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第二章 夏の宴と死者の森
35 お見舞い
いよいよ夏休みも目前に迫った七月の中旬。
生徒たちは各々の試験結果を受け取って、ある者は喜びに歓喜し、またある者は確定した追試に涙を流すなどした。幸い、一年一組からは追試の者は出ず、みんな揃って無事に夏休みに入ることになった。
いくぶんか緊張の解けた生徒たちの顔を眺めていたコレットは首を傾げる。朝の会が始まる前、ワイワイと騒ぐ子供たちの人数が一人足りない。
「あれ?ノエルくんは……?」
すぐにアニアが手を挙げた。
「はい、先生!ノエルくんはたぶんお休みです。今朝登校するときにノエルくんの保護者の人を見たんです。気になって挨拶したらお休みだって」
ヒューッとすかさず囃し立てるアストロを叱り付けながら、コレットは「そうなんだ」と答える。就任して三週間ほどが経つが、それまで欠席者が出たことはなかったので、初めての欠員になんだか気持ちは落ち着かない。
昨日までの様子を思い返しても、特にノエルに変わった様子は無かったように思うから、流行りの風か何かに掛かったのだろうか?
(長引かないと良いけど……)
ぼけっと頭の隅で考えながら一日を終えたコレットを現実に引き戻したのは、いつもパワフルな彼の一声。
「クライン先生!」
「ひょいっ!?」
ルミナス・アーベルは何故いつも声がこんなに大きいのか。一説では魔獣と格闘するうちに自身の聴覚がイカれたという説も生徒間では出回っているようだが、ちょっと今なら信じられる。
コレットは驚いた拍子の手から落としたペンケースを拾い上げて、アーベルの方を向いた。
「どうしましたか?」
「しおり、配ってくれましたか?」
「あぁー!はい、今朝の帰りの会の際に全員に配りましたよ。今日欠席してた生徒には明日以降に渡す予定です」
「ダメですね」
「え?」
「それは不平等でしょう。みんな、サマーキャンプを楽しみにしているんです。心を燃やしているんです。その真剣な思いに応えるのが教師の使命ではないですか?」
「………はい?」
いつも以上にわけが分からないアーベルの力説に頭を悩ましていると、コレットの肩に大きな手が置かれる。そのまま前後に揺さぶられると、頭の芯までぐわんぐわんと響く気がした。
「欠席者のお家にも届けてやってください。病床に居てもサマーキャンプのしおりを読めば生きる活力が漲ります」
「そんな……脳筋みたいな……」
「考えてみてください、クライン先生。自分が寝込んでいる間に他の参加者はキャンプの詳細を知っているんですよ。これは立派なイジメです」
「…………、」
もはやそれ以上の口論を展開する気力は無かったので、コレットは力無く頷いて、その足で職員室へと引き返した。鞄から分厚いファイルを取り出して、ノエルの住所を調べてみる。
アーベルのとんでも持論が正しいとは微塵も思わないけれど、自分のクラスの生徒の病状が気になる気持ちはある。
特に、ノエル・ブライスという謎の多い生徒について、コレットは知りたいと思っていた。今まで散々コレットのことを「甘い」だの何だのと評していた彼が、どんな顔で寝込んでいるのか興味を持ったのだ。
(………この住所って、)
パタンとファイルを閉じると鞄を手に取る。
退勤の挨拶をしてコレットは職員室を後にした。
◇おしらせ
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