魔法学校のポンコツ先生は死に戻りの人生を謳歌したい

おのまとぺ

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第二章 夏の宴と死者の森

36 オタビオ・ブライス



 プリンシパル王立魔法学校はセレスティア王国最大かつ最難関の魔法学校であり、王国中から高い志を持った生徒たちが集まる。

 したがって、遠方から通う生徒のために校舎の裏手には学生寮が設けられていた。存在自体耳にしたことはあったが、ミナやバロンをはじめとするクラスの生徒はみんな自宅から通っている者ばかりだったので、実際に足を踏み入れるのは初めてのこと。

 近付いてみると、随分と年季の入った建物はところどころヒビが入っており、外壁にはつたが絡まっている。魔法学校の学生寮としては雰囲気満点。


「あのー………」

 入り口を入ってすぐ、管理人室と書かれた看板を見つけてガラス窓を叩いてみると、長い白髪を後ろで一つに束ねた老人が顔を覗かせた。

「はいはい。どうしましたかな?」

「あ、私、プリンシパルの教師をしているコレット・クラインと申します。こちらにノエル・ブライスくんが在籍していると伺ったのですが……」

「ノエル……? あぁ、ノエルくんか!」

 パァッと顔を輝かせると男は嬉しそうにニコニコと笑みを浮かべて「それでノエルくんがどうしましたか?」と聞いた。

 アニアの話では、確か今朝はノエルの保護者が体調不良を伝えに来たと聞く。学生寮に入っている彼の保護者がこんな場所まで来れるはずがないので、保護者とは管理人のことだろうか?

「えっと、ノエルくんは今日体調が優れないということでお休みされてますよね?お渡ししたいものがあるので持って来たんですが、どうすれば良いですか?お部屋の前まで伺っても……?」

 コレットの言葉に、管理人は慌てたように手を振って管理人室から飛び出して来た。先ほどの笑顔は何処へやら、やけに取り乱した顔をしている。


「それはなりません!ノエルくんは……咳が!咳が酷いのです!先生が部屋に近付くと菌をもらってしまう可能性がある……!」

 必死な形相で説得されると、無理矢理に押し切ることでもないので、コレットは大人しく引き下がることにした。

 何気なく目を向けた先に掛かっていた男の名札を見て目を見張る。なんとそこには「オタビオ・ブライス」と記されていたのだ。

「あ、え? 管理人さんはノエルくんのご家族でいらっしゃるのですか?」

「ほえ?」

 老人もまた目を丸くして名札を見下ろす。
 すぐにハッとした顔でブンブンと頷いて見せた。

「いかにも……!私はノエルくんと家族の関係にあると伝えるよう……いえ、家族の関係にあるのです。正真正銘の、家族です!」

 ふんっと男の鼻の穴が膨らむ。やや興奮した様子を見てコレットは「変な質問をしてしまったかしら」と内心反省した。だけど、同じ苗字でも他人という可能性もあったので念のための確認だ。

 父親にしては年齢がかなり上なので、男はノエルの祖父にあたる人物なのだろうか?

 老いていることも原因かもしれないが、目の前に立つ老人とノエルの間に共通点は見つけられない。家族の形は人それぞれなので立ち入らない方が良い、と決断を下してコレットはサマーキャンプのしおりを預けた。

 再び笑顔に戻った男は人の良さそうな顔でコレットに向き直る。「それではまた」と頭を下げると、管理人も軽く会釈を返した。


「殿下も明日には登校なさると思いますので!」

「………殿下?」

 奇妙な言い間違いにコレットは思わず聞き返す。
 男は真っ青な顔で盛大に咽せた。

「ま、間違えました!天気です!天気が良ければと言いたかったのですが、長年王宮で仕えておりましたので身に染み付いた言葉がつい……」

「あぁ、なるほど」

 言われてみれば、ピンと伸びた背筋に丁寧な物腰からは上品さが感じられる。王宮で働くような人が第二の仕事として魔法学校の寮の管理人を選ぶのは驚きだったが、きっと何かしらの理由があるのだろう。

 何度目かの挨拶を済ませると、赤く染まった空を見上げてコレットは歩き出す。全員揃った生徒たちの姿が早く見られれば、と静かに願った。


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