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第二章 夏の宴と死者の森
26 エドムとジェイク
コレットは頭を抱えていた。
プリンシパル王立魔法学校での教師生活も三週目を迎えて、ようやくクラスの生徒の顔と名前も一致するようになった。一度目の人生での経験などは日が経つにつれて薄れてきてはいるものの、まだなんとなく生徒たちの特徴は覚えている。
そして、覚えているからこそ困っている。
この二人の男子生徒の扱いに。
「コレット先生、恋人は居るの?」
「僕ら二人だとどっちが好み?」
同じ顔をした赤毛の二人がきゃるんと可愛い顔をこちらに向ける。分け目が左にある方が兄のエドム、右にある方が弟のジェイク。彼らは一卵性双生児の双子だ。
デ・ロサ伯爵家の美しい双子については死ぬ前の自分もとても手を焼いた記憶がある。舞台女優である母と演出家を務める父から生まれた彼らは、生まれながらの役者で、よく互いに入れ替わってはコレットを揶揄った。
「恋人は居ませんし、未成年に興味はありません。はいはい帰った帰った!」
分厚いファイルで追い払っても、天使のような見た目の双子は悪魔の如きしつこさでその場に居座る。もう授業も終わったし、他の生徒たちは帰宅したのだから二人にも早く帰ってほしい。
「ミナが女子と話してたけど、先生ったら街で黒髪の男とデートしてたんでしょう?」
「良いなぁ、僕らとも今度デートしようよ」
「念のために言っておくけど先生は今年で二十五歳なの。貴方たちより十歳も上だから、真面目に返すと犯罪だわ」
「大丈夫だよ。僕もエドムも気にしないから」
「私が気にするっての」
思わずツッコミを入れたところでガララッと教室の扉が開いた。コレットは丸付けをしていた答案用紙から顔を上げてそちらを見遣る。どういうわけか、そこには帰ったはずのノエルが立っていた。
「あら、ノエルくん。忘れ物?」
「はい。課題の紙を挟んだノートを忘れてしまったので」
そう言ってスタスタと自分の席まで歩み寄ると目当てのノートを探り当てたノエルは灰色がかった瞳で不思議そうにこちらを見た。
「先生たちは何をしてるんですか?」
「私は丸付けを──」
「僕らはね、コレット先生のこと口説いてるんだよ。だからノエルには早めに出て行ってほしいなと思ってる」
コレットの話を遮って「ねー?」と顔を見合わせるエドムとジェイクを睨むも、双子は揶揄うように笑うだけで帰ってくれそうにない。
困り果てたコレットがどうしたものかと頭を抱える向こうで、ノエルの声が再び空気を揺らした。
「驚いたな。君たちが熱心に魔法史の授業を聞いてる様子は見てたけど、まさか本当に自分の担任に熱を上げてるのか?」
「………はぁ?」
嘲笑の混じった声音にエドムが不快な顔をする。
ジェイクも片方の眉を上げてノエルを睨んでいた。
「デ・ロサ伯爵家の令息が二人揃って年増好きだなんてちょっと面白いが、あまり校内でアピールするべきじゃないだろう。悪い噂が立つ」
マザコンじゃないかってね、とノエルが言い添えると噛み付くようにジェイクが身を乗り出した。
「なんだ、お前!澄ました顔して舐めたこと言ってんじゃないぞ」
「僕は正しい忠告をしただけだよ。どのみち先生にとって君たちは手の焼ける赤子程度にしか思われてない。本気なら、卒業してからアプローチした方が良いと思う」
「………阿呆らしい。新人の教師だから遊んでやろうと思っただけだよ。面白くないヤツ。もう良い、冷めた。帰ろう、ジェイク」
エドムは頭の後ろで手を組んでひょいっと机から離れる。その後ろを慌てて追い掛けながらエドムもまた不機嫌そうな顔をしてノエルを見遣った。
嵐の去った教室の中、コレットはハッと我に返ってノエルに顔を向ける。
「ノエルくん!貴方また敵を作るようなこと……!」
不安を滲ませるコレットとは裏腹にノエルは気にする様子もなく「何のことですか?」と首を傾げた。
「いやいや、あんな言い方したら彼らの反感を買うわよ。もう前みたいに誰かと揉めるのは止めてちょうだい」
「べつに揉めようとは思っていません。目に余る悪質な演技だったので、注意しただけです」
「演技?」
「あの二人はああやって耐性のない他の女子生徒にもちょっかいを出してるんです。まさか本気にしました?」
「そっ、そんなわけないでしょう!」
コレットは思わず大声で否定する。
双子にも伝えた通り、そもそも自分のクラスの子供たちはあくまでも生徒であってそれ以上でも以下でもない。加えて親戚の姪っ子甥っ子ほどの歳の差がある彼らに特別な感情など抱きようもない。
「私からしたら貴方たちはまだまだお子ちゃまよ。いろんなことを吸収してスクスク育って、早く私を追い抜いて行ってほしいわ」
「………やっぱり、甘いですね」
「はい?」
聞き返すコレットに「何でもないです」と明らかな作り笑いを見せると、ノエルは身を翻して颯爽と教室を出て行った。
授業がイマイチだと難癖を付けたり、ともすれば今日のように助け舟を出したり。なんとも分かりにくい相手だ。前世の知識を持ってしても、上手く攻略出来そうにないノエルに、コレットは深い溜め息を吐いた。
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