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第二章 夏の宴と死者の森
27 成長過程
「先生~!今日の髪留め可愛いですね!」
「わぁ、ブラウスもお洒落!この小さいお花がいっぱい描かれた感じ、うちのおばぁちゃんがよく着てるやつと似てます!」
「………分かってると思うけど、試験問題は教えませんからね。あと、最後の言葉は本当に褒めてるのかしら?」
「褒めてますよ~~」
ミナに並んで立つヴァレリー・モーマットは胸の前で手を組んでコレットを見上げる。背の高い彼女は、腰まで伸ばした金髪に大きな蜂蜜色の目をしている一年一組の生徒だ。
三年間で掛かる学費の高さから、プリンシパル王立魔法学校には比較的お金を持った貴族出身の生徒が多いが、ヴァレリーはその中でも珍しく、奨学金で入学した平民出身の学生。入学時の試験ではバロンと並ぶ成績だったと聞いている。
魔法学校はテスト週間に突入した。
生徒によっても教師陣にとっても辛い一週間になることは間違いなしだが、これを乗り越えれば長い夏休みが待っている。
もちろん、コレットにはサマーキャンプの予定がすでに入っているのだけど。
(相談が一切ないのが怖いのよね……)
共にキャンプの担当となっているルミナス・アーベルからは何の連絡もない。「先輩である僕にお任せあれ!」と眩しい笑顔で言われたから、お言葉に甘えてテスト作りに精を出していたのだが、今になってどんな計画が進行しているのか恐ろしい。一度、確認してみるべきかもしれない。
「ヴァレリーさんはサマーキャンプに行かないの?」
「あぁ、もう!ヴァレリーで良いってば。クラスで女子は三人しか居ないし、先生だって仲良くなりたいならいつまでも敬称付けなくて良いよ」
「ありがとう。だけど、先生のことは先生って呼んでね。この前なんて授業中にアストロくんが私のこと呼び捨てにして、偶然通り掛かったプッチ副校長に後で呼び出されたんだから」
「アイツはお調子者だからねー」
ケラケラとヴァレリーはミナと顔を見合わせて笑う。コレットは姿の見えないアニアのことが気になった。数少ない女子生徒である三人は行動を共にすることが多い。
「アニアは?まだ着替え中?」
次は飛行術の授業ということで、生徒たちは動きやすい体操着に着替えて校庭に集まることになっている。
コレットは腕時計を確認した。
あと五分ほどで本鈴が鳴るはず。
「アニアはきっとまたノエルのことを追い掛けているのよ。何処が良いのかしらね?私はちょっと無愛想過ぎると思うけど」
「そういえば先生、サマーキャンプにアニアも参加するんでしょう?」
「ええ。そう聞いてるわ」
幼い生徒たちの甘酸っぱい話に驚きながら返事を返す。おっとりしたアニアがノエルに好意を抱いているとは意外だ。自分が彼らほどの年齢のときはどうだったっけ、とぼんやり過去に想いを馳せた。
(学校の課題でヒィヒィ言ってた……)
コレットの生まれ故郷はサガンの北部に隣接するマゼンタスという都市。もっと言うと、その都市の中でも郊外にあるアルベスティと呼ばれる田舎町で、牛や羊が伸びやかに暮らす場所では魔法使いはあまり馴染みのある存在ではなく、コレット自身も一般的な学校に取ってつけたように設けられた魔法科の稀少な卒業生だった。
魔力を生まれ持っても、正しい使い方を知らないと意味はない。セレスティア国民の中には、自分の魔力に気付かないまま生涯を終える者も多いと聞く。
錬金術の延長線上で科学や物理が台頭してきた現代では、すべての人にとって分かりやすいという理由からそれらを支持する人が急増している。彼らにとって魔法は、愚か者の遊びとしか見做されない。
「コレット先生、今週の魔力供給は受けたの?」
「あっ!まだだったわ!」
「しっかりしてね。次は私も一緒に戦うから」
強気な笑顔を見せるミナにコレットを肩を竦める。
アストロとノエルの件があって以降、コレットは一年一組の生徒たちに自分の魔力がゼロであることを明かした。初めは驚いた反応を見せたものの、前列に座るバロンが「先生もまだ成長過程ってことですね」と得意げに言ったことで、その場は丸くおさまった。
成長過程、そう思えば悪くない。
まだコレットにも伸び代はあるのだろうか?
「思い出させてくれてありがとう。アニアにもよろしく伝えてね、また帰りの会で!」
ヴァレリーとミナに手を振って、コレットは保健室に向けて歩き出した。
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