魔法学校のポンコツ先生は死に戻りの人生を謳歌したい

おのまとぺ

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第一章 魔法学校のポンコツ先生

18 パスバード



「ごめん……本当にごめんなさい」

「気にしないで、コレット。僕が頼んだことだったし、同じ家から出発するんだからキッチンで待ち合わせにすれば良かった」

 僕もうっかりしてたから、と言いながら頭を掻くハインツに再び謝罪の言葉を述べる。「週末に買い物を」という話でアパートメントの住人であるハインツと約束していたのに、目覚めた時にはすでに待ち合わせの時間を大幅にオーバーしていた。慌てふためくコレットの元にマダム・ミロワがハインツからの伝言が書かれたメモを持って来て、なんとか集合出来たわけで。

 コレットは渡されたメモを取り出しながら、ハインツに向き直って質問した。

「そういえば、このメモってどうやって送って来たの?マダムは鳩が来たって言ってたけど……」

「ああ。パスバードを使ったんだ。僕は魔法は使えないけど、魔力の恩恵を受けられるのは良いね」

「パスバード?」

 初めて聞く言葉に首を傾げると、ハインツは「何を今更」といった顔で笑った。

「応用魔法学が進んだおかげで最近使われ出したサービスだよ。君だって二週間前に遠方に手紙を送るために利用登録してたじゃないか」

「………そうだったっけ」

 返事をしながら、胸の中がモゾモゾする。

 コレットの認識では、自分が死んだとされる十月一日から少なくとも半年ほどの時間が巻き戻っている。しかしながら、魔力がゼロになっているだけでなく、周りで起こる出来事や文明の進み具合が少しずつ違っているのだ。

 アパートメントの住人であったり、学校で出会う教師陣たちに変わりはない。だけども、知っているはずの彼らのことを、コレットは本当に理解しているのだろうか。まるで間違い探しのような記憶とのズレは脳を疲弊させた。

 そもそも時戻りについても色々と謎が多い。
 なぜあのタイミングで、今に戻ったのか。

 自分が死んだ日のことを考えようとすると、まるで邪魔するように頭が痛む。死の間際にどんな会話がなされて、何を感じたかは、日が経つにつれて着実に記憶から消えている。焦りにも似た気持ちはあるけれど、コレットに忘却を止めるすべはない。


「探してた本は見つかったんだ。君が言ってた服でも見に行く?」

「うん。暖かくなってきたから、少し軽めの服を探しているの。先生の服って結構自由が効かないのよねぇ」

「まぁ、生徒の見本だからね」

「そうだけど、この前なんて白いスカートを履いてたら下着が透けるって言われたわ。透けるほど薄い布地をわざわざ選ばないって話よ」

 二日ほど前に副校長兼風紀チェック担当のマルティーナ・プッチに言われた言葉を思い出す。彼女の細やかな指導の有り難みについては、レイチェルも理解を示してくれた。端的に言うと、口うるさい。

 口先を尖らせて愚痴を語りながら曲がり角を曲がったら、見覚えのある三人組に出会でくわした。

 分厚い本を二、三冊小脇に抱えるのはバロン、年齢より大人びた小洒落たワンピースを着こなしているのはミナ、そして二人に挟まれるようにして歩いているのはなんとノエルだった。

 コレットが言葉を発する前にミナがパッと顔を輝かせて走り寄る。


「先生……!」

 勢いに押されるままにコレットは静止して、後ろに立つハインツの方を振り返った。「生徒たちなの」となんとか説明する。それを見てミナがまた嬉しそうな声を出した。

「コレット先生、恋人ですか?」

「っな、恋……!?」

「だって貴重な週末に並んで歩いているんですよ。すみません、先生っててっきり仕事でいっぱいいっぱいの人かと思ってたんですけど、ちゃんとプライベートも充実してるんですね!」

「違うわ、誤解です!」

「大丈夫ですよ。他の先生には内緒ですよね!」

 反論の余地もなく繰り広げられる怒涛のトークにアワアワと口を動かしていたら、気を利かせたハインツは「近くの店を見てる」と言ってその場を離れた。

 手に持った書籍を開いて時間を潰し始めるバロンを他所にミナはまだまだ話したいような雰囲気を見せる。困ったコレットは、何も喋らずこちらを見るノエルを見て、この異色の組み合わせの真相を聞いてみることにした。


「あの、今日はどうして三人で?」

 ミナは「それはですねー」と二人の方を一瞥する。

「最初のうちは昨日あったことについてノエルに詳しい話をしてもらおうと思ったんです。だけどほら、男女が二人で出掛けると相手に変な気を持たせたら悪いでしょう? それで、バロンにも声を掛けてみたんです」

「………なるほど」

 ノエルは否定も肯定もせずに小さく息を吐く。どうやら既にミナによる取り調べは終わったらしく、若干の疲れのようなものが見て取れた。

「先生、腕痛そう。大丈夫?」

「え? あ、そうね……」

 ミナはコレットの右腕に巻かれた包帯を指差す。そういえば昨日はあんなに痛かったのに、一晩経てば驚くほど痛みは引いていた。ぐっすり眠ったお陰で回復力が高まったのだろうか。

 昨日のこと、主に自分が気絶した後の対応についてはコレットも聞きたいことがあるけれど、ハインツを待たせた状態で始めるわけにもいかない。「続きは月曜にね」と伝えて、話し足りなさそうなミナに手を振った。


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