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第一章 魔法学校のポンコツ先生
25 ジョセフとオリーブ
珍しくメゾン・ド・ミロワの住人が揃った金曜日の夜のこと。
一週間の仕事を終えてへとへとで帰宅したコレットは、マダムから闇鍋パーティーに誘われた。闇鍋とは文字通り、各自好きな具材を持ち寄って暗闇の中で煮込むという料理で、年に一度ほどのタイミングでマダムによって提案される。
「ジョセフやオリーブも居るのよ。コレットも降りて来たらどう?」
階下にあるキッチンの方を指さしてそう言う。
マダムの今日のネイルはバチバチのピンク。
「うぅ……行きたいけど、眠くって」
嘘ではない。時刻は夜の八時を回ったばかりだが、慣れない仕事をこなしたコレットはかなり気疲れしていた。しかしながら、お腹が減っているのも事実。グゥグゥ鳴る腹を放置したまま眠れるかと聞かれれば、答えに困る。
どうしたものかと悩むコレットの背中を叩いたのは、マダムが発した一言だった。
「今日はお肉、ちょっと奮発したの。牛肉よ」
「えっ……!?」
「コレットの就職祝い、出来てなかったでしょう?小さいケーキも買ったから食べない?」
「………っ、食べます!ありがとうマダム!!」
豊満な身体にむぎゅっと抱き付いて感謝を伝えると、マダム・ミロワは慣れた手付きで背中を叩きながら「良いのよ~」と笑った。
着替えだけ済ませると伝えて、仕事用のシャツやスカートを脱ぎ捨てて楽なワンピースを掴む。お肉のことを考えると自然と笑みが広がった。
◇◇◇
「ジョセフさん!オリーブ!久しぶり~」
すでにテーブルの上の鍋を囲んで各々の皿を手に持っている四人がこちらを見る。コレットは上機嫌で持参したワインを手にリビングの扉を潜った。隣に座るハインツが差し出す取り皿を受け取る。
いつもデパートの清掃をしている一階の住人ジョセフは、勤務時間がシフトで決まっていて不定休であるため、滅多に顔を合わせることはない。オリーブもまた化粧品の販売員として働いているが、かなり多忙な印象。
「おおっ、コレット!ちと痩せたかい?」
「ジョセフさんお上手!でも残念ながら変化なしです~!今日は珍しいですね?」
「デパートでストライキが始まってのォ。アイツら騒ぎ立てれば給料が上がると思っとる」
「あらまぁ。明日には落ち着いていると良いですね」
コレットとジョセフの遣り取りを聞いていたオリーブが納得したように手を叩く。小さな手のひらにはマダム同様にコバルトブルーの爽やかなネイルが施されていた。
「だからかな?今日はうちの路面店の売り上げがいつもより良かったの。あまり見掛けないお客さんも来たりして、なんだか忙しかったわ」
「へぇ~大変だったのね」
「他人事なんだから!コレットもうちの店に遊びに来てよータッチアップだけでも良いからー!」
「うぅっ、オリーブのお店って行くだけで緊張するのよ。格式高いっていうか、私みたいな庶民は店に入るだけでも緊張する」
コレットが本音を吐露すると、オリーブはケロッとした顔で「まぁ、ブランドのコンセプトがあるから仕方ないのよ」と言って退けた。
オリーブが働く化粧品店は、王都内外にいくつか支店を持つ有名ブランドで、コレットのような一般人向けというよりも流行り物に敏感な貴族令嬢たちから高く評価されている。オリーブがアパートメントに引っ越して来た際に一度だけマダムと遊びに行ったことがあるが、そのあまりの別世界っぷりに冷や汗を流しながら退店した。
「そういえば、今日も桁違いの金持ちが来たわ」
「へぇ~どんなの?」
マダムが鍋からプリンのような塊を引っ張り出しながら尋ねる。それを見てコレットは伸ばしかけた手を一度引っ込めた。
「香水臭い如何にもな成金貴族!あんな大量に指輪付けたら手だけ切り落とされて盗まれそう」
「オリーブったら怖いこと言うね」
ハインツが珍しく引いた様子で笑う。
今日の彼は休みだったのか頭に寝癖が付いていた。
「だって本当よ?やたらめったら買い込んでたけど、あんなに買って使い切れるのかしら?たぶん彼女もデパートの常連なんだと思う」
「へーどこかの公爵夫人なんでしょうね」
「んん? 何だったかしら、公爵じゃなくて伯爵だった気がするんだけど」
首を捻って記憶を辿る素振りを見せるオリーブに一同が視線を送っていたら、いきなりハインツが咽せ出した。コレットは慌てて水を進める。
真っ赤になった顔で部屋を飛び出した彼は、しばらくした後、青白い顔で戻って来た。先ほどまでの生気が抜け落ちている。
「マダム……鍋にニンニクを入れた?」
ボソボソと小さな声で尋ねる。
「あらー当たり前よ、闇鍋なんだからニンニクを入れなきゃ始まらないでしょう?」
「僕はニンニクが嫌いだって再三言っただろう。匂いだけで吐きそうだ、今日はもう部屋に戻る!」
「あんたったら虚弱だねぇ」
勢いよく閉められた食堂の扉に、マダム・ミロワの呑気な声が当たって反響する。先ほどのプリンを見たあたりからコレットも鍋の中身に一抹の不安を覚えており、美味しそうに頬張るジョセフには悪いがスプーンを置くことにした。
久しぶりに会うオリーブやジョセフを中心に、アパートメントの住人たちは大いに盛り上がり、コレットは翌朝自分が持参したワインの瓶を抱いた状態でリビングのソファで目覚めることになった。
◇おしらせ
ご愛読ありがとうございます。
次話から第二章です。
HOTランキングですぐ爆死した関係でなかなかに苦しい思いですが、書き始めた以上は更新を続けます(ストックがいっぱいなのです)。
しかし、このままではいかんぞ、ということで短編を掲載予定です。誰かがファンタジーにも興味を持ってくれることを願って……
また書き終わりましたら宣伝させてください。
引き続きよろしくお願いします!
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