魔法学校のポンコツ先生は死に戻りの人生を謳歌したい

おのまとぺ

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第二章 夏の宴と死者の森

39 マゼンタス2



「はいっ!じゃあ次は私!魔法道具学のクロイツ先生のモノマネをしてね…… アストロが!」

 クイーンの絵柄が入ったトランプを高々と掲げてミナが叫ぶ。指名されたアストロ・ファッジは悔しそうに口元を歪めて立ち上がった。

「ッハァ~イ!かわいこちゃんたち~~!!」

「ぶはっ!最高!」

「んふふっ」

 吹き出すミナとアニアの隣で本を読んでいたバロンが眉間に皺を寄せて顔を上げる。

「おい、うるさいぞ君たち。ノエルを見習ってみんな外でも眺めてろよ。これじゃあ、まるで幼稚園児の遠足みたいじゃないか」

「アァ~ン!堅物眼鏡!」

「アストロ、調子に乗るな。君がノエルに負けて気絶したって話をここで大声でしようか?」

「お前地味に嫌なヤツだな…… それに気絶したのはコレット先生だって一緒だぞ!先生なんて魔力ゼロなのに一人で果敢に挑んで、」

「ねぇ、聞こえてますけど!?」

 御涙頂戴のように芝居調に話して聞かせるアストロの方を向いてコレットはくわっと吠える。初めての校外学習ということで一年一組のメンバーも浮かれているようだ。バスの中は騒がしい。

 ふと目を逸らすとコレットの後方、窓際の席にはノエルが座っていた。いつも通り外を眺める彼の顔色は心なしか悪く見える。コレットはシートの隙間からノエルの名前を呼んでみた。


「ノエルくん」

「………なんですか?」

 思春期真っ盛りのような無愛想な返事。
 めげずになんとか笑顔を作る。

「大丈夫?なんだか気分が悪そうだったから。乗り物酔いだったら、私良いものを持ってるのよ」

「良いもの?」

 首を傾げるノエルをちょいちょいと手招いて、その膝の上に飴玉の袋を載せた。長時間の移動なので色々と持って来たけれど、パッと出せる場所に入れていてよかった。

「みんな大好きイチゴ味と変わり種で二日目のカレー味!面白そうだから買ってみたんだけど、また感想を教えてね」

「………イチゴの方だけ貰います」

 そう言ってコレットに茶色い包みを返すノエルの口元が、わずかに笑っているような気がした。しかし、よくよく見ようと目を凝らしたタイミングで別の生徒からお声が掛かってしまう。

 一年一組からの参加者五人に加えて、一年はアーベルのクラスから二人、魔法薬学のピクシー・ベルーガが受け持つクラスからも二人の参加者が居る。ノリの良さそうなベルーガ本人には念のため声を掛けてみたけれど「考えておくわ~!」という答えをいただいたきりで現在に至る。



「クライン先生!」

「うわっ!?」

 突然背後から声を掛けられて飛び上がると、引率者のアーベルがしおりを片手に立っていた。

「毎度そんなに驚かんでください。今日はまだ一日目ですし、到着したらすぐ日没です。軽くレクリエーションでも交えて、メンバーの交流会としようじゃありませんか!」

「そ、そうですね……」

「ちなみに先生、お酒の方は?」

「えっ?」

 聞き返すコレットの前でアーベルはクイッとグラスを傾ける所作をして見せる。酒を嗜むかどうかという質問なのだろう。

「あー……あまり強くは、」

「それは良いですね!酒は大人のコミュニケーションに必須!クライン先生がイケる口なら、このアーベル、秘伝の酔拳を披露しましょう!」

 食い気味な返答にコレットはまた押し黙る。

 今ならば分かる。いや、本当はくじを引いた時から分かっていたこと。これはきっと所謂ハズレくじというものだ。ただでさえ面倒なサマーキャンプの引率という役割に加えて、このメンバー。

 喋り続けるアーベルの隣で適当に相槌を打っていたら、ガタンと大きく揺れてバスが停車した。窓の外に目を向ければ、木造の小さな家が目に入る。どう見ても民家のようなその外見に、コレットはアーベルを振り返った。

「あの、ここって……?」

「一棟まるまる貸切です!」

「へ?」

「少数人で部屋を区切ってはつまらない!部屋の壁は心の壁ですよ。もっとオープンに仲良くしようじゃありませんか!家族みたいに!」

 呆気に取られるコレットを放置して、アーベルは荷物を抱えてバスから降りて行く。その後を追う生徒たちを眺めながら、とんでもない心労の気配を感じた。

 最後まで残ったアニアとミナを急かしつつ、コレットは視線を泳がせる。そして、すでに建物の入り口まで進んだアーベルの隣に立つ人物を見た。

 艶やかな黒髪に、ひょろりと伸びた背丈。
 汗だくのアーベルと正反対の涼しげな目元。


「………リンレイ先生?」

 そこに居たのは、つい先月まで臨時で魔法史を受け持っていたシン・リンレイだった。

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