魔法学校のポンコツ先生は死に戻りの人生を謳歌したい

おのまとぺ

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第二章 夏の宴と死者の森

31 未来を映す鏡



 一学年につき三クラス、それぞれのクラスの生徒の人数は少ないものの三年生が戻って来たことで、プリンシパル王立魔法学校は俄かに活気付いていた。校内でも上級生に憧れの目を向ける下級生の姿がチラホラ見られ、微笑ましい。


「なぁ、知ってたかミナ。三年生のルマンド先輩は今回の課外活動でかなり魔法の腕を上げたらしい」

 嬉々とした顔で耳打ちするアストロを一瞥して、ミナはただ黙々と机の上の鏡を磨き続ける。

 テスト期間に突入している魔法学校だが、すでに試験を終えた科目は通常授業に戻っており、魔法道具学もその一つだった。三年生の担任を受け持っているマクシミリアン・クロイツが今日生徒たちに課したのは、未来が視えるという魔法鏡の力を発揮させること。そのため、チームを組んだ上で、錆びた大きな鏡をみんなで磨いているわけだが。

「あぁーもう、心が折れそう!アストロも口ばっかり動かさないで手を動かしなさいよっ!」

 耐え切れないようにミナが叫ぶ。
 その隣のテーブルではバロンが白い布を片手に黙々と鏡を磨き続けている。ミナのものとは異なって、こちらはかなりの面積の鏡面がすでに露出していた。

 八人の生徒たちは二つのチームに分かれており、ミナの元にはアストロと双子が、バロンの元にはノエルとアニア、ヴァレリーが集まっていた。

「このままだとバロンに負けちまうな。貸せよ、オレがやればスピードアップ間違いなしだ」

「それならもっと早くに手を貸して!」

 ギャーギャーと言い合う二人のそばで、エドムとジェイクのデ・ロサ兄弟は我関せずと言った顔をして関係のない話を続けている。それもまたミナの苛立ちを誘っているのは明白だった。

 たまたま授業が無かったのでコレットも見学者として参加させてもらったわけだが、快く受け入れてくれたクロイツには感謝だ。


「ン~~素晴らしいわ!第二班はリーダーであるホーキンスくんの頑張りでもうほとんど魔法鏡が使える状態まで持っていけたわねぇ!」

 フリルの付いたブラウスに高いヒールの靴を履いたクロイツは、男性特有の野太い声でそう言うと二班の鏡の方へと顔を寄せた。

「ンフッ!何が聞きたい?魔法鏡は貴方たちが知りたいことを何でも教えてくれるのよン~」

「じゃあ、僕は……自分の未来が視たいです」

 バロンは顎に手を当ててそう言った。
 すぐにクロイツがパチンと指を鳴らす。

「素晴らしいワッ!ちょっとユーモアには欠けるけど眼鏡秀才キャラの貴方の回答としては期待通りで満点ッ!」

 クロイツはくねくねと身体を曲げて両手で鏡を包み込む。コレットはその中に映る青髭の生えた顔がぐにゃりと歪むのを見た。平らだった鏡面に波が立って、渦を巻き始める。

「アァ~ン、鏡よ鏡、鏡ちゃん!可愛い生徒たちの大人になった姿を見せてちょうだ~い!」

 その言葉に応えるように鏡がピカッと光った。
 強い光が教室の中を包む。

 コレットは眩しさに目を細めた。


「…………すごい……」

 沈黙を破ったのはクロイツの後ろから鏡を覗き込んでいたバロンで、彼はどうやら鏡に映った未来の自分が視えているようだった。

 コレットも横から首を伸ばすも、特に変わった風には見えない。首を傾げているとクロイツが「正面に立たないと視えないのよ」と教えてくれた。言葉通りにバロンの隣に立つ。

「………、これが私?」

 そこには今より皺の増えたコレットが立っていた。並んで映る青年は大人になったバロンだろうか。眼鏡に利発そうな顔立ちは同じだが、驚くほど背が伸びている。

「先生……老けましたね」

「ええ。予想外の変化に驚いてるわ…」

 なんとかそう答えると、隣のテーブルからワッとミナやアストロが押し寄せる。自分の鏡を磨くことを放棄した彼らは、我先にと未来の姿を求めて鏡の前に立った。

 子供らしい反応に目を細めていたところ、全く動じずに相変わらずボケッと窓の外を眺めるノエルの姿が目に入る。

「ノエルくんは気にならないの?」

 質問すると、澄んだグレーの双眼がコレットを射抜いた。

「べつに興味がないです」

「興味ないって貴方、もっとこう……将来へのワクワクとか……」

「先生は年を取った自分の顔を見て嬉しくなりましたか?」

「うっ」

「同じですよ。僕だってどうでも良い。今無理に確認しなくても、生き続ければいずれ目にすることになりますから」

 わざわざ鏡に聞くほどでもない、とピシャリと言われてしまえば、それ以上勧める気も失せる。

「それに、」

「………?」

「魔法鏡が映し出す未来は確約されたものではありません。視えたところで、価値などない」

 ノエルはそう言ってまた窓の外へ視線を投げる。大人げなく覗き込んだ挙句、すっかり皺の増えた自分を見てショックを受けたコレットは残りの時間をしんみりとした気持ちで過ごした。

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