魔法学校のポンコツ先生は死に戻りの人生を謳歌したい

おのまとぺ

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第二章 夏の宴と死者の森

30 旅のしおり



「クライン先生、我々は重要な任務に挑むことにしました……!」

「………はぁ」

 ただでさえ夏に近付いて日差しの強い日が続くというのに、この真っ昼間から屋上に呼び出して何を言い出すのかと思えば。

 腰に手を当てたアーベルは何処から用意したのか彼一人分のパラソルの下で、分厚い胸板をムンッと張ってコレットの前に立っていた。

「サマーキャンプの行き先は北部のマゼンタスに位置する赤の森に決定です!」

「マゼンタス……ですか?」

「はい。異論は認めません!もう参加者分の宿の調達は済ませましたから。ボクの計画は完璧、今年の夏は極地でクールダウンと行きましょう!」

「雪山はやめてほしいとお伝えしたはずですっ!私は北部の出身ですが、夏と言っても山頂にはまだ雪が残っています。大勢で登ると遭難する危険もありますし、」

「クライン先生、落ち着いて。目的地は山ではない、森だ。近年赤の森では多くの行方不明者が出ているそうでね。ここは一つ、サマーキャンプと銘打って行方不明者の捜索を行うボランティアチームを作ろうじゃありませんか!」

「でも……!」

 口を開き掛けたコレットに、バサッと極厚のプリントの束が渡される。ホッチキス止めしてあるその冊子の表紙には「旅のしおり」と不器用な文字で書かれており、どうやらアーベルの決意は相当堅いようだった。

 極地、マゼンタス。

 セレスティア王国は、王都アグリムを囲うようにドーナツ型に都市サガンが位置し、サガンに外接する領地は東西南北でヘール、キュアノス、メラニス、マゼンタスの四都市に分割される。これらの都市はそれぞれ王国の最果てにあることから別名「極地」と呼ばれていた。

 マゼンタスはコレットの出身でもある。
 教師を目指して王都に出てくるまでの二十二年間をその北の大地で過ごしたからこそ分かること、今回のキャンプはかなり危険だ。


「………行き先の変更を希望します」

「ダメったらダメ!もう全員乗れるバスのチャーターも済ませたし、今から新しい受け入れ先を探すなんてナンセンス。それともキャンセル代を君が払ってくれるんですか?」

「……っ、しかし、よりによって赤い森だなんて!アーベル先生はご存知ないかもしれませんが、赤い森は特殊なガスに包まれているので魔力が上手く働きません。生徒たちに何かあったら、」

「だから、良い」

「は……?」

 アーベルはよく磨かれた革靴でカツカツとコンクリートの床を蹴る。太い眉毛を愉快そうに上げてコレットの顔を覗き込んだ。


「負荷の掛かった状態で如何に己の力を活かすか。ボクはそれが見たいんです。極限状態に置かれると人間は成長する傾向にある」

「まだ一年生だって居るんですよ!?」

「心配は要らない。校外活動を終えた三年生も戻って来ているでしょう?一年から三年までの参加者を織り交ぜたチームを組むつもりだ。それに、今年は助っ人を呼んでいます」

「助っ人……?」

 聞き返すコレットの顔の前にデンッと手のひらを立てて発言を塞ぐようにすると、アーベルは眉間に皺を寄せて首を振った。

「誰かは来てのお楽しみです。マゼンタスは偉大なる大魔法使いマーリン・マーリンの生まれの地でもありますから、博物館なんかにも行きたいところですな!時間が許せばですが!」

 大きな声で笑うと、アーベルはコレットに参加者分の旅のしおりの印刷を命じてその場を去った。

 行き先が雪山で無いのであれば、一度目の人生のように吹雪の中で遭難する心配はないかもしれない。自分が心配し過ぎなのだろうか?

 記憶の中に眠るマゼンタスの景色を思い出す。
 何処までも広がる北の地特有の白っぽい空、鼻の奥をツンとさせる冷えた空気。赤い森に足を踏み入れたことは数えるほどしかないが、マゼンタスに住む国民すらあまり近付きたがらない場所だ。

(………何もないと良いけれど)

 参加を予定している一年一組のメンバーの顔が頭に過ぎる。バロンにミナ、アストロ、ノエル、そしてアニア。

 何があっても守らなければいけない。
 可愛い生徒たちは、絶対に。



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