魔法学校のポンコツ先生は死に戻りの人生を謳歌したい

おのまとぺ

文字の大きさ
41 / 105
第二章 夏の宴と死者の森

37 辺境への誘い



「それで何で落ち込んでるの?最終日にはクラスの全員が揃ったわけでしょう?」

 テーブルの上に顎を乗せてダラけた表情を浮かべるコレットを見下ろして、呆れたようにレイチェルが言う。その背後では昼時ということでテーブルの空きを求めて生徒たちが立ち往生していた。

 今日は魔法学校の夏休み前最後の日。

 寝込んでいたノエルも翌日には変わらぬ顔を見せてくれたので、コレットは安堵した。夏休みの課題の告知も終えたし、サマーキャンプのしおりも配ったしで、もうやるべきことは完了。

 最終日ぐらいは、と学食にレイチェルを誘ったのはコレットの方で、少食な養護教諭も珍しく提案に乗ってくれて今に至る。


「だってもう三日も経てばサマーキャンプが始まるのよ?世間は夏真っ盛りなのに私たちは極地の極寒へ行くなんて……」

「良いじゃない。アイスでも食べて来なさいよ」

「冗談じゃないの!」

 とはいえ、いつまでもこんなダラけた顔を晒していてはまた副校長マルティーナ・プッチに見つかって罰を喰らってしまう。

 レイチェルは涼しい顔で、頼んだ冷製パスタをくるくるとフォークに巻いている。コレットはその肩越しに一年一組のメンバーを発見した。ミナとバロン、少し離れて後ろを歩くのはノエルにアニアだ。

 先頭に立っていたミナが視線に気付いたのかこちらに向かってブンブン手を振る。コレットもまた軽く振り返してみた。

「生徒?」

「うん。クラスの子たち。ああやって食堂で見掛けて反応してくれるのって新鮮ね」

「そう?いつものことじゃない?」

「レイチェルにとってはそうかもしれないけど、私からしたら凄いことなのよ。座って話を聞いてくれるだけでも感謝なのに」

 それらは、一度目の人生では叶わなかったこと。

 ダメな教師は尊敬されない。「教師」として指示を仰ぐに値しないと評価された人間は、生徒たちから信頼を得ることも出来ない。仲良くなったり、慕われるなんてもってのほか。

 死に戻りの二度目の今は、順調に進んでいると思う。ミスも少ないし、完璧ではないにしても生徒の前で教師らしい姿を見せられているはず。


「あ、そうそう」

 何かを思い出したようなレイチェルの声音につられて顔を上げる。美しい友人は脚を組み替えてコレットの方を見た。

「来月の初旬って空いてる?」

「なんで?」

「以前話した同期の友人に会いに行こうと思って。今は結婚して辺境に住んでるそうでね、旅行がてら良かったら一緒にどう?」

 聞けば、レイチェルの魔法学校時代の友人であるアルバート・シモンズという男は、魔法薬学の教師を辞めた後、出身である山岳地帯に引っ越したらしい。ペルケマリアと呼ばれるその一帯は急斜面を超えた先にある高度の高い場所で、コレットも未だに訪れたことはない。

 山岳地帯、と聞いてアーベルとの雪山遭難を思い出したため渋い顔をしてしまう。それを見てレイチェルはニコッと美しい笑顔を見せた。


「アルバートは学者であり、辺境伯なの。あの辺りは王都では取れない珍しい食材も豊富だし、何泊かしたら毎日ご馳走がいただけるかも」

「えっ、本当!?」

「ええ。行ってみない?」

 気付けばコレットは大きく首を縦に振っていた。
 どうせ夏休みの予定などサマーキャンプ以外に何もないのだ。このまま部屋でダラダラ過ごすのも勿体無いし、アルバートと呼ばれる男性から辺境の話も聞いてみたい。

 こうして、コレットの夏休みに二つ目のスケジュールが組み込まれた。先ずは四日後に迫ったマゼンタスでのサマーキャンプ。

 教師らしく、冷静かつ機敏な姿を見せなければ。



感想 5

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。