魔法学校のポンコツ先生は死に戻りの人生を謳歌したい

おのまとぺ

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第一章 魔法学校のポンコツ先生

21 三者面談


 帰宅しようとするノエルを捕まえることにも成功して、ようやく迎えた放課後、コレットは向かい合って座る二人の男子生徒の前に立っていた。


「あのー……そうね、つまり私がお願いしたいのは金曜日にあったことの説明。あとは私が気絶してからのおおまかな流れを教えてほしいの」

「そんなのもう他の先生に話したよ!何回も同じ話をさせるな。今日は帰って父さんと魔獣ショーを見に行くって決めてるんだから」

 ガタンッと椅子を立ってその場を去ろうとするアストロ・ファッジの腕を取る。

「ファッジくん」

「………なんだよ?」

「反省文って書いたことある?貴方が結界に穴を開けたことで当事者である貴方と、監督責任として担任である私に反省文の提出が求められてるんだけど。ご両親にも連絡しておこうか?」

「…………だる」

「書き方教えてあげるから一緒に仕上げましょう!そのためにも、はい座って」

 渋々アストロは再び着席する。

 土日を挟んで少しは自分の行為を反省して登校して来るかと思えば、やんちゃ坊主である彼にそんな気配は微塵もない。巨大なカラスに怯えていた時は年相応に見えたのに。


「どうして僕まで一緒に?」

 不貞腐れたアストロの前で不満そうなノエルもこちらを見上げる。

「そりゃあ、貴方たち二人のことなんだから。大体の話は今朝先生たちに聞いたけど、私はファッジくんとノエルくんの口から聞きたいの」

「なんでノエルだけ名前呼びなんだよ、贔屓か」

「じゃあ貴方のことも名前で呼ぶわ。アストロくん、それで良いわね?」

 プイッと顔を背けるも抵抗しないので良いのだろう。でも確かにノエルだけ名前で呼ぶのも変だし、クラスのみんなに慣れるためにも、少しずつ他のメンバーも名前で読んでみると良いかもしれない。堅物そうなバロンがどんな反応を見せるのか楽しみだ。

 勝手に想像して頬を緩めていると、アストロが怪訝そうな顔をしていることに気付いたので、本題に戻ることにした。


「先ず、貴方たち二人が争ってたことはミナ・レイトンさんから聞いてるわ。どうしてそんなことになっちゃったの?」

「コイツが!ノエルが、オレの話を無視して歩き続けるから……!」

「なるほどねぇ。アストロくんはノエルくんと話したかったのね。それで無視されたから寂しくて怒ったと」

「おい、気持ち悪いまとめ方するな!」

「だってそうでしょう?」

 コレットがきょとんと聞き返すと、アストロはぐぬっと唇を噛み締める。こういう反応を見せるのも、まだまだ彼が子供である証拠。

 問題は先ほどから表情ひとつ変えないノエルの方で、彼がいったい何を考えているのか残念ながら何も分からない。こういう生徒はたまに居ると聞くけど、扱いやすいとは言い難い。

「ノエルくんは、なんでアストロくんの話を聞かなかったの?」

「時間の無駄ですから」

「ほう?」

「僕のことを理解しようとしない相手に、時間を割いてまで向き合う必要はない。第一、話したいなら相応の礼儀を持つべきです」

 彼にはそれがない、と言い切るノエルを前にアストロはまたブルブルと震え始める。怒りの炎が燃え上がる気配を感じて、コレットは慌てて口を開いた。

「分かった!分かったわ、とりあえず先ずはこの場で握手しましょうよ!」

「はぁ……!?」

「だって貴方たちって同じクラスの生徒なのよ?これから三年間顔を合わせ続けるのに、歪み合ってたら気不味くない?それこそストレスだわ」

 はいどうぞ、と二本の腕を左右から引っ張って近付けると二人の生徒は顔を背けたままでその手を重ねた。時間にしては数秒と短いけれど、まぁ良しとしよう。

 続けてコレットが倒れた後のことを聞いたところ、アストロは自分も意識がなかったと言い、頼みの綱であるノエルは「先生たちが来て助けてくれた」と述べた。

(おかしいわねぇ………)

 職員室で交わされていたアーベルやベルーガの話から整理すると、どうやらカラスの核はすでに削がれた後だったようなのだ。死に掛けのコレットがそれをやったとは思えない。露出していたから、何かのタイミングで落ちたのだろうか?

 うーん、と唸っていたらアストロは痺れを切らしたように「話が終わったなら帰る!」と言って鞄を持って立ち上がった。去って行く背中に慌てて反省文の紙を押し付けると、あからさまに嫌そうな顔を見せつつ受け取ってくれた。


「はぁーもう今日は良いわ。とりあえず、誰の犯行なのかは時間が掛かるけど解析で分かるかもしれないし、大事にはなってないから安心ね」

 思いっきり伸びをすると関節がポキッと鳴る。
 レイチェルでも誘って温泉に行きたい気分だけど、まだこの距離感で行くには早いだろう。もう少しお互いのことを知って仲良くなれたら誘おう。

「ノエルくんも帰って良いからね。今日は残ってくれてありがとう」

「先生、どうして僕らを頼らなかったんですか?」

「へ?」

 返ってきた質問の意図が読めずに変な声を上げる。

 ノエルは鞄を持ったままでこちらを見ていた。コレットより少しだけ高い場所でグレーの瞳が揺れている。彼は、カラスと対峙した時のことを言っているのだとようやく理解した。

「ああ!だってアストロくんは魔力が暴走したばかりだったのよ?それにノエルくんだってまだ一年生だし、貴方たちを巻き込むだなんて──」

「そのせいで先生の魔力がゼロだってバレました。アストロはあの通り反省してるかも微妙です。魔力が無いことを知って、これからも舐めた態度を取り続けるかもしれない」

「だとしたら、また諭せば良いだけよ」

「…………、」

「私は自分の虚栄のために大切な生徒を危険な目に遭わせたくなかった。ただそれだけ。魔力ゼロだってバレたぐらいで痛くも痒くもないわ」

 もう帰りましょう!と教室を出て行くように声を掛ける。ノエルはまだその場に立って、考え込むように顎に手を当てていた。

 小さな身体の後ろで、夜が近付く空を見る。

 アストロは反省文を提出してくれるだろうか。ノエルはああ言うけれど、コレットはまだ信じたいと思っていた。今すぐには無理だとしても、いつかは生徒たちが自分を師として慕ってくれると。


「コレット先生は甘いです」

 降ってきた鋭い声に顔を上げる。

「甘い……?」

「今日の魔法史、良い授業とは思いませんでした。真実を隠すことが教育ではないと僕は思います」

「ノエルくん、」

「マーリンの書いた二冊目の本は、魔術の始まりとその使い方を詳細に記した黒の魔導書グリモワール。魔術の使用を煽動するという理由から禁書となった、違いますか?」

「どうして、それを……」

 驚いて目を見開くコレットの前でノエルは遠い場所を見るように目を細めた。子供の顔をした彼が作る大人みたいな表情は、奇妙な違和感を抱かせる。

 しかし、コレットが言葉を探している間に、ノエルはわきをすり抜けて教室を出て行ってしまった。


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