こういう時は………)

 右手を胸の高さまで掲げてみる。
 死に戻りした時に頭の中身がシャッフルされたのか、すぐに必要な魔法が思い出せない。ギュッと目を閉じて身体の中を流れる魔力に集中する。

「バリア……光の盾………正のイメージで、」

 ピリッと指先が痺れて手元に直径三十センチほどの円が広がる。熱を持ったその円を砲丸投げのようにぶん回して、上空へと投げた。

 頼りないけれど、なんとか穴は覆われたようで先ほどまでバチバチと聞こえていた電気の音は聞こえなくなる。応急処置ぐらいにはなっていると良いけれど。

 その時背後で、金切り声のような叫びを聞いた。
 慌てて声のした方へと駆けて行く。



「…………なに……これ?」

 使われなくなった倉庫の中に居たのは、成人男性ほどの背丈の巨大な黒いカラスだった。ただの規格外な生物ではなさそうで、その証拠に黒くつぶらなはずの瞳は何かに操られたようにボウッと赤く光っている。

 思わず後退すると、破壊された床の一部に片足が取られる。聞こえた物音に大きなカラスは太い首をこちらへ向けた。

 と、その拍子に、黒い身体の奥に小さな二人の少年の姿を見つける。ノエルとアストロだ。俯いたノエルの表情は見えないが、アストロは極限まで恐怖を感じているようだった。ブルブルと震える身体が彼の限界を伝えている。

「せ、先生……!たすけてっ!」

 張り詰めた声がコレットの耳に届く。
 泣き出しそうな顔を見て、一つ頷いた。

「大丈夫よ、ファッジくん。レイトンさんが他の先生たちに知らせに行ってくれたし、私が来たからにはもう……」

 最後まで言い終わらないうちにブンッと巨大なカラスは退屈そうに羽を広げて再び閉じた。思わず目を瞑ってしまうぐらいの熱風に身体が包まれる。

「………っ!」

「先生、そいつはタダのデカいカラスじゃない!何かの魔術で操られてる!!」

「遠隔魔法みたいなやつね。操縦されてるなら、何処かに魔力の結晶が埋め込まれてるはずだけど……」

 魔法使いも魔術師も、自分の魔力を固めた血の結晶を対象物に与えることで、遠隔地からその物体を操作することが出来る。魔法使いの場合は、主に治療の目的などで使われることが多い。

 だけど、どうやら今回は平和的な使用ではなさそうだ。

「先ずは核を探さないとね……」

 術者が埋め込んだ結晶さえ取り除けば、戦うことは避けられるはず。しかし、見渡す限りの黒い羽毛の何処にそれがあるというのか。

「クライン先生!」

 慎重に観察を続けていたら、カラスはもう一度大きく羽を広げる。来たるべき熱風に備えて腕ガードしていると、小さな破片が頬を掠めた。

「………っ、氷!?」

「先生、攻撃は熱だけじゃねーぞ!その冷たい風を間近で喰らったら身体が壊死するんだ!」

 そう言うアストロの左脚は確かに氷の膜に覆われていて、彼らが何故逃げ出せずにこの部屋の中に居るのかコレットは理解した。逃げようと思っても脚が使い物にならなかったのだ。

「任せて……やるだけやってみるわ!」

 光のイメージで魔力を右手に集める。
 そのまま巨大なカラスの腹に狙いを定めた。

「えいっ!」

 しかしながら。

 コレットの手のひらからはプシュッという小さな音が発せられただけで、相手が何かのダメージに傷付いた様子はない。ただでさえ青いアストロの顔が更に青くなるのが見えた。

「待って。もしかして……魔力切れ?」

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